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俺が異世界に行かない理由 その4


席に向かうな否や、その豪快な笑い声と微笑を浮かべる魔女が見える。ファ-ストフ-ド店に魔王とサキュバス。実にシュ-ルな光景だ。


「--はっはっ!! おお戻ったな守!! このまま戻らないかと心配したぞ!!」


「そうそう~。守君〜ワタシ達のこと~嫌いなのかな~って思っちゃった~」


俺を試しているのだろうか。魔王フォルスと魔女アモティは俺の言葉を待つ。


「そんなことありませんって! それより! 何の話してたんですか!?」


俺は咄嗟に話を切り出した。


「よ~くぞ聞いてくれた守!! 聞いてくれるか!! 我の生涯を!!」


「手短にお願いします」


魔王のことだ。凄く長い話を延々語りそうだ。


この前も自分を倒しに来た勇者達を返り討ちにしてやったなどと武勇伝を5時間くらい聞いたから。

この手短と言う言葉がちゃんと伝わったことを祈るばかりだ。


「そう切に願うな守!! 安心しろ!! 今日は直ぐに終わる!!」


「は、はぁ」


その言葉をまともに受け取ってもいいものか、俺は既に諦めム-ドだ。


「守君の~言う通りよ~。フォルスの話は~いっつも~長いんだから~。今日は~話し込んじゃ~だめよ~」


「心配するな!! 今回は我の武勇伝では無い話だ!! まあ楽にして聞くがいい!!」


いちいち声がでかい! もう慣れたけど周りのお客さんは既に退席済。残された人間は俺と先輩の奈々、それに絶対魔物の相手などしたくないと調理場に籠る海斗。


店長は--この魔物達が来てから『任せた!』と言ったっきり店に顔すら出さない。店長、心中お察しします。


「これを見ろ!!」


魔王フォルスは徐ろに何サイズかと言わんばかりの袖をあげる。


「うわぁぁ……」


そう声が出るほど痛ましい傷は手の甲辺りから肩にかけて見られる。


剛腕。まるで鉄のようなその剛皮に亀裂のように縦にある古傷。何かの事故か? それとも災害にでも巻き込まれたのか? まさか人間や魔物? いずれにしても痛々し過ぎる。


鳥肌が起こると同時に血の気が引く。


「これはな!! 勇者ユベルから受けた傷跡だ!! 奴はそれは大きなトマホ-クを担ぎ、もう片手には名剣と言われる神剣ケラヴノスを操る!! そしてこれは!! 我が体をケラヴノスから庇った時に出来た傷だ!!」


出た-! 勇者あるある! 神剣ケラヴノス。これでもかと強調する名前だ。


「そして!! これはその時斬り落とされた腕に変わって付けた義手!!」


バッと袖口を拭いもう片方の腕を見せる。薄々気づいてはいたが、まさか義手だったとは。


「ぐわっはっはっ!! あのトマホ-クの所為でこの有様よ!! --だが、我は認めんぞチ-ト行為など!!」


チ-ト。それはゲ-ムの世界で見られる改造行為を指す。ステ-タスMAX、強すぎるスキル、そして強すぎる武器防具。


「ユベルの奴め!! あのトマホ-クは初めから所持していたと抜かす!! 全く!! とんだ異世界転生者よ!!」


異世界に行く方法は2つあると魔王は言う。


1つ目は魔王が言うように転生者として異世界に来ること。地球で何らかの死を遂げ特殊なスキルを身につけて多くはやってくるそうだ。


そして2つ目が異世界転移。これは主に異世界に存在している魔術師達が陣を生成し呼び出すというもの。

いきなり呼び出された日には全く持って迷惑な話だ。

“GETEGOGO”これも異世界転移の部類だ。


「その腕義手だったんですね」


薄々気づいていたことをわざわざ言うか迷ったが、魔王は何故か笑っている。


「ああ紛れもなく義手だ守!! だが我は1ミリも臆すことは無かったぞ!! 何故ならそんな野郎相手でも返り討ちにしたのだからな!! ぐわっはっは!!」


ビリビリと。鼓膜が痛いほど大きな声は慣れてもやはり煩い。


(この魔王、実はとんでもない奴じゃないのか?)


両耳を抑えながら今俺の目の前にいる巨躯に不覚にも興味が湧いてしまった自分がいた。


「まぁ~あ~、あの時は~ルヴァも居たから~」


そう言えば。あの常識知らずの魔剣使い、まだドリンクバーにいるのだろうか。


ふっと顔を覗かせて見るとその予想どうりの光景が目に入る。


ドリンクバーの隣にあるグラスを数十個取り出したのだろう。色とりどりに並べられたグラスを持ち順番にそれを飲んでいる。常識知らずプラス変人の称号を与えよう。


「そ、その……ルヴァさんはそんなに強いんですか?」


異世界がどういったものか知らないけど、勇者達を返り討ちにするほどだ。弱いわけでは無いのだろう。


「ああ強いさ!! 我の世界では一二を争うほどの魔剣の使い手だ!! 我が一番信頼している部下だと言っても過言ではない!!」


魔剣。魔力枯渇後の今も異様に漂う悍ましき邪気。これが異世界でもなると同じ魔物でも近寄らないと彼ルヴァは言う。それ程、この世界に来てしまったことによる魔力枯渇は彼ら魔物達に致命的。


そして。既に食べ終わった皿や鉄皿を意外にも綺麗に片付ける魔王と魔女。


(お金はどうするんだろう……)


そう思うのは彼ら魔物がお金など持っている筈が無いと分かっていたからだった。


初日来た際。何処で手に入れたか尋ねると返って来た言葉は落ちていただそうだ。

何処でどう落ちていたかは聞くまい。彼ら魔物がすることだ。想像に容易い。


今この場にいる三体の魔物。この世界にやって来た魔物は他にも大勢おり、中には人間から隠れ怯え元の世界に帰りたいと願うものもいる。

ただそれもほんの少数だそうで、異世界に押し寄せた人間達のいるところになど帰りたくないというのが大多数だそうだ。


それぞれがそれぞれの特有の能力を持ち、今や彼ら魔物達の世界は人間達の手の中だと言う。





俺が異世界に行かない理由その4。




やっぱり地球が良い。


大地震、大津波、大型台風、氷河期、隕石の飛来。どれも人間が逆らえない自然現象。

その摂理に抗い異世界に行っても、其処には魔力ある魔物が存在し尚且つ人間の常識など通用しない。


こうしておちゃらけている彼らも異世界では悪者だ。何処でどう悪者役に立ってしまったのは定かではないが。





それが4つ目の理由だ。


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