第十一話 “封印術師”
「〈業炎砲火〉……!」
顔を竜へと変化させ、アドルは火球を口から吐きだす。
サーウルスは放たれた炎の塊を白き盾で受ける。盾は炎を吸い込み、消失させた。
「――――!!」
「火力が足りんな……」
アドルはサーウルスの盾、その性質を見極める。
(魔力を吸収する盾か……面倒だな)
「8番、〈光竜矢〉
――解封」
サーウルスは新たに12枚の札をばら撒き、その全てを光の矢に変化させた。
「さっきからなんだ?
その手品は」
「封印術と云うものだ。
私は封印術師。武具も生物も実体のない魔力でさえ封印できるのだよ」
光の矢は四方に散った後、アドルに向かって収束する。
アドルは竜の翼を背中から生やし、光の矢を躱していく。
「札に武具を封じて、状況に応じて出し入れしているのか……」
光の矢がアドルを追跡する。アドルは縦横無尽の軌道で避けようとするが、光の矢は執拗に時速300㎞で動くアドルを追跡した。
「このままじゃ捕まるな……〈旋風〉」
旋風を使って飛行の速度を強化、光の矢を躱し切る。
光の矢の一撃一撃が森林を焼き焦がしていく。アドルは森林を抜け、視界の良い岩石地帯に着地する。
サーウルスは光の矢に乗り、アドルを見下ろしながら四枚の札をばら撒いた。
「9から12番、解封。
――出でよ、〈屍帝傘下・四玖夜玖〉」
四枚の札が変幻し、内から魔獣が現れる。
紅蓮の体毛を全身に纏った巨人、“髭巨人”。
半人半狼の悪魔、“人狼”。
額から角、背からは翼を生やした白馬、“一角天馬”。
両腕は黄金の翼、上半身は人間の女性。腰から下はない。ハーピーの王、“歌鳥女主”。
四匹の額にはそれぞれ文字の書きこまれた札が貼ってある。
アドルは本で蓄えた知識からサーウルスの行った術に見当をつける。
「召喚術、というやつか」
「あんな効率の悪い術と一緒にするな。
私のこれは魔物の意思を封印し、自在に操るモノ」
サーウルスが指を鳴らすと、地上から“髭巨人”と“人狼”
、空から“一角天馬”と“歌鳥女主”が迫って来た。
「支配による協調は信頼を超えた連携を作り出す。
奴らは私の奴隷――否、家畜だ。召喚獣より良く働く……」
「ちっ!」
“人狼”の突進。
アドルは両腕を竜に変化させる。
「……失せろ、犬っころ」
“人狼”の頭を掴んで地面に叩きつける。叩きつけられた地面は割れ広がった。
“髭巨人”が樹をなぎ倒しながら迫るが、速度は遅い。
アドルは上空の二匹に的を絞る。
「“加重旋風陣”……!」
上からかかる風圧で天を舞う二匹の魔物の動きを鈍らせ、竜の翼をもって“一角天馬”の方へ飛ぶ。
アドルが“一角天馬”に向けて竜の爪を構えた時、“歌鳥女主”が大きく口を開けた。
「【■■■~~■■■■~~~♪】」
“歌鳥女主”の口から出されたのは歌。
「歌?
――ッ!!?」
“歌鳥女主”から発せられた音色。それを聞いたアドルの脳は眠気に襲われた。
「眠い……!
幻術の類か――ぐっ!!!」
アドルは竜の爪で自身の脇腹をひっかき、痛みで眠気を覚ます。だが一瞬睡魔と戦った隙に“一角天馬”の角がアドルの腹を貫いた。
「……残念、一手遅かったな」
体を液状化させ、分離。角を躱す。
そのままスライムの体で“一角天馬”を包み込み、剛鉄の棘を液状化した体から生やし“一角天馬”の全身を串刺しにする。
「まず一匹」
再び口を開ける“歌鳥女主”。
アドルも“歌鳥女主”に合わせるように口を開けた。肺から喉と口を竜に変えて。
「【■――】」
「『【グゥガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!!!!!】』」
歌姫の詩を竜の咆哮で掻き消す。
竜の咆哮は空気を伝い、“歌鳥女主”の鼓膜を焼く。“歌鳥女主”が怯んだ所でシルフの風を纏い、高速で空を飛び竜の顎で“歌鳥女主”の首を食い破った。
「二匹……!」
口に付いた血を吐き捨て、正面まで迫って来ていた巨人と対峙する。
巨人の右拳が引かれる。
避けようと身構えるアドル、回避に移る0.01秒を“髭巨人”の影から現れた鎖に巻き取られた。
「巨人の死角から――!」
鎖が意思を持っているかのように器用に動き、アドルの右腕と胴体を縛る。
アドルは体をスライムに変化させようとするが――
「ッ!?」
――“魔力が、練れない!?”
鎖によって動きと魔力を封じられたアドルに“髭巨人”のアドルの全身より巨大な拳が迫る。
アドルは回避できず、殴り飛ばされた。
アドルは殴られた勢いで宙を舞いながら、体に巻き付いた鎖を右手で掴む。
「魔力を吸収――違う、封印しているのか!」
魔力を封じる、というよりは複雑な魔力操作の封殺。つまりは魔術を使えなくする性質をもった鎖。
アドルは純粋な強化の魔力で体を強化し、鎖を引きちぎる。同時にレフ火山の麓の岩壁に激突した。
“髭巨人”と“人狼”が息つく間もなく、こちらへ向かって走ってくる。
アドルはゆっくりと地面に手を付いた。
「――“剛鉄乱塔立”」
地面から剛鉄の塔を百に及ぶ数出現させていく。
対象は“髭巨人”。セレナの使った“剛鉄乱塔立”と違い、スライムの力で柔軟さを得た剛鉄の塔は先端を鋭く尖らせ、“髭巨人”を磔にした。
「あと一匹……!」
「一人、忘れていないか?」
真上からの声、反応するが間に合わない。
アドルは巨大な光の矢を頭上から全身に浴びる。だがギリギリのところで剛鉄と風の鎧を纏い、ダメージを軽減する。しかし、脳天に入ったダメージは決して小さくない。
攻撃を受けて意識が飛んだ刹那、サーウルスに懐に入られた。
「良い反応だ……」
「こ、の――野郎ッ……!」
警戒するは右手に持った〈万物を殺す剣〉。
先ほどの被弾によるダメージの自己修復までおよそ三秒、この間、形態変化が一時的にできない。スライムの体無しで数秒耐えなくてはいけない。
〈万物を殺す剣〉を警戒し、サーウルスの右手に注目する。
サーウルスはアドルの視線を読み、左手に持った盾を捨て拳を握る。
左拳によるボディブローがアドルの脇腹にめり込んだ。
「ぐっ!!?」
「――“烙印”」
殴られ、数メートルの後退。
アドルはサーウルスから距離を取り、殴られた脇腹を触る。脇腹はなんともなく、視認しても異常は生じてなかった。
サーウルスはアドルの脇腹を見て、「まだ駄目か」と呟いた。
「だいぶ魔力を削ったと思ったのだがな……底知れぬ魔力だ。
――それもそうか。貴様らの習性は魔人に似ている。
単純に喰らった者の魔力を束ねているわけではないのか」
サーウルスは隣に降り立った“人狼”の頭を掴み上げた。
「君が簡単に倒した三匹と、コイツは元々屍帝と呼ばれる人魔の手駒でね。
そこらの魔術師なら千と束ねても敵わない相手だ。
これを簡単に倒した君は、間違いなく“魔帝”の域に達してる」
「テメェと世間話する気はねぇよ」
「ならば交渉話ならどうだ?
私の手駒になれ、〈万物を喰らう者〉。
ここで私に殺されるより、長生きできるぞ。
首に縄付けて、丁重に飼ってやる」
アドルは銀色の風で、“人狼”の首を断ち切る。
サーウルスは手元に残った“人狼”の頭を投げ捨てた。
「交渉する気もねぇ。
テメェは殺す。例え明日にこの身が残らずとも」
「残念だ。
ならば死ね、魔物」
サーウルスの足元に魔法陣が展開された。
「今度は正真正銘の召喚術だ!
逃げまどえ、〈万物を喰らう者〉ッ!!!」
魔法陣から召喚されたのは数えるのも億劫な量の――札。
「これは、まずいな……!」
アドルは札がばら撒かれるのを見て瞬時に、天空へと飛び上がった。
「〈光竜矢〉
――解封」
無数の光の矢が天空へ飛んだアドルへ向かって打ち上がった。




