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双禍の朝廷  作者: 借屍還魂
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朝廷という場所

 朝廷とは、国の中央行政機関である。


 四つの帝国に囲まれてできた陽国も、周囲の国の制度を参考にして皇帝を中心として政を行うための朝廷を作った。朝廷に勤めている官吏は、当然人より優れた能力が求められる。優秀な人材を集めるために、貴族だけでなく一般市民からも科挙という試験を用いて人材を登用している。

 優秀な人材に対して広く門戸を開いている朝廷だが、一つだけ不変の法がある。原則として、政とは男が行うもの、という法である。


 そんな中、名門(さん)家の長女である私、喰伯璃(はくり)は、魄啾(はくしゅう)という偽名まで用意して朝廷で働いていた。理由は単純で、現皇帝、陽飛輪(ひりん)に朝廷の人材不足を訴えられたからである。

「……性別は伏せる。男としての戸籍も用意する。だから頼む、出仕してくれ」

「陛下、政とは男性が行うものですし、私は出仕するような歳ではありません」

「今から勉強してくれという事だ。直接何か決定を下すような役職にはしない。頼む、人手不足なんだ……」

 そう頼まれたのが、陛下が即位間もない二十五歳、私が八歳になったばかりの時だった。この国の貴族男性は将来出仕することになる。その為の勉学を始めるのは大抵四歳からだ。名家に生まれた私は、そこらの男に負けないように教育されていたので、不可能ではない話だった。

「お父様がいるではないですか」

「人材は幾らいても足りないものだ」

 当時は、父も朝廷に出仕していたし、幼馴染たちも将来出仕することを知っていたので、全く興味がないわけではなかった。

「……無理だと思います」

「できる間だけでもいい」

「……わかりました」

 そうして、根負けした私は陛下の意向に沿って官吏になるべく勉強を始めた。即位して暫くすれば、人材が集まって話が無かったことになると思いながら。

「……どうしてだろう」

 そして、今。初出仕である十四歳から四年経ち、私は男顔負けの出世街道をひた走っていた。現在の職は秘書省という、宮中の図書館管理や印鑑を管理する部署の二番手、秘書少監や蘭台侍郎と呼ばれる立ち位置である。

「私以外はいないみたいだし……」

 陛下の口ぶりからして、将来性のある人材には声を掛けて言っているものだと思っていのだけれど、同じく名門四家の一角で従妹、(とん)家の黎明(れいめい)は女官として後宮に入っているらしい。妃嬪でもなく、官吏でもない。そこに疑問はあるものの、一番思う事は別だ。

「人材不足は、一人で解消できるものではないんだよね……」

 私一人が朝廷に来たところで、大きく変わることは無い。とはいえ、少しは手伝いになっているのだから、愚痴を言っていてもしょうがない。


 私の仕事は、秘書少監、蘭台侍郎。個人的には蘭台侍郎の方が発音し易いので気に入っている。蘭台侍郎の役職は二人ほど枠があるので、同僚もいる。科挙で三位という好成績を修めて入朝した王さんという人だ。

「最初は大分睨まれたけれど……」

 名家出身の場合、試験を受けずに貴族入朝もできる。当然、陛下に声を掛けられた私は貴族入朝だ。実力があっても入朝できないほど倍率の高い科挙を潜り抜けた王さんにとって、楽して入ってきた若造は気に食わなかっただろう。

「今は、良い関係だとおもうけれど」

 取り持ってくれたのは、秘書省のトップ、秘書監の張さんだ。四家ほどの名家ではないものの、名門貴族の出で、おっとりとした性格の人である。

「仕事の配分が上手なんだよね」

 同僚である王さんは、書類や情報の整理が得意だ。なので、始めは各部署から持ってこられる書類を分類し、後々必要となるであろう資料を準備する仕事をしていた。

 一方で私は、記憶することが得意だ。なので、入朝して間もないのに、朝廷の高官たちが話し合いをする会議に連れていかれ、書記の仕事を任されていた。

「お互いに良い所を知って、協力することが重要だって思ったんだよね」

 私は書記として書いた朝議の記録を渡す、彼はその記録をもとに仕事をする。次第にお互いの評価が高まり、信頼関係を構築したという事だ。

「今は、どちらかというと外部が問題だよね」

 私達の一番の仕事は図書一般の管理だ。そんな中、どうしても起こる問題として、必要な時に必要な書物が返ってこない、というものがある。

「喰蘭台侍郎!礼部に貸し出した前年度予算が返ってきていません」

「今から確認しに行きます」

 そういう時に、きちんと本の所在を確認したりすることも、私の仕事である。小さく息を吐いて、礼部に向かうべく扉を開けた。


此処までが第一話となります。

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