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短編集 星新一風

波乗りの船

作者: 燈夜

 船は波の上で今日も揺れていた。


『オハヨウゴザイマス』

「おはよう」


 少女は伸びをする。

 痛む体を動かし、筋を伸ばし、凍えた体を温める。

 いつもと同じだ、いつもと同じ。

 少女は相棒に声をかける。少女の姿かたちとは似ても似つかない。首は無く、頭は頭部とつながり、禿げ上がっている。いや、金属質に光り輝いている。様々な色の光が明滅し、相棒が動くたびにその輝きは変わる。


 ロボット。

 ──そう云うらしい。夢で学習した内容だ。


『ショクジガ デキテオリマス』

「ありがとう」


 こういったやり取りも夢で学習した。


 黒パンに塩スープ。いつもと同じだ。……いや、一品足りない。


「魚は?」

『ツレマセンデシタ』

「そう」


 少女はたいした興味も無く黒パンを千切っては塩スープに浸し、食べる。


「今日は何をするの?」

『キョウモ ニッカヲ オネガイシマス』

「はいはい」


 少女は歌詞を思い出す。

 少女はマイクに乗せて美声を飛ばす。なぜかワクワクと、そして切なく歌声は広がる。

 感情の波動が大気に乗るのが判る。

 歌詞の意味は判らない。ロボットも夢も教えてくれないのだ。

 だけど、その『愛しています、私はここにいます』との歌詞を歌う事が少女の心を揺らす。

 揺れる心の理由は判らない。


「今日は何日目?」

『イチマン トンデ ヒョクゴジュウナナ ニチメデス』

「……意味が判らない」

『サァ、ネマショウ。ジュンビハ デキテオリマス』

「眠くない」

『ダイジョウブデス。アルファーハガ スグニ……』


 少女を筐体へ押し込む相棒の声は最後まで聞こえない。頭が朦朧としてきた。

 少女は膝を抱える。眠くない。あたしは眠くない……でも……。


 ダメだ。逆らえない。

 少女は夢を見ることになる。

 おそらく今度も長い長い夢なのだろう。

 今度の夢は冒険か、それとも両親に包まれる夢か。

 判らない。少女には何も判らない。


 少女の入った筐体はすぐに白い靄に包まれる。

 それは永遠の眠り姫。


 ロボットは充電パネルを最小限広げるとドームを閉じる。

 ロボットの表面で明滅していた光の数があからさまに減った。

 波と共に船が揺れる。

 が、それがどうした?


『オヤスミナサイ』


 答える者はいない。

 嫌味なロボットかもしれない。

 あれほど光に満ちていたロボットは光を失う。

 が、ロボットは待つ。少女の歌が銀河に広がるのを。


 ロボットは待つ。創造主の手が伸びるのを。

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― 新着の感想 ―
[一言] これぞ食っちゃ寝の生活・・・! じゃなくてー、SFの殖民とか突き詰めれまこんなかもですね~。 ノアの方舟伝説みたいな感じでわり~と好きです。きっとみんな死んでるんだー。
[一言] なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな という回文を思い出しました。 長き夜の 遠の眠りの 見な目覚め 波乗り舟の 音の善きかな
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