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白米

作者: 星樹 叶

投稿お試し


お友達になんか短編書くからお題頂戴といったら「白米」と言われました。

予想の斜め上でした。


楽しい話を書くつもりだったのに

楽しさとは真逆の方向性へと…なんでだろう


まだまだ文章は拙いですよね!

精進します!

一杯のご飯。

これを見る度に、私は昔を観る。

あの時、あの女が私に出した、たった一杯の白飯。

しかしどうにも、その飯に私は何かを重ねているようだ。

あかぎれ、冷えた手で、私の茶碗を包むその手を、私は忘れることが出来ない。


あれから、何年経ったのだろう。

あの日が私にとって思い出したくもない日だということは明白なのだが、同時に忘れてはいけないという一種の使命感というか、罪悪感が心の奥底の方に蠢いている。


「熱いので気をつけてください」

女の高い声がどこからともなく聞こえてくる。

ふと顔を上げると、そばにはいつもと同じ、優しげな目をした幸薄そうな割烹着姿がそこにある。

「わかっているさ」

女はまた薄く笑った。

「今日は冷えますね」

女が言う。

「あぁ。もう外には霜が降りていたね。この分ならいつもより早く雪が見れそうだ」

艶のあるご飯に雪が乗る。

女はまた、笑って、

「しかし、雪が降っては路面が凍ります。バスが止まってしまわれるのでは?」

「そうしたら、ダルマでも転がしながら歩いてゆくさ。これでも昔はかまくらやら雪兎やらを道端に並べて育ったからね」

女がクスクスと笑う。

「そうだ。雪兎といえば、二丁目の菊屋のとこの饅頭が食べたくなってきた。私が帰ってくる前に、買ってきてくれないかい」

それはいい案でございます、と、女は目を輝かせた。いくつです?と聞かれて、私はお前が食べられる分だけ買ってきなさい。と言った。私は二つでいいからと。


今思えば、確かにそれは私のせいでは無かったし、

けれど確かに、私がああ言わなければ、彼女が外に出ることは無かった。


彼女に覆いかぶさったブロック塀にこそ、この気持ちの悪い、泥のような気分をぶつけるべきなのだろうか。

それとも、あの忌まわしき地震にこそ、私は怒りをぶつけるべきなのか。


私に食べさせようと、買った饅頭を抱えたまま旅立ったお前が、

あの時お前が目の前に見たであろう雪兎が、

未だに私の後ろを離れない。


兎は潰れたまま、結局食べられずに燃やされた。

その煙を、未だに白飯の上に見るのだ。

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