幸せ
高梨はこの高校で一番頭が良い。今日も人一倍の勉強を求めてか、教科書なんて使っていないのにずっと教科書を広げて何かをしている。どこか面白くない気持ちで見つめては、「授業中は先生の話を聞くことが一番やで」と頭の中で投げかけてみても、一位という圧倒的な壁に跳ね返される。
「109ページを開いて、問3をやってください」
先生の声に合わせて周りの生徒が問題を解き始める。僕も一応問題は見てみるが、やはりバカには解けない。すると高梨が
「先生、この問題教えてください」
と尋ねる。その問題は授業で触れていないから、解説は黒板の隅の方で小さく書かれていく。高梨に目を向けると、わからないことを聞いているはずなのに妙に清々しい顔をしている。そんな顔をこれ以上は見てしまわないように、手と机でつくった小さな世界に顔を埋めていく。
僕は高校生活の中で好きなことを見つけた。結局、席次は高梨が一位をとり続けたらしいけど、そんなことはどうでも良くなるくらいに好きなことで一位になった。顔をうずくめた小さな世界で、ずっとずっと一位になった。