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双禍の朝廷  作者: 借屍還魂
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証拠の二面性

普通、後宮には積極的に女性を入れますが、四家はそんなことをしなくてもある程度の権益が保障されている為、最近はあまり積極的ではないようです。

理由としては、皇家よりも他の家とつながりを持ち、最終的に吸収合併する方が効果的に家を強くできることが挙げられます。

 細充媛が見つめていた方向に進んでいくと、控室や荷物置き場として利用されているのだろうか、建物のある区画に辿り着いた。

「順番に調べるしかないかな」

 黎明がわかりやすく物音を立てるなり、声を出すなりしてくれない限り、私には内部の状況を窺う術はない。黎明が見つかるまで、順番に部屋を見ていくしかないだろう。ただ、完全に部外者なので気付かれない様に、気配を消しておく必要はある。

「此処まで広いと、反対側で物音がしても気付かないかな……」

 簡単な造りとは言え、後宮の建物はどれも頑丈に作られている。壁も厚いので余程近くにいない限りは強く壁を叩いても周囲迄聞こえることはないだろう。後宮と言う場所を考えると、個人情報を守るためにも音を漏らさないことは重要なのかもしれないが、何事も一長一短、この状況下では裏目に出ている。

「黎明が一人で……何とかなるといいけど」

 後宮絡みの問題の場合、黎明は一人で解決できる。黎明の桃色の髪は頓家独自のもの。皇帝との結びつきの強さを示すものでもある。余程、現在の後宮で権力を握っている相手でもない限り、髪の毛を見ただけで言う事を聞かせられるだろう。

「逆に、頓家は政治参入に全く意欲的ではないから、予想通りの人が犯人なら黎明だけでは対処できない」

 四家のうち、頓家は政治に関わりたがらない。面倒事が嫌いな家なので、皇帝に定期的に娘を嫁がせることで結びつきを一定に守り、今迄の権利や財を保証してもらえるなら上は目指さない、という方針なのだ。なので、後宮以外に関しての権利は全く持っていない。相手が朝廷官吏の場合、打つ手なしという事だ。

「その辺りを把握しているから、今の時期に動いたのかな」

 現在、頓家は黎明以外を後宮に入れていない。唯一いる黎明も、あくまで女官と言う立場。数代前からは血を薄める方向性で動いているので、現在の後宮は最も頓家の影響が少ない時期になっているといえる。

「うちも、分家の娘を入れるかどうか判断中、躳家は入れる気がない」

 そして、他の四家。喰家は元々、私が後宮に行くという話があったが伯璃は無理と言うことになっているので、直系の娘は後宮にいない。そもそも、喰家は人数が少ないので余裕がない。躳家は三兄弟が全員出仕する予定なので、朝廷側で貢献する代わりに後宮は関わらないつもりの筈だ。躳家と頓家は関わりが多いので敵対しない意思表示だろう。

「四家がいないなら、機会があると考えてもおかしくはない、か……」

 この国において、皇家と四家の影響力はけた違いだ。が、他の名家と呼ばれる家は結構入れ替わりがある。淑家だって、三代前までは弱小貴族だったりする。時機を見て動いたからこそ、現在の権力を手にしているのだ。

「でも、四家がいない間に権力を持とうとするまでは良いけど……」

 四家を陥れて、権力を持とうとしたことが、細中書省の失敗である。それも、四家の内の二つを同時に相手取ろうとしたのが最大の失敗。その二つの家は、残りの一つとも関係が深いというのに。

「せめて、もう少し時期をずらしたら楽に立ち回れただろうに……」

 が、お蔭でこっちは一気に吊るし上げることができる。余罪は多い方が、大量の金銭と適当な理由で逃げられずに済むのだ。そろそろ真面目に探すか、と、まずは最初の部屋の扉から僅かに中を見る。誰もいない。次の部屋も見る、いない。

「この辺りにはいないかな」

 何個か部屋を開けてみたが、中には人がいないどころか物も置かれていない。反対側から探した方が良かったかもしれないな、と立ち止まって考えていると、どさ、と何かが地面に落ちたような音が、少し離れた場所でした。

「……あっちか」

 その方向を確認して、足を動かす直前、もう一度どさ、と音がした。音からして、かなり重たいものだ。それこそ、成人男性位の。

「うーん……」

 そして、僅かに聞こえる、唸るような考えている声。その声はとても聞き覚えてのあるものである。そして、声の発生源が予想通りなら、先程の音の予想もできる。取り敢えず、私は急いで音がした方向に歩くことにした。

「はてさてどうしよっかぁー」

 走っていくと、曲がり角を曲がった辺りから、黎明の間の抜けた声がした。そっと様子を伺うと、地面には倒れた二人の武官。先程の音は黎明にこの武官が倒されて、地面に崩れ落ちた音だろう。取り敢えず、話を聞こうと角から出ると、黎明が振り返り、言った。

「……落ちてたぁ」

 何が。思わず口に出して聞きたいほど、突拍子もない言葉が出てきたので驚いた。困惑する私にはお構いなしに、黎明はうーん、と再び唸って何事かを考え始めた。面倒事じゃないといいのだけど。

 そんなことを考えていると、黎明は倒れている二人を指し示し、良い笑顔で言った。

「はーちゃん、状況証拠!」

 眉間に皺が寄ったのが、自分でも分かった。きちんと口で説明しなさい、と昔から何度も見って聞かせている筈なのに、どうして黎明はいつも言葉が足りないのだろうか。

 私が来て嬉しそうな表情をし、状況証拠、と倒れた男を指さして言う。恐らく、この武官が何かしらの悪事を働いていた証拠になるから、上手く使ってほしい、と言いたいのだとは思う。

「……何方の?」

「……どっちの、って?」

 一応確認は取っておこうと思い、黎明に質問をすると鸚鵡返しをされて頭痛がした。何故、自分の言いたいことは言葉にしなくても伝わると考える癖に、他人から言われた時は考えようとしないのか。

「黎明が武官二人昏倒させた任務妨害の状況証拠なのか、武官が悪事を働いてた状況証拠なのかを確認してる」

「ほえ?」

 どうやら、この状況は、黎明にとって不利になることある、ということを全く理解していなかったらしい。指をさして一つずつ説明してやると、漸く理解したのか、ぽん、と手を打った。

「なるほど、私の犯罪現場にも見えますなぁ」

「何方の証拠としても使えるからね」

 少し考えるそぶりを見せてから、黎明は此方を見上げてきた。何か、頼みごとをしたい時の顔だ。結構不味い事をやらかした自覚が出てきて、この状況をどうしようかと焦り始めたのだろう。

「はーちゃんごめん、もみ消せる?」

「都合良く他人を動かせると思う?」

 あっさりと言う。自分では対処できない事態は相談しなさい、とはよく雅亮兄さんが言っていたものの、後宮で、自分の力が及ばないようなことが簡単にできるとでも思っているのだろうか。そろそろ、もう少し考えてから行動することを習慣づけさせた方がいいかもしれないと思い、今回は甘やかさないことにする。

「………ソンナコト無いヨぉ、信ジテ」

「きちんと話しなさい。黎明」

 いつもとは違い、すぐには頷かないでいると、何かしらを感じ取ったのだろう。必死に目を合わせないようにし始めた。

「……」

「目を見なさい」

「…………」

「黎明」

「………………」

「くだらないことはやめなさい」

 暫く待ってみたものの、一向に此方を見る気配はない。このまま有耶無耶にすれば、結局私が何とかしてくれるだろう、とか甘いことを考えているのだろう。そうはいかない。

「……………………」

「分かった」

「誠に申し訳ございませんでした」

「何が悪かったのか具体的に言ってみなさい」

 無言でこの場を立ち去ろうとすると、黎明は諦めたのか頭を下げて状況説明と、自分の事情、そして今後の予定を口にしたのだった。


次回更新は7月26日17時予定です。

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