俺が異世界に行かない理由 その1
2160年--
「いらっしゃいませ~って!」
(また来たのかよ! アイツら!)
此処はとあるファ-ストフ-ド店。大災害を経てもその外観を保っていたのは奇跡以外の何者でもなかった。しかしその古びれた様は、大災害を乗り越えて来た証とも言える。
そしてそこで働くのが現在高校1年生になったばかりの街中守、俺だ。
「ぐわっはっはっは!! 来てやったぞ! 守!! 今日の昼飯はハンバーグとやらを頂こうか!!」
店内中に響き渡る程の大きな声。
設置されてある全ての窓ガラスがガタガタと揺れている。
「こんにちは~守君~。今日は~1人~?」
「奈々も居ますよ」
「え~奈々ちゃん居るの~! じゃ~あ~お仕事終わったらワタシといいことしましょ~」
店内にゆるりぬたりと艶かしく入って来るなり俺を誘惑する。
「久しいな守よ」
そう言う者は低い声、それでいて高身長。2メ-トルは確実に超えている。
「久しいって一昨日も来たじゃないですか!?」
「--フフ。照れ隠しか? 守」
今の何処に照れ隠しの要素があるんだよ! 俺はそう思い拳を握り締める。
「はいは-い! どうぞお越しいただきました-! こちらへどうぞ!」
そのやり取りが聞こえたのだろう。彼女が彼らを席に案内する。
如月奈々。俺と同じくこの店で働く子だ。
明るい茶髪をしており、店の服がよく似合う。
店内には端の席にぽつんと座る人もおり物珍しそうにその光景を見ている。
ドガッ!!
「奈々、今日はハンバーグとやらを頼もう!! サイズはトリプルエックスでな!!」
席に座れないからと地べたに座って直ぐに注文をする。
「だ・か・ら! ありませんそんなサイズ! 通常サイズでお出ししますね!」
「作れば良いじゃないか!! 我専用に!!」
「も~うっ! 奈々ちゃん~怖がっているじゃな~い~! 少しは~静かにしなさいよね~!」
彼女は奈々を優しく包み込む。
「あー悪いなアモティ」
「ワタシじゃな~いでしょ~! 奈々ちゃんに~謝りなさいよ~!」
ガァン!
テ-ブルに手をかけその巨躯を起こす。
身長は彼らの中でずば抜けて大きい。
「な、何よ」
びくりと。奈々はたじろぐ。
店内にいた他の客は何事かと視線を向ける。
ただでさえおかしな奴らなのにその行動の意味は何だ? 俺はその場から少し距離を置いて成り行きを待つ。
ダァン!!
「すまん!!」
その巨躯を丸め奈々に土下座をする。
「ちょ、ちょ~っとフォルス~。何も~土下座なんてしなくても~……」
「アモティの言う通りです。魔王が人間の小娘に土下座などあってはならぬこと。早々に顔をお上げを」
魔王。
彼が言った言葉に今の俺はもう驚きやしない。
そいつら魔物はつい半年前にこの地球にやって来た。それも物凄い数で。
半年前。真昼間だというのに急に空が暗くなった。そして大きな地響きと共に突如空が割れこの地に降り立った。
人外の力を振るい僅かに残る人類に対しての脅威となった。
人々は怯え恐れ。遂に大魔王による地球終焉のシナリオが訪れたと悲観した。
しかし間も無くして彼らの身に訪れたのは、彼ら魔物を絶望の淵に落とすには十分だった。
魔力の枯渇。それが原因だ。どうやらこの地球に来たばかりの頃は、まだ異世界にいた時に残っていた魔力があったそうだ。
それでも数ヶ月暴れ続けた魔物達だったが、程なく魔力は底を尽き残っていた僅かな人類の手により終止符が打たれた。
それ程異世界にいた時の力が大きかったのだろう。
ドサッ!!
魔王フォルスはその巨躯を起こし座り込む。
頭上には立派な二本の巨角。一突きで巨大な岩でも割りそうな感じだ。
そしてその大声を本気で出せば、それだけで全てを破壊してしまいそう。
極めつけはその体の大きさだ。
店内に入る為の入り口は無残にも広々としてしまった--それは数週間前に来たこの魔王の所為。
もう正確な日にちなど覚えちゃいない。
それ程、まだ俺にはこれが現実かどうかも怪しいかった。
「ぐわっはっはっ!! そうだなお前の言う通りだ!! --しかしなルヴァ。我らはもう魔物ですらない! 魔力持たぬ人間共にも勝てぬ弱き種族よ!!」
(い、いや~……普通に魔物ですけど!)
何を持って魔物ではないなんて言ったのか、どっからどう見ても俺には魔物にしか見えない。
そんな心のツッコミを聞かれていないかと冷や冷やしながら俺は思った。
俺が異世界に行かない理由その1。
考え方が違い過ぎる。
それはいくら魔力が無いと言っても元が魔王や魔物だ。感じ方も違うし考え方も違う。
そんな奴らが異世界にはうじゃうじゃ居る。しかも魔力を持って。
それが1つ目の理由だ。