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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

過去都市V

作者: 緋吹 楓

今日の実験は、今までの人類への冒涜になってしまうものだ。

それでも、僕はこの実験を進める。

タイムスリップ装置の中に入り、急いで時間軸や場所を設定しはじめる。

その時、部屋にある人物が入ってくる。

アール博士「ジャンよ、私から誘ってなんだが、本当に良かったのかね?」

その問いには返答をせず、コードを入力し続ける。

アール博士「もう二度とこの世界には戻れないだろう。」

設定が終わる。

ジャン「それでも、僕にはやらなくちゃいけないことがあるから。」

いつでも転送が可能だ。

ジャン「今までありがとうございました、アール博士。」

真っ赤なボタンを押す。

その瞬間、目の前が真っ白になった。


*この話は前作「未来都市V」の別視点です。

 先に「未来都市V」を読んでいただくともっと面白くなるかもです。

今日の実験は、今までの人類への冒涜になってしまうものだ。

それでも、僕はこの実験を進める。

タイムスリップ装置の中に入り、急いで時間軸や場所を設定しはじめる。

その時、部屋にある人物が入ってくる。

アール博士「ジャンよ、私から誘ってなんだが、本当に良かったのかね?」

その問いには返答をせず、コードを入力し続ける。

アール博士「もう二度とこの世界には戻れないだろう。」

設定が終わる。

ジャン「それでも、僕にはやらなくちゃいけないことがあるから。」

いつでも転送が可能だ。

ジャン「今までありがとうございました、アール博士。」

真っ赤なボタンを押す。

その瞬間、目の前が真っ白になった。




ここは・・・どこだ・・・?

僕はどこかに寝転んでいた。

クラクラする頭を上げ、周囲を確認する。

その景色は古い書物で見た光景と、同じであった。

ということは、転送は成功したのか。

起き上がり、周囲を確認する。

どうやら、ここは噴水が特徴の広場のようだ。

貴重な水が惜しげもなく使われている。

この時代では、こんなにも水が有り余っていたのか・・・

未来では水源が枯渇し、人工水を作って補っていた。

過去を変えるという気持ちをさらに高めるのであった。

しかし、その時、僕は窮地に立たされていることに気づいていなかった。

いかにもチンピラ風の若者2人に挟まれてしまったのだ。

若者A「お兄さん、なんか変な服着てんね~。」

そういえば、服を過去のものにすることを忘れていた。

若者B「もしかして、金持ちっすか~?」

ジャン「あ、あの、僕、お金なんて・・・」

若者B「え~、ちょっとくらい分けてくれたっていいじゃねぇかよ!」

周りの人たちは見ているだけで助けてくれない。

思わずへたり込んでしまった。


どうしようか考えていると、救世主が現れた。

救世主「君ら何やってんの?ダメだよそんなことしちゃ。」

その場にいた全員がその人に目を向ける。

若者A「あぁ?警備隊様がなんですかねえ!?」

救世主「その子困ってるじゃないか。」

すると、僕の後ろからもう1人の若者が出てくる。

肩が当たる。怖い。

若者B「うっせぇ!めんどくせぇんだよ!」

どこからか取り出したナイフをその人に向かって振り上げる。

思わず目をふさぐ。

しかし、声を上げたのは若者の方だった。

若者B「なっ・・・。」

若者の振り上げたナイフは金属音とともに、その人の左腕の何かによって弾かれていた。

救世主「俺じゃなかったら君ら銃でドカンだよ?これで済んだと思えば安いもんだ。」

若者が吹っ飛ぶ。

若者A「ひっ・・・。」

若者は倒れた相棒を背負いながら去っていった。


救世主「大丈夫だったか?」

へたり込んでいる僕の手をとって起こしてくれる。

ジャン「えっと、ありがとうございます。それ、なんですか?」

僕は彼の左腕について聞く。とても気になる。

救世主「これは、最新型のパイルバンカーだ。これだけでもかなりの威力だぞ?」

ジャン「こんなことになってるんですね・・・。」

未来ではこんな武器は見たことがない。というか、戦う暇が無い。

救世主「じゃあ、今度はこっちから質問だ。君の事を聞かせてくれ。」

え?僕の事?未来から来たなんて言っても信じてもらえるわけないし・・・

ジャン「いえ、僕のことはもう大丈夫です。」

救世主「そういう訳にはいかないんだ。こっちも仕事なんでね。」

何かのバッジを見せてくる。

どこかで見たことのあるようなデザインだが分からない。

救世主「じゃあ、名前はいいからせめて住民ナンバーだけでも教えてくれ。外から来たなら入ったときに渡されてるはずだぜ。」

ジャン「いや、僕ちょっとわかんないです・・・。」

やばい、少々面倒なことになってきた。

救世主「そんなはずは・・・おわっ!」

突然揺れる。凄い揺れだ。

とはいえ、今が逃げるチャンスだ。

今まで向いていた方向とは逆の方に逃げる。

階段を駆け下り、そこからどうするか悩んでいた。

そんな時だった。

大きな揺れとともに、目の前の通路にビルが倒れてきたのだ。

その衝撃で、今まで立っていた地面が崩れ落ちていく。

こけてしまい、ひざを擦る。

急いで立ち上がり、今までの道を引き返す。

それでも間に合わないかもしれない。

そんな時、目の前の小型の車から、中年の男が走ってきた。

僕はその男の方に向かって、一心不乱に走った。


男「大丈夫だったか?」

救急セットから消毒液やらを取り出して治療してくれる。

ジャン「大丈夫です、ありがとうございます。」

絆創膏を貼り、長ズボンの裾を戻し、立ち上がる。

シャイラ「俺はヴィシャック警備隊19部部長のシャイラってもんだ。よろしく。」

自己紹介をされる。僕は反射的に、

ジャン「僕はジャンと申します・・・あ。」

そう、名乗ってしまった。

シャイラ「ジャンちゃんか、よろしく。」

ジャンちゃんと呼ばれる。

ジャン「いつ、気づいてたんです?」

シャイラ「治療したときに、骨格で気づいちまったもんでさ。医師免許持ってるもんで。」

そう、僕は女だ。流石に専門の知識を持っている人の目は騙せなかったか。

シャイラ「何故男の格好をしているかは詮索しないから安心しな。」

ジャン「ありがとうございます。シャイラさん。」


シャイラさんの小型の車で、安全な道を選びながら走る。

シャイラ「こんな状況だから、安全な場所なんて無い。悪いが付き合ってもらうぜ。」

僕も行くあてが無かったので、丁度良い。

この時代でも旧式の車に揺られる。

街はまるで地獄のようだ。あちらこちらで炎があらぶり、人々の叫び声が響く。

たくさんの銃撃の音まで聞こえてくる。

ジャン「シャイラさん、まさかこの音は・・・」

シャイラ「今でも街中に残った警備隊とテログループの戦闘だろう。」

こんなに生々しい殺し合いの音を聞いているのはもうたくさんだった。

そんな僕を察してか、軽快な音楽を流してくれる。

ジャン「この音楽は何ですか?」

未来では音楽という娯楽はほぼ無いに等しい。

シャイラ「これはジャズさ。昔に部下に薦められてね。それ以来お気に入りさ。」

僕はしばらくジャズとやらに聞き入っていた。


崩壊を始めた街が下に落ちていく。

シャイラ「空中庭園が崩れてるが、今向かっているのはこの下の警備隊基地だ。」

ジャン「そこは無事なんでしょうか?」

こんな状態じゃ建物自体が保っているのかも分からない。

シャイラ「我々の基地にはある程度の防衛装置がある。多分大丈夫だろう。」

揺れとともに今まで走っていた道路が急に傾く。

ジャン「まさか・・・」

崩れてきているのか。

しかし、シャイラさんの声は穏やかなものだった。

シャイラ「いや、もう大丈夫だ。空中庭園から脱出した。」

どうやら、地上に降りたらしい。

シャイラさんは基地の方向へ車を走らせた。


シャイラ「ジャンちゃん、着いたぜ。」

僕はシャイラさんに肩を叩かれて起こされる。

どうやら眠っていたようだ。

車のドアを開け、シャイラさんの後を追いかける。


上では空中庭園が崩壊を続けている。

それでも、その警備隊基地にはたくさんの人がいた。

すぐ隣では、負傷した人たちが治療されている。

あちこちが血の色だ。

余りにも痛々しい。

僕は今まで想像もできなかった光景に恐怖を覚えていた。

シャイラ「怖いか?」

ジャン「はい・・・怖いです・・・」

シャイラさんが震える肩に手を置いてくる。

シャイラ「怖いと思えたなら、それは心のある証拠だ。」

目と目が合う。

シャイラ「どうかその心を失わないで欲しい。そして、希望を諦めないで欲しい。」

ああ、何だか安心してきた・・・

ジャン「ありがとうございます。」

シャイラ「なぁに、礼には及ばんさ。」

僕とシャイラさんは立ち上がる。

シャイラ「さあ、中に入ろう。我々にはまだやることがあるのだから。」

ジャン「はい!」

基地の中に急いで向かう。


基地に入るといろんな人がシャイラさんに駆け寄ってくる。

「シャイラ部長!」

「部長!」

「シャイラさん!」

シャイラ「おお、お前達無事だったか!」

人望がすごい。

「部長、ユーミュと連絡が出来ないんですが、何か分かりますか?」

シャイラ「いや、俺の所にも連絡は来ていないな。」

みんな忙しそうだ。

僕なんかがここにいていいのだろうか・・・

シャイラ「ジャンちゃんにも仕事があるから待ってな。」

その言葉は僕にとってはとても有り難い言葉だった。


シャイラさんがここへ来たのは、ある情報を届けるためだったらしい。

その情報は、今回のテロ攻撃の本命であろう、空中庭園を完全を破壊するものを止めるものだという。

空中庭園中央部の記念聖像には特殊な爆弾が仕掛けられており、外部から爆発させない限り中心街が吹き飛ぶらしい。

ちなみに、記念聖像は空中庭園にある15mを越える像らしい。

シャイラ「俺はその爆弾を破壊する為のスナイパー銃を中心街まで持っていく。」

シャイラさんがみんなを見回す。

シャイラ「俺のスナイパー銃の精度はあまりよくない。」

スナイパー銃の入ったトランクを担ぐ。

シャイラ「この街で一番扱いがうまいのはユーミュだ。だからお前達にはユーミュを探し出して応援要請を送って欲しい。」

再び見回す。

シャイラ「では、各自の健闘を祈る。」

そこで僕は引き止めてしまう。

ジャン「シャイラさん、僕も付いていっちゃ駄目ですか?」

シャイラ「今から行く場所は今までよりもっと危ない場所だ。連れて行けないさ。」

シャイラさんがマイクを渡してくれる。

シャイラ「今この場の人員が足りていないんだ。だから、それがジャンちゃんの仕事だ。」

ジャン「絶対に帰ってきてくださいね。」

僕はシャイラさんの頬にキスをする。

シャイラ「こりゃ死ねなくなっちまったなぁ。」

僕に背を向ける。

シャイラ「また逢おうな、ジャン。」

その言葉が僕が聞いたシャイラさんの最後の声だった。


僕はマイクに向かってひたすら叫ぶように喋り続けた。

「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」

「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」

「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」

絶対に諦めない。

「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」

「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」

「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」

僕はこの街を守りたい。

「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」

「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」

「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」

その時、何かのノイズが聞こえた気がした。

ユーミュ「こちら、ユーミュ、君はあの時の少年か!?」

この声は・・・

噴水の広場で助けてくれたあの人の声だ。

ジャン「あなたがユーミュさんだったんですね、こちらは警備隊基地です。シャイラさんからの連絡です。」

ユーミュ「その情報は部長からのものなんだな?」

さっきシャイラさんが説明してくれた情報を伝える。

ジャン「はい、記念聖像には爆弾が仕掛けられています。どうやら特殊な爆弾なようで、外側から爆発させないと恐らく中心街が吹き飛びます。」

ユーミュ「了解したと伝えてくれ。」

ジャン「分かりました。」

通信が切れる。

後は無事に終わることを願うだけだ。


もう私には願うことしかできない。

二人が帰ってきますように。

もう一度ジャズを聴かせてもらうんだ。

その時、光が街を覆い尽くす。




朝っぱらから物騒なニュースが流れている。

「昨日午前11時、ヴィシャックで大規模テロ事件が起きました。

 死者・行方不明者が10万人を越える悲惨な・・・・・・・・・」


突然テレビを消してあげる。

「駄目ですよ、怪我人は寝てないと。」

「少しくらいいいじゃないか。減るもんじゃなしに。」

「それで傷口でも開かれたらかなわないので」

「あいわかりましたよ。」

ユーミュさんをベッドに寝かせる。

ため息を吐きながらも、ベランダに出る。

結局、シャイラさんとは二度と逢うことはなかった。

トランクを運んでいる時に襲撃に遭っていたらしい。

最期はユーミュさんを守るために・・・

気がつくと、涙がこぼれそうになっていた。


空中庭園の約半分はまだ残っている。

これは空中庭園を守れたと言えるのだろうか。

この空中庭園を存続させることこそが私が未来から来た希望なのだ。

でも、絶対に諦めない。

それがシャイラさんがくれた最後の思いなのだから。

どうも緋吹 楓です。

読んでいただきありがとうございます。

前作「未来都市V」で出てきた謎の少年が今回の主役でした。

実は未来から飛んできた少女だったんです。

またしばらくしたら続きを書くかもしれませんね。

それでは。また違う作品でお会いしましょう。

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