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すこしこわいはなし

作者: 最中

ある村の慣習で集まった女たちは…

 祖母の生まれた村では、毎年、稲刈りが終わってすぐのころ、「団子くらべ」という風習がありました。

とてもわかりやすい風習です。村の女手がだんごを各々作り、深夜、決められた場所に持ち寄り、だれが一番上手にできたかを決めるのです。いつ頃から、だれが始めたのか。それはわかりませんが、毎日の農作業と家事と、子育てと、多忙を極める女たちにとって、その日の夜だけは何からも解放され、自由におしゃべりしながら団子を食べられる、一種のイベントだったようです。地蔵のまえに茣蓙をしき、ろうそくと月明かりのもと、団子をたべながら談笑する…。「なんとかちゃんの団子は味がいいとか、なんとかちゃんのは柔らかすぎる」とか…。


 あの日の団子くらべは、いつもと同じように、楽しく始まりました。しばらくして、何かの話がきっかけで、集まった女のうちの一人が、主人の悪口を始めました。小さな村ですから、お互い、監視しあって生活しているようなもの。村に住む男たちへの悪口は出るわ出るわ、目の前のろうそくが大きくゆれ、笑い声が暗い広野に響いていきます。誰が誰かわからないけれども、ひときわ大きな笑い声が聞こえたその時でした。「ウッ」という、低い、ぞっとするような声が聞こえてきたのです。


 団子を詰まらせた一人の女が、それこそ団子虫のようにまるくなり、そうなったかとおもうと足をばたつかせて暴れ始めました。「ちょっと、ちょっと」、「水?水!」と、周囲の女たちは焦り、駆け寄って背中を叩こうにも当人が暴れまわるためうまくいきません。誰もが焦り、困り、慌てているうちに、喉に団子をつまらせた女は、動かなくなってしまいました。今だったら、携帯電話ですぐに救急車を呼べるでしょう。しかしあの頃は、急病人が出てから、使いのものが山をまたいで、医者を連れてこなければいけませんでした。ぼんやりとした月明かりと、ぴくりとも動かなくなった女。その場にいる誰もが、それをじっと見入ってしまっていました。


 その翌年から、村の女たちは団子くらべをしなくなった、といいます。というのも、団子くらべの日が近くなるにつれて、地蔵のあたりや畑、田んぼ、墓へ続く小道で鬼火を見たという村人、特に子どもが多くなり、最初は半信半疑だった大人たちも、とうとう、薄気味悪がって、誰も団子くらべそのものを話題にしなくなってしまいました。そのかわり、各々が家で団子を作り、明るい照明灯のもと、しずかに頬張る、という新たな慣習が生まれたということです。




呪いや祟りなどではないけれど、ちょっとゾッとするはなし。

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