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Character rone storys  作者: 路十架
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第6話 鴉の縁

 私達はジェラヘイム、イーサヘイム、ニイドカゥムに渡り、フェオに言われたアイテムを無事持ち帰ることに成功した。


「ところで、ニイドよ。あの赤い石はどんな加工を施されたのだ?」


「あ、あぁ……、これだよこれ」


 忘れていたといわんばかりにニイドは美しい装飾が施された小さな王冠を取り出した。あの短時間でこれを完成させたとは、本当にドワーフという一族は器用だ。


「思ったよりかわいいね、これ」


 それをのぞき込んだペオースが目をキラキラさせて、ニコニコと話している。


 ――違和感しかない。


 出会いが出会いだけに彼女に対して不信感ばかりが沸き上がる。


「アンスール、言っておくけど、ペオースは元々こういう子なんだけど」


 私の視線を察知したのか、ニイドがフォローを入れてくる。


 ――そんなに顔に出しておったか。


 自分としては平常のつもりであったが、ニイドの観察力は侮れないところがあるようだ。


「あ、いや……少し、ちょっとな」


 ――どうも、馴れない。


「そうか、お前は罵られる方が好きか」


 ――語弊があるにもほどがある。


 突然あの口調で喋り出すも、知ってしまうとこう……何というか、何か違う気もする。


 一体どういう教育を受けたらこうなるのか。ついつい私の愛息エイワズと比較してしまうのは、親バカというものだろうか。


「そういうわけではないのだが……」


 ニイドは私の様子を見て何を思ったか、気の毒そうな表情をしている。


「アンスール、主語述語はしっかり言わないと色んな誤解の元だよ?」


 ――その誤解を深めるのはいつもお主なのだが。


「では、こちらで話すようにしようか」


 ペオースとニイドは馬が合わないと思っていたのだが、実際に話すところを見ると思い込みはよくないと心に刻んだ。


「ペオースも付き合わなくていいよ。っていうか、それやると疲れるでしょ?」


 歩きながらもおかしな会話をしているものだ。しかし、こういう雰囲気もたまにはいい息抜きになる。


 なんというか、こういうやりとりをしていると、出会いがいかに印象が悪くとも打ち解けられるかどうかは自分次第であるということを実感せずにはいられない。


「あー、アンスール!かえったのかー?」


 聞き慣れた声の方に意識を向けるとハガルが走ってくるのが見える。私は、さっそくアイテムの効果をためそうかと、ニイドカゥムの交渉人に声をかけた。


「ニイド、それを貰おう」


 本当によくできた王冠を手に取ると、ハガルにかぶせてやろうと身をかがめる。


「ハガルよ、お前に土産だ」


 つけてみると元々からハガルの物だったかのようによく似合っていた。


「わーい、ありがとうなのだー。みやげってなんなのだ?」


 そういえば、ハガルがきてから私は一切出かけることがなくなっていた。『みやげ』を知らなくても仕方がない。


「『みやげ』とは出かけた先々で、待っていてくれた人に渡す贈物のことだ」


「ふーん、みやげはたべられるのかー?」


「い、いや。食べられるみやげも存在するが、それは流石に食べてもらっては困る」


 ――やれやれ、これで現象が収まるといいのだが。


 辺りを見回してみたが、他のハガルはいないようだ。もうすでに消えてしまったのだろうか。


 足下にいたハガルもいつの間にか消えていた。旅の大きな役割はこれで果たしたのだろうか。


 「アンスール、僕もちょっと行ってくるよ」


 ニイドもイスのいた部屋に走り出す。


 元に戻っておるといいとは思うが、その場合二人きりの方がよいだろうと考え、私は書斎の方に足を運ぶこととした。


 少しではあるが、罪悪感のようなものが二人を遠ざけようという考えを生みだしたのかもしれない。


「あら、あなた。お戻りになられたの?……急に旅行に出かけるなど、まるで昔に戻ったようね」


 妻にしては思っていたよりもにこやかな出迎えであった。突然出かけることは昔はよくしていたが、最近は出かけること自体激減していた。


 このアンスルガルドには出かけることなく外の出来事を知ることのできる椅子があるからだ。


 昔は、出かけては心配をかけ、機嫌を取るのに苦戦したものだが。たまになら特に問題はなかったのかもしれない。


 しかし、今回の出来事で直に体感することと、映像だけで見たものでは情報量があまりにも違うことを思い出してしまっていた。


「ベオークよ、今度二人で旅行に行かぬか?」


「あら、アンスール、どういう風の吹き回しかしら?」


 物凄く不信感を帯びた眼差しである。その力強い眼差しはいつもより濃く暗い青になっていた。


「い、いや。前に旅行をしたのははるか昔のように思えてな」


「二人とも不在では民会などが心配ですわ」


「なに、問題はない。私達には優秀な息子とそれを助けようと力添えしてくれる力強い神々もおるではないか」


 何か引っかかるところがあるのだろうか、ベオークはしばらく下を向いていた。そして、何かを決意したかのように私に打ち明ける。


「それはそうなのですが、ここの所フギンとムニンの体調がよくありませんの」


 フギンとムニンは私が飼っている鴉たちである。そういえば、彼らにも出かけることを言って行かなかった。気の毒なことをした。


 ――後で好物の木の実でもふるまうか……。


「それで、体調はどんな感じだ?」


「寂しかったのかもしれませんわ。栄養のあるものをと思って料理をふるまったのですけれど……」


 ――多分、それが原因だ。


「あ、あぁ……あとで、好物を与えて詫びてくるよ。さぞかし、美味しいものを食べ過ぎてしまったのだろうな」


 ベオークの料理は質より量である。そのため出された物は全部食べなければと気を使ったフギンとムニンは腹でも壊してしまったのであろう。


 想像はつくが、ベオークも悪気はなかっただろうし、もとはと言えば私のせいだ。


 ベオークとの出会いは、創世の少し前になる。ユミルによって生命を脅かされた一族の生き残り。彼女は最初のジェラヘイムに住んでいた。


 ジェラヘイムは二度滅びている。最初はユミル、次は私たちで滅ぼした。


 繁栄の神々、ジェラ神族は本当にしぶとい……いや、生命力の強い存在である。


 父や母はジェラ達との付き合いはなかったものの、ヤラに関しては私は従兄弟の関係あたる。


 ジェラの民に私の伯母は嫁いだ。伯母は言っていた。ジェラの民は感性が素晴らしいのだと。


 伯母は祖父に似て美しく聡明な巫女であったので、ジェラヘイムの人間もさぞかし喜んだであろう。


 感性の豊かなジェラの神々が作った世界は絵画よりも美しく、ジェラの土地には果てしなく様々な色の花々が咲き乱れ、空には色鮮やかな蝶や鳥たちが飛び回る。


 蝶や蜂たちが日々働き、食糧も驚くほど豊富で、多くの馬や牛、羊たちを飼っていた。


 神と言うよりも、動物たちにとって素晴らしい土地だったといえよう。


 フギンとムニンはその動物たちに虐げられた存在で、真っ黒な鳥は明らかに浮いていた。


 そんな二羽をベオークは雛の頃より心から慈しんでおった。……他にも鴉はおったのだが、ユミルの手によってことごとく命を奪われた。


 元々、鴉は巫女のしもべというよりも、巫女そのものだったという見方すらある。


 鳥類の中でも彼らは特別な存在だったといえよう。


 私たちの出会いはその特別な存在によってもたらされられたものであった。


「やはりあなたでないとダメなのかしら?」


 


 □■□■□


 私たちが出会った時、私はその世界の美しさに惹かれ、姿を変えてはジェラヘイムを訪れていた。


 雛鳥であったフギンとムニンは親を失い、命を落とす危険に瀕していた。幼いながらも、親を失ったストレスからか食事を取ろうとはしなくなっていたのだ。


 初めて出会った時、ベオークは2羽の雛を前に怒りともどかしさの入り混じった涙を流していた。


 私は思わず、近づいた。


 私の父と母はジェラヘイムの民に対しての嫌悪感をもっており、決してこの地に近づいてはならないと言っておったのだが、若いうちの好奇心をもってすれば当然な行動だったかもしれない。


「どうかしたの?」


 遠くからではよく見えなかった少女の顔を見て、私は釘付けになってしまった。


 少女の顔は、私が幼い頃より憧れを抱いていた伯母、ミハルに瓜二つだったのだ。


「鴉の子がこのままでは命を落としてしまうの……私ではお母さんの代わりにはならないのかしら?」


 そう言って、なく少女の手には大きな肉塊が握られていた。


 ――こんなの雛が食べるわけない。


「こっ、これは雛たちじゃ食べられないよ。僕、餌を探してきてあげるから、雛が襲われないように見ててあげて!」


 泣きながら頷く少女の頭を撫でて、私は野を駆けずり回り、餌となる虫を何匹か取って戻った。


 数十分で餌は見つかったのだが、少女はまだ泣いておった。


「もう、大丈夫。これならきっと食べてくれるはずだよ」


 コクリと頷く少女の前に取ってきた虫を取り出す。


「きゃーっ」


 驚きの混じる悲鳴が聞こえ、私は少女を見た。


「ねぇ、この子達……こんなものを食べるの?」


 恐る恐る聞いてくる。


「生き物にはそれぞれ、段階に応じて食べられるものが違うんだ。君だって生まれた頃はお肉なんか食べてなかったと思うよ?」


 こくこくと頷きながら熱心に聞いてくれている。


 私は、雛達の口に虫を運んであげる。


 雛達は我先にと言わんばかりに虫達を頬張った。


 ――よかった。この子達はちゃんと育ってくれそうだ。


「食べたわ!この子達、本当に虫を一生懸命食べているわ!」


 嬉しそうに、驚きながら、少し怖い物を見たような顔で鳥達が餌を食べるたび彼女は歓声をあげる。


 鳥達に餌をあげ終わると、私は長居するわけには行かないと帰ろうとした。


 ……が、服が何かに引っ張られる感覚がして振り返る。


「ねぇ、あなた、名前は?」


 ここにきたことが両親に分かってしまってはまずい……。私は一瞬だけ悩んで、偽名を名乗ることにした。


「オーズ……」


「オーズ、良い名ね!私はベオークよ」


 最初は泣いていたはずの顔が輝くような笑顔になり、私には眩しすぎると感じた。


「じゃあ、僕、そろそろ帰らないといけないから」


 帰るためにその場を離れようとするものの少女は私の服を逃すものかと握りしめてくる。


「ねぇ、オーズ、オーズはどこからきたの?」


「僕、もう……帰らなきゃいけないんだけど」


 困る私をよそに、ベオークは少し考える。


「わかったわ!明日もきて!あなたが来ないとこの子達死んじゃうかもしれないわ!」


 私は大いに悩んだ。


「僕の家はかなり遠いところにあるんだ……来られるとは約束は――」


「約束しないと、ずっと離さないわ」


「だから――」


「……じゃあ、この子達と一緒についていく」


 そんなことをされてしまっては、間違いなく私は怒り狂った両親によって出歩くことすら禁じられてしまうだろう。


 ついていくという言葉を聞いて、私は本格的に焦った。


「餌は見ていたよね?君でも……あげられるんじゃないかな?」


「私じゃ、虫をあんなに上手に捕まえて来られないわ!」


 酷いと言わんばかりに泣きそうな目になる。嘘泣きな気もしないでもない。これだから女子という生き物は。


 ――泣きたいのはこっちの方だ。


「仕方ないわね……、この子達の生命の方が大切だわ」


 ――強引な子だ……。


「じゃ、この子達が独り立ちできるまで育ててあげて!自分たちで食べられるようになるまでの期間だけでいいから」


 ニッコリ笑う少女に仕方なく同意して、私は彼らフギンとムニンを引き取った。


 今思えば素晴らしい出会いだったのだと思う。


 フギンとムニンは本当に忠実に尽くしてくれて、今では彼らのいない生活など考えることもできない。


 ベオークと再会した時、私は彼らの意思によって求婚させられた気がする。


 ベオークとは『白樺』のルーンである。


 白樺から連想さらる言葉として『始まり』と『母性』のルーンだと言われている。


 そのルーンの意味そのままに彼女は母性に溢れ、新しいことに恐れを成すことはない。


 時々強引で、時々過保護なところはあるが素晴らしい女性だ。


 □■□■□


 随分と昔のことを思い出したものだ。あの思い出は今もまだ昨日のことのように思い出す。


「次に旅行する時は彼らも一緒でなくてはダメだな!」


 私たちは、この日大きく運命を変える出来事が起きていたことも知らず、旅行の計画に胸を弾ませていた。


 あの時、ニイドの元に行っていれば自体はもう少し変わっていたのかもしれない。

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