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Character rone storys  作者: 路十架
14/14

最終話 予言の体感

 私は大昔の予言を今、現実として体験している。


 冥界から一万三千程の軍勢が船からおりると怒号を上げて押し寄せ、一気になだれ込んだ。


 それを私の集めた100名にも満たない勇士たちが、迅速に斬り捨てていく。


 


 問題はカノクラーティルの約五千の軍勢だった。


 冥界の死者はガルムとモーズヘグをのぞけば勇士たちの敵にはなり得ないレベルだったのだ。


 カノクラーティルの巨人たちは身の丈が3メートル~10メートルと大きさはまばらだが、どいつもこいつも私のことを簡単に見下ろしてくる。


 ――気分が悪い。


「これでも、巨人の中では僕は小さい方だし、出来るだけ体は小さくしてるんだよ?」


 ニイドが昔身長のことを言っていたのを思い出す。


 私たちが普段巨人と呼んでいる者どもはせいぜい2メートル程度であり、規格が違う。


 


 3メートル級の巨人たちに挑もうという勇士は、指を折り数える程度だった。


 ある者は逃げ出し、ある者は持てる力を出しきり、できる範囲で健闘を重ねていった。


 巨人族出身であるティールは冷静だった。


「話には聞いていたが、霜の巨人とは規格が違う……」


 ふっと深く息をつくと巨人どもの足を斬って進む。


「だが、重力に耐えるために脆く」


 倒れる巨人どもの背中を次々に斬りつける。


「鈍く、視界も狭い!」


 ティールは10体もの巨人を力ではなく作戦でねじ伏せ再起不能の状態にしていった。


 ――ほう、やりおる。


 


「ティール殿、要領はわかりました……。私も遅れはとりませんよ!」


 ソウェイルは素早く剣を鞭に変形させ、周辺の巨人を次々と倒していく。


 巨人で作られたドミノ倒しを見ているようだった。


「ソウェイル! あまり調子に乗るな」


 巨人のたてた砂ぼこりの中から光の弓が飛んできた。


 ティールはソウェイルにそれが当たる前に剣ではじいた。


「さすがティール殿」


「さすがではない。褒めるより確実に戦ってくれ。先はまだまだ長くなるぞ」


 


 太陽が真上に来て、私は血の気が引いた。


 天を仰いだ私が見たのはフェンリル狼(私を殺すもの)の姿であった。


 悠然と空を駆け、太陽を呑みこむ。


 


 太陽の消失。昼がなくなり、この世界の時間は月が告げる夜だけになってしまったのだ。


 


 戦況は一気に敗北に近づいた気がした。


 


「アンスール、何あきらめてるの?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはニイドが右の手のひらをこちらに向けて『やぁ』という。


「なにが、やぁ! だ……」


 私は複雑な思いを殺しながら、言葉を絞り出した。


 毒にやられたのか、肌の色は変わり、腹が立つことに身長はまた伸びている感じがした。


「絶対、絶対近寄るな」


「やだなぁ、アンスール……。こんな目にあわせたの後悔しちゃってる?」


 ――後悔は散々した。


「私は、今……できることを考えるまでだ」


 ニイドは私を素通りして歩いて行く。


 すれ違いざまにきこえた気がした。


「僕は、予言通りに死んだりしないよ。絶対」


 ニイドはそのまま走っていってしまった。


 


 今回、ニイドは敵なのか味方なのか。


 もともと、彼は戦えない邪神。


 どうやって生き抜こうというのか。


 その表情からは勝機はありそうだ。


 


「お互い生きて……生き抜こう」


 私は槍を振るって巨人どもに突っ込んでいった。


「本当に、本当にデカブツばかりよこしおって!」


 なかば、やけくそであった。


 


 ――私以上にやけくそに動く奴を忘れておった。


 大地を揺らし、誰よりも簡単に敵を仕留めていく。


 雷神ソーン。


 彼は何か……太い、太い縄状の者と格闘しながら、片手間で巨人の頭をつぶしている。


 ――彼は敵に回したくないものだな。


 ソーンの相手は大蛇ヨルムンガンド、マンナズガルドの海を占拠した規格外の大蛇である。


 ヨルムンガンドもニイドの息子の一人、やはりニイドは敵方、倒さなければならないのだろうか?


 暗さに慣れてきたのか、状況がより鮮明になる。


 太陽は呑まれたが、カノクラーティルの巨人の亡骸は怪しく光を放ち、視界は確保できた。


 


 多すぎると感じていた……あの軍勢を私たちは、半分くらいに減らしていたようだ。


 足元は倒れた者が積み重なり、徐々に足場が悪くなる。


 大半はソーンがやった気がする。


 私は投げれば手に戻るグングニルをひたすら投げては取り、投げては取りを繰り返す。


 しかし、疲れた。


 休みたい。


 


 休んでは駄目だろうか?


 


 無理だな。


 


「久しいな、アンスール」


 モーズヘグが目の前に立っていた。


「お久しぶりです。モーズヘグ殿」


「ここで戦うこと、私は知っておった」


「予言にはなかったと思いますが?」


「私はベストラに呼ばれてここにきた」


「母に?母はもう……」


「ずっと、お主のそばにおったようだが?」


 ――何を言っているのか。


「この戦いの行方はどうなるのですか?」


「うむ、私は負ける」


「それ以降は、ご存じでは……」


「わかっていて来たんだ。冥界の門は多くの者に支えられ、私の役割は終わった」


 冥界から来たものたちの必死さ。


 それは、死んだとしても彼らには未来がある。


 力は弱いが数がいれば出来ることは増える。


 疲労した勇士たちは、彼ら計算し尽くした連携プレイに苦戦し、ヴァルハラの管理を離脱する。


「我らは勇士たちを家族に会わせてやりたいのさ」


 名誉の死(ヴァルハラ)藁の死(冥界)……。


 死に差がある限り、名誉の死を遂げられなければ、当然だが死後の再会は夢となる。


「我らは君ら神々と戦う気はない」


 にっこりモーズヘグは笑って何かを投げつけた。


 それは私の足元に転がり、私の足を捉える。


「では、ご武運を」


 そう言って、勇士たちの方へモーズヘグは向かう。


 足の動きを封じられ、私は戦力を大きく失った。

 


 勇士たちは次々と倒され、残された冥界の軍勢は嘘のように去っていく。


 発言通り、冥界は神々との戦いに撤退という敗北を選びとっていったのだ。


 ――これは冥界の完全勝利ではないか?


 斬られても斬られても彼らは時間をおいて立ち上がっていたので、足元にいるのは巨人のみだ。


 立っている敵は二千ほどの巨人だけ。


 時間がだいぶ経ったのだろう。


 マーニ()が、やってきた。


 


「はっはっはっ! 図体だけの巨人たちよ! 私に倒される前に即刻立ち去るがよい」


 そうだ、我々にはまだイングという戦力もおった。


「アンスール殿、戦果はいかがか?」


「あぁ、もう数え切れぬ」


「それは素晴らしい! 私の方も一部身内もおったが、構わず来る者は殴り倒してやった」


 イングの妻、フェオは巨人ギュミルの娘だ。


 この戦いはアンスズ神 対 巨人。


 身内が敵にいるのはあり得る話だった。


「あの義兄は私のことを気に食わなかったようだし、この機会に返り討ちにしてやった」


 清々しい顔で酷いことをいうものだ。


「……それでやったのか?」


 イングの手には大きな鹿の角が二本握られている。


「あぁっ! 意外にフィット感があっていいぞ!」


 私はこのズレた感覚の持ち主があまり得意でない。


「アンスール殿も使いたいか?」


 この戦場の中で彼は楽しそうに活躍を重ねていた。


「だが、ダメだな! この角はフェオがくれたのだ! 残念ながら渡すことはできない」


 友達におもちゃを貸してあ〜げない! 的な物言いであった。


 ――なるほど、何か細工がしてあるのか。


 フェオが作り出した物であれば、見た目以上の強さを秘めた武器なのだろう。


 ……色々納得した。


「あぁ、お主の戦力を失うのは得策ではないからな」


「私も愛のために全力を尽くそう」


「いや……」


 ――お前はこういう時ですら、そうなのか。


「なんでもない」


 何か言おうと思ったが、うまく言葉がでなかった。


「……アンスール殿も生きて帰れ」


 ――お主もな。


 私は頷くとカッコよく歩み出そうとした。


 だが、足が動かない。


 ――忘れていた。


 私は色々気を取られ、アタフタした。


「それ、取ろうか?」


 気の毒そうな顔でイングは私の足元を見る。


 ――そうか。


 私はモーズヘグの置き土産で動けなかったのだ。


「あぁ、頼めるか?」


「容易なことだ」


 私がこの男に助けられる日がくるとは。


 なんだか気まずい。


「私は、お主のことを色々誤解していたようだ」


 かがんだイングのマントにルーンがあしらわれているのを私は目にした。『頑張ってね』と読み取れた。


「何をだ?」


「話は変わるがそのマント……」


「わかるか? フェオが勝利のまじないを込めて作ってくれたんだ。うらやましかろう?」


 ――やはりか。


 そういう夫婦も良いものだ。


「助かった。お主も必ず生きて……生きてラグナロクの先の世界を必ず見るのだぞ」


「もちろんだ」


 イングは予言の敵へ向かっていく。


 炎の剣を手にしたカノクラーティル最強の巨人。


「お主がそれに勝たなければ、この世界は……」


 その巨人が振り落とす剣にあっさり鹿の角は負けた。


「あっ」


 ――このまま世界は炎に飲まれるのか!


 あまりにあっさりすぎて、あっけにとられていた。


 そして、イングをやすやすと倒した巨人はユグドラシルへと向かって歩をすすめる。


「ここより先は行かせんよ」


 辛うじて一命はとりとめていたようだ。


 イングは剣を持った巨人に立ちはだかる。


 


 私は動けるようになったものの、他の巨人を相手にする必要があった。


 イングは無事でいてくれているだろうか。


 とにかく槍を投げて投げて投げぬいた。


 手は痛いがモーズヘグの拘束が取れ、踏ん張れるようになったので、槍は威力を取り戻せた。


 巨人たちはあらかた片付いた。


「アンスール、君はこの戦い勝てると思ってる?」


 目の青いニイドがそこに立っていた。


「僕も運命に抗う。アンスールも勝って」


「しかし、私の敵は」


 ――お主の息子ではないか……。


「この子を呪いの子の運命から解き放ってほしい」


 唸りを上げるフェリンル。


「僕の敵はなぜは知らないけど……」


 ソウェイルがニイドの前に現れる。


「私も予言を知ったときは、あり得ないと思ったものです……しかし、今の私には理由がある」


 覚悟をしたという目だった。


「僕としてはここで戦うとリスクが大きいんだ。オセルヘイムに移動しない?」


「何をいうかと思えば、あなた方のおかげでここを出る橋はことごとくなくなったのです」


「……しょうがないか、でも知ってるでしょ?僕はどんな殺し方をしても、死なないんだ」


「私はあなたを殺すために作られた存在……」


 


 彼らのやり取りを見ていたかったのだが、狼が遊んでくれと食らいついてきおる。


「あー、わかったわかった」


 子守は慣れたつもりだったが、太陽を飲み込むラージサイズ。どこをどう衝くべきか。


 間合いを取ろうとしたが、あきらかに歩幅が違う。


 私は鷹に姿を変えようかと考えを巡らせる。


 しかし、フェンリルは空を走れる。


 無駄になるだろう。


 しかし、少し休みたい。


 私はノミに変身した。


 急に私が見えなくなり、フェンリルは予想通りキョロキョロしている。


 遠方でソーンが大蛇を仕留めたのが見えた。


 フェンリルが悲しみに満ちた遠吠えをすると、辺りにいた巨人どもが動きを止めた。


 それはソーンも同じだった。


 予言にある毒だった。


 ――あのソーンがいとも簡単にやられるとは。


 ソーンは分かっていて、巨人のできるだけ多い場所へと蛇を連れて行き、絶命させたのだ。


 ――お前にも帰るべき場所があっただろう?


 


 


 私はあの強烈な毒にやられぬよう、ソーンたちから離れるように移動をしていった。


 


 その先には知ったものが倒れていた。


 この男だけは予言を覆すだろうと思っていた。


「まさか……こんな……」


 ティールはすでに地に身を委ねていた。


 義手は噛み砕かれ、ボロボロである。


 私は死者の記憶を読むルーネを唱え、過去を見た。


 


 ティールはガルムと戦い優勢であった。


 予言では片腕が苦戦の要因と書かれていたので、彼にはよくできた義手をつけたのだ。


「お主は(わし)と戦う必要はないのだぞ。邪魔立てするなら……容赦はしないし、許さないぞ」


 番犬ガルムが牙を剥く。


「私にも賢い狼が家族にいてね……息子なんだ。だけど、妻がそちらの世界(冥界)にいる」


「それがどうしただぞ」


「疲れたのだよ」


「儂には関係ないぞ」


「予言のときを待っていたんだ」


「何を言ってるのだぞ」


「お主が私のことをあちらに連れて行ってくれるのだろう?」


 そういってティールは両手を大きく広げてガルムの前に立ちはだかった。


「さぁ、どうしても通りたいのなら、私を食いちぎってからいくといい」


 ガルムが義手を食いちぎる。


 ――ああ、これでようやく謝りにいける……。アングルボザよ。君は幸せだったかい?


 そこで、記憶は途切れていた。


 私は馬鹿者めと呟いた。


 最初から死ぬ気で来ておったのか。


 彼に必要だったのは、義手なんかではなく心の支えであったのだな。予言を読み違えた。


 気づくとソウェイルとニイドも地に伏していた。


 どうせ、起きてくるだろうと私は見守った。


 しかし、起き上がる様子はない。


 剣をもった巨人がこちらに近づくと、ニイドの髪の色はみるみる赤く染まっていく。


 そして、起き上がった。


 運命は予言を裏切って動いたと感じた。


「ニイド!」


 私は変身を解きニイドに駆け寄ろうとする。


 剣を持った巨人はニイドにいった。


「おかえり」


 私は戦闘が続いていることを忘れていた。


「そこにおったか」


 狼の声がして、視界が暗くなり、私は全身がすり潰されていく感覚を味わった。


 予言を打ち破ることは出来なかったのだ。


 


 


 次の瞬間、私の意識はイーサヘイムにあった。


「これがラグナロクか」


「おや、あの時の人か」


 見覚えのある酒場に私は座っていた。


 


「いやぁ、参ったね!」


「ニイド! お前はなんでここにおる?」


 青い髪をしたニイドが私の隣に座っていた。


「なんでって、なんでかな? 死なないはずなのに死んだんだ。まぁ、いいんじゃない?」


「私がまさか、藁の死を遂げてここにくるとは」


「戦死したやつらもヴァルハラには行けなくなったね」


「管理した私らが死んだのではそうなるな」


「なんで、僕らアンスルガルドで生きることに固執したんだろう。死後を知っていたのに」


「それは実際に死んでみなければわからないし、有限であることでしか得られんものもある」


 私たちは死について語り、冥界に行くまでのひとときを懐かしい面々で旅をした。


 アンスルガルドはどうなっただろうか。


 エオーの話では、剣を持った巨人が火を放ち、隣国まで火の海になっていったと聞いた。


 巨人や人間、小人たちの国も焼きつくされ、何人かの息子たちが生き残ったとのことだ。


 新たな人間の世界が創造され、復活したエイワズとホズが協力して良い世界を作っている。


 彼らのわだかまりは解けたのだろうか。


 私たちはダエグに願い出た。


 有限の世界を再び生きたいと……。


 


 私はアンスール、『言葉』のルーンの名を持つ神。


 だが、私には人を理解しようとする課題が解決できなかった。今一度機会をいただきたい。


 その願いをダエグは快く受け取り、『いつか私も旅に出たい』そういって笑いかけた。


 彼女にも留守を任せられる存在がいれば、有限な世界で出会うことがあるかもしれない。


 私はまた多くの失敗を重ね、多くの学びを得るだろう。


 失敗は成功の種である。


 失敗を隠したまま種をしまい込むと、また多くの失敗の実がなる。時にその実は巨大になる。


 その種を活かすも増やすも己次第。


 人間たちよ、実りの多い人生を歩みたければ、失敗の種がどんなものかじっくり調べよ。


 その先には必ず、自分が欲した成功の実を収穫する自分自身との出会いがあるだろう。


 次はどんな旅が待ち受けているだろうか?


 私はこれから未知の世界へ旅立つのだ――






毎日1話ずつ書いてきましたが、このお話は一旦終わります。


ですが、ルーンキャラのストーリーは続きます!


少し修正と加筆して、Character rone storysの続編になるシリーズを公開していく予定です。そちらもよろしければ、お付き合いくださいm(_ _)m


ご愛読いただきありがとうございました!


このキャラクターのストーリーがもっと読みたいなど、ご要望やご感想もお寄せ頂けたら、とても嬉しいです。


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