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双禍の朝廷  作者: 借屍還魂
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強かな女性

 朱修容は反省したのか、お見合いの話題を口に出すことはやめた。そして、皇后様、陛下、四夫人を交えた談笑が始まったのだが、依然として私の両手は、朱修容に握られたままだった。

「伯璃。この装飾品は何だ?」

「はい。これは外、西の国から入ってきたものですね。透けるような細工が人気の品です」

 朱修容がいる前で陛下を試し続ける訳にはいかないが、陛下の時間は有限。結果、四夫人たちが考えたのは、普段とは違う面子を交えて美術品や装飾品の話をすることで陛下に女性への贈り物の知識を付けることだった。

「まあ、喰家の姫君は詳しいのね。このようなものがお好きなの?」

「いえ、以前、兄に見せて貰ったことがあるだけですので、詳しい訳では……」

 四夫人が選りすぐりの品を見せる。陛下が私か、他の誰かに解説を聞く。その繰り返しなのだが、私が答えるたびに朱修容が話に入ってくるのだ。私は唯一後宮に所属していないので、輪から外れないように話題を振るのならばわかる。だが、朱修容がしているのは、私の趣味趣向の情報収集だった。出来るだけ目を合わせたくない。

「伯璃」

「姫君」

 四夫人も、度が過ぎている訳ではないので止めるに止められないのか、それとも私一人が大変なだけで自分に被害が及ばないから手を出さないのか。二人に交互に名を呼ばれ、段々と疲弊してくる。

「頓宝林。茶を用意なさい」

「はい賢妃様。茶菓子はいかがいたしますか?」

「……そうね、少し待ってもらえるかしら」

 疲労が限界を超える直前、賢妃様が黎明に声を掛けた。黎明がお茶を持ってきたら休憩になるだろう、と内心ほっと息を吐く。賢妃様は周囲を少し見渡し、黎明に指示を出す。かなり細かい指示があったのだろうか。黎明が動き出すまで、少し時間がかかった。

「それでお願いするわ」

「仰せのままに」

 部屋から出ていく黎明の後姿を見送る。陛下が何とも言えない表情で黎明を見ていた。頓家の血を存分に発揮している者同士、粛々とした態度を取っている相手を見るのが気持ち悪いのだろう。

「あやつ、あんな殊勝な態度ができたのか……」

「ある程度の礼儀作法ができなければ、幾ら名家でも後宮には入れませんよ……」

 小声で私に耳打ちする陛下に呆れた声で返す。逆を言えば、その場を取り繕うだけの礼儀作法さえできれば後は家の力でどうにでもなるので、礼儀作法だけは完璧に身に着けているのだろう。

「それにしても陛下、どうするつもりですか?」

「何がだ?」

「この態度、朱家から正式に喰家に見合いの打診が来る可能性もあります。本邸に知らせが来たらどうとでもなりますけど、別邸の親族に話が行くと面倒なことになる可能性があります」

 本邸は私と静しかいない。断るのも、一回だけ見合いをするのも何とでもなる。が、別邸に使者が行くと面倒だ。嫡男は将軍、妹は修容と着実に影響力を増しており、且つ歴史も浅くない名門朱家。繋がりを持っておこうとして勝手な返事をされる可能性がある。

「……魄啾が当主であろう。何とかせよ」

「何とかなる気がしないから陛下に聞いているのです」

 最終手段となるが、貴族が力をつけすぎないように、という事で陛下から婚姻に口出しができない訳ではない。反感は買うだろうが。そんな大事にするのが嫌なら、今のうちに朱修容が諦めるよう、言葉を掛けてくれ、と言外に訴える。

「仕方あるまい。……朱修容」

「はい、陛下。いかがなさいましたか?」

「その、だな……」

 深いため息を吐いた後、陛下が朱修容に話しかける。すると、何故名前を呼ばれたのか、本当にわかっていないのだろう。朱修容はこてん、と首を傾げ、陛下を見上げた。その庇護欲をそそる表情に罪悪感が刺激されたのか、陛下が言葉に詰まった。

「はい?」

「あの……」

「お待たせいたしました。お茶を持ってまいりました」

 中々言いだせないまま、黎明が戻ってきてしまった。黎明に差し出された盆から一つお茶を取る。特徴的な香りと色。甘露茶である。かなり値が張るが、そんなものがあっさりと出てくるのは流石は後宮と言った所か。

「……いつの間に。随分手際がいいのね」

「どうもありがとう」

「あら気が利くわね」

「ありがとうございます!」

「……まあ飲めはするかしら」

「うむ、そこそこうまいぞ」

 三者三様の反応を返す。素直にお礼を言ったり、若干上から目線だったりするので、力関係や立場がわかって面白い。意外と緊張していたのか、喉が渇いていることを自覚すると一気に飲みたくなってしまうが、今は喰家の娘として呼ばれているので下手な真似はできない。

「…………」

 仕方がない。と少しずつ、何度にも分けて飲み、喉を潤す。比較的一方的に話続けていた朱修容や、夫人たちに責め立てられていた陛下も喉が渇いていたようで、先程までの喧騒は嘘だったかのように全員無言でお茶を飲む。

「…………陛下」

「なんだ?」

 一人、二人とお茶を飲み終わり、全員が飲み終わっても、誰も口を開けず、沈黙が流れる。が、皇后様が陛下に呼びかけた。

「そろそろ、喰家の姫君は帰さないと、時間が遅くなるのではないですか?」

「む?ああ、そうだったな。日が暮れると良くない」

 実質的なお開き宣言である。陛下は一瞬、まだ時間は十分にあるだろう、という表情をしていたが、一般的には女性は日が傾く頃には家から出ないものである。確実に普段の退朝時間と比較している。

「喰家の姫君、お帰りの車は用意されているのですか?」

 皇后様が促してくれたところだし、今のうちに帰ろう。そう思い、それぞれに挨拶をしてから立ち上がると、朱修容が心配そうな顔で尋ねてきた。

「はい。陛下が迎えに寄越してくれた車に、侍女を待たせています」

「そうですか……」

 もし、帰りの手段が無いと言ったら、兄の車で送らせます、と言うつもりだったのだろうか。油断ならない相手である。何も言わずに帰るつもりだったが、これは念には念を入れておいた方がいいかもしれない。

「朱修容様。何かあれば、私も兄も本邸で暮らしておりますから、ご連絡くださいませ」

「ええ、是非!!」

 これでは一度は見合いをする、と答えているようなものだが、別邸に話を持って行かれるよりマシである。淑女らしく、ゆっくりと部屋を出て、廊下に人気が無い事を確認してから深いため息を吐いたのだった。


 そんな、予想外の交流から一夜明けた朝。朱家の本邸から、早馬が届き、慌てた様子の静に叩き起こされることになったのだった。


次回更新は11月22日17時予定です。

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