プロローグ
「ししし・・・」
癖の強い黒髪。真っ赤な目。捻じれた二本の角。背中からは蝙蝠のような羽が一対生えている。
水着のような黒い服を着た女は、ニヤリと笑った。彼女は今黒い木製のデスクの前に立っている。今この部屋には彼女以外に誰も居らず、廊下側についた窓の外にも人影1つない。デスクの上には乱雑に書類が詰まれ、少し小突いたらデスクの上から滑り落ちそうだ。隅に置かれたカップにはコーヒーが乾いて、茶色い渋のようなものがこびりついていた。
彼女はデスクの一番上の引き出しを開けた。中には筆記用具やお菓子がぐちゃぐちゃに入っている。あまり面白そうなものは無い。お菓子を1つとって包み紙を開け、口に放り込んだ。次。
次の引き出しには、小銭と書類が入っていた。書類をパラパラとめくって見てみたが、何のことは無い、経費申請書や有給申請書などのつまらない書類ばかりだった。次。
最後の一番大きな引き出しを開けると、大きなファイルが7冊入っていた。彼女の瞳がキラキラ輝いた。7冊の内、1冊だけ取り出してみる。黒い革製のカバーに、銀の唐草模様。ちょっとした図鑑くらい分厚いそれは、ずっしりと重い。——これだ。
彼女は肩に引っ提げていた鞄に、そのファイルを次々に突っ込んでいった。だがどれだけ無理に押し込もうとも、一冊だけどうしても入りきらない。仕方なくその一冊は両腕でしっかりと抱えて、彼女はそろりそろりと部屋から出ていった。