現実とゲーム
「…またこのキャラ?後方支援専門だし…キャラデザも好みじゃ無い。育成するならもっと好みの子育てたいのよっ。」
課金のボタンをクリックして、もう一度10連のガチャを回す。これで何回目だろう…。それにしても今回のガチャは同じキャラが出すぎだ。
その後も何回か回したが、お目当てのキャラがなかなか来ず、私はイライラしながらパソコンを強めに閉じた。
…いつからだろう。現実に嫌気がさして、オンラインの育成ゲームにのめり込む様になったのは…。レア度の低いキャラしか来ない事にムカついた私は、ベッドに飛び乗りそのまま横になった。
(…まぁ…また時間を置いてからやろう。お目当ての紅蓮君の限定コスチューム、出るまで回すと決めたんだから。)
そう心に決め、私は目を瞑った。時刻は明け方四時を回っている。普段から不眠気味な私なのだが、連日の徹夜プレイが響いたのか、眠りに落ちるのはそう遅くはなかった…。
※
『あぁ、嫌だな。嫌いで嫌いで堪らない。』
「おい、本田。まだ頼んだ報告書出来ていないのか。お前、入社してもう半年だぞ?‥全く、なんで俺の下にはこんな使えない奴しか居ないんだ。‥せめて女なんだから、愛想くらいは良くしたらどうなんだ。」
毎回の様に自分の仕事を押し付けて、嫌味まで言ってくる部長も。
「本田さん。気に病まなくていいからね。部長があんな人だってのは、部所のみんなわかっているから。あまり深く考えたらダメよ?ね?」
表面上は良くても、裏では部長に取り入り私の悪口を流している同期のこの子も。
「サっちん〜。最近大丈夫?会社かなりブラックらしいじゃん?なんかあったらいつでも話聞くし、友達じゃん?」
心配する振りしつつ、SNS上で私のことをバカにする様な発言をしている友人も。
「なぁ、サチ。最近仕事から帰ってきたらすぐ寝てしまうじゃん…つまんねーの。」
会ったら身体ばかり求めてくるくせ、将来の事は全く考えていないコイツも。
「幸子。いつになったら孫の顔を見せてくれるの?貴方、もう三十路前なんだから、いい加減将来の事も考えなさいよね。‥まったく、親戚の人達に煩く言われるのはこっちなのよ。」
私自身じゃなくて、体裁ばかりを気にしている私の親も。
「本田幸子さん。貴方は不妊症ですね。もし、お子さんを望まれるなら根気的に治療に取り組むべきです。」
医者から告げられた絶望的な言葉も。
会社も、表面だけの付き合いの同僚や友達も、恋人も家族も全て放り出してしまいたい。
『もう‥疲れた。逃げちゃいたいよ。』
※
誰かに頬っぺたをつつかれるような感覚から、悪夢から目を覚ました。
(…んん。眩しい…。そして暖かい…?)
木漏れ日の様に暖かい光が私を照らし、思わず顔をしかめる。ゆっくりと体を起こすと、そこは見慣れた私の部屋ではなかった。確かに自分のベッドで寝ていた筈なのに、横になっていた場所には草花が広がっている。青々とした木々で辺り一面囲まれ、空気の澄んだ、美しい森林の中に私はいた。
「何…これ…まだ夢…?」
遭遇している事態に頭がついていかず、思わず呟いた。私のはずなのに、私では無い声が木霊して響く。どこか聞き覚えのある、男の子の声だ。
「お気づきになられましたか。大丈夫ですか?モンスターに襲われて、命からがら逃げ切れたと思ったのに。急に気絶されたので心配致しましたよ…。」
その声の主人を見て、私は内心悲鳴をあげる。
「上級ガーディアン‥タナトス・アルギュロス様?」
恐る恐る、彼の階級と名前であろう言葉を呟く私に、彼は信じられない言葉を放つ。
「……?貴方、何言っているんですか?私はただのスクワイアです。…メガイラ様。」