第一話 “イビルイーター”
「うえっ……まず」
緑色のドロドロの液体をアドルは口に運んでいた。
液体の正体は〈粘弾液魔〉の死骸。物理攻撃を無効化するレアな魔物である。無論、食用ではない。その味は腐った果物のような酸味と肉の焦げた部分のような苦味、そして想像も絶するツンとした辛味が混ざった不味さのテーマ―パークである。
「ちっ、喰えたもんじゃねぇな。〈屍人〉に匹敵する不味さだぜ」
「しっかり食えよアドル。もしかしたらお前に適合する魔物なのかもしれないんだからな」
小竜の刺身を食べながらパーティメンバーのヴァンスが言う。
アドルはヴァンスが摘まみ上げた小竜の肉を羨ましそうに眺め、
「いいよな〈竜喰らい〉は。美味しい美味しい竜の肉を食べてるだけで強くなれるんだから」
「ホントそれ。わたし、これ無理かも……」
アドルの言葉に同調したのはルース=フルゥードゥ、アドルの幼馴染である女性だ。アドルと同様に〈粘弾液魔〉をスプーンに乗せている。
「いいから喰えよ。この中で〈覚醒者〉じゃないの、アドルとお前だけなんだからさ」
「嫌……むりむりむりっ! ねちょねちょしてて気色悪い!」
金色の髪を振り乱してルースは〈粘弾液魔〉を皿に戻した。
ヴァンスは呆れながらオレの皿からスライムを素手で掬い、そのまま口を付けて吸い込んだ。
「――ん、そんなに不味くなくね?」
「本気で言ってるならすげぇわお前……」
「どうだアドル、体に変化あるか? もう300g喰ったろ?」
アドルは拳をグーパーし、試しに魔力を手のひらに集めてみるが何一つ変化は起きなかった。
「……駄目だな。不適合だ」
「これで42種類目。もうこの辺に出る魔物は全部食べたな……」
落胆するアドルとヴァンス。
彼らが居る洞穴に二人分の足音が近づく。
「その様子だとまた駄目だったみたいね」
武闘服のスリットから生足をチラつかせセレナは言う。
隣に立つ眼鏡の少年、フィルメンは愛想笑いを浮かべ、
「気にすることありませんよアドル君、僕達はどこまでも付き合いますから」
今回も駄目か、とメンバーが落胆した時だった。
「あ、あぁ……! うそぉ!!!」
ルースの声が洞穴に響いた。
ルース以外の四人もルースの腕を見て同様に驚いた顔を見せる。ルースの右腕は先ほどまで喰っていた〈粘弾液魔〉のようにドロドロした液体に変幻していたのだ。
「適合……したのか?」
「やったじゃねぇかルース!」
「物理攻撃を無効化する〈粘弾液魔〉とは……これはまた面白い能力が加わりましたね」
「なんにせよ、おめでとうルース」
喜ぶ一同に反して、ルースは泣きそうな表情を浮かべてアドルを見た。
「どうしようアドル。適合しちゃった……こんな気持ち悪いのと……!」
アドル、ルース、ヴァンス、セレナ、フィルメン。この五人は幼馴染であり、パーティを組んでいるメンバーだ。彼らは辺境の村、ルオゥグ村に住む特殊な部族の民であり、そして――
魔物を喰らい、その特性を吸収し自分の物にする〈魔物喰い〉である。