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彼はケモナー。

作者: 漂うくらげ

彼はアニメ系のショップへと目指して歩いている。ケモノ娘の同人誌を買うためである。彼の愛するケモノ娘は二次元にしか存在しないため、彼はもっぱら同人誌を購入している。ケモノ娘のアンソロジーを買うこともある。


今日は、彼の贔屓のサークルの新刊の発売日であるため彼の足取りは軽い。しかし、その彼の足が止まる。


「な、なんだ? 足が動かないぞ!?」


彼の足が地面に接着されたかのように動かなくなってしまった。


地面が強い光を放つ。彼は眩しさのあまり目をつぶり、手と腕で目を顔を覆う。




光が弱まり、顔を覆っていた手と腕を下げると…。


彼の目前には十数人が、まるで中世かと言わんばかりの服装で立っている。


さらに、周りの景色が変わっていた。

さっきまで、確かに彼の住んでいる街だったはずだ。いつも行く店までの道を歩いていたはず。なのに、今は石造りの一室にいる。かなり広い。学校の教室より広い。天井を見ると、やはり学校の教室の天井より高い。足元を見ると、幾本もの線が組み合わったようなものが見える。

彼は気付かなかったが、彼が見たものは魔法陣である。彼にもう少しだけ冷静さがあれば漫画やアニメで見たようなものと気付けたはずである。しかし、非現実的なことが起こった彼に、そこまで気付けというのは酷であろうか。


「○△□」


「●▲■」


目の前の人たちに目を向ける。何かしゃべっている。

しかし、言葉が分からない。


外国に来たのかと思う彼。

聞き覚えのない言語だと気付き、焦り始める彼。。

特に扱える外国語があるわけではないが、テレビで聞いたことがないということには気付いたのだ。


何か道具のようなものをこちらに向けてきた。

その道具を見て、一番豪華そうな服をきた男が首を振っている。

落胆しているように見える。


「あのー、すみません。ちょっといいですか…」


彼が手を上げながら発言する。

途端、一番豪華そうな服をきた男の後ろにいた男たちが前に出てくる。

今気が付いたが、金属製の槍と鎧を着ている。

槍の先はこちらに向いていないが、彼を狼藉者のように扱っているように感じられる。


「おい、なんだその態度は! 俺が何かするとでも言いたいのか!!」


ムっとした彼が少し声を荒らげて言う。


「※※※※※」


鎧を着た男の後ろにいた、杖を持った男が何か言った。

と、思ったら。彼に眠気が襲ってきた。

それに抗う暇もなく、彼の意識は眠りの海に沈んでいった。




◇◇◇




彼はうつ伏せのまま目を覚ました。


目を覚ました彼がいる場所、それは牢屋だった。

彼の背後には牢の入り口があり、彼が牢の入り口からポイっと投げ入れられたことを示している。非常に扱いが悪い。罪人に対する扱いだった。彼はそこまで気付かないが。


「一体何が起きてるんだ…」


地面が光ったと思ったら、周りの景色が変わっていて、極めつけに牢の中だ。

わけが分からない。

いや、彼でなくてもわけが分からないだろう。


彼は牢の入り口に手をかける。

開かない。まぁ、牢に入れてるんだからそうだろう。


「おおーい。誰か居ないかー!」


鉄格子に手をかけながら叫ぶ。

返事はない。また、牢の鉄格子から見える範囲には誰も見えない。誰も居ないようだ。


「人違いじゃないかー! 俺は何もしてないぞー!」


また叫ぶ。冤罪ではないかと訴えながら。


「俺は何もしてないんだ…」


しかし何も返事がなく、反応もない。彼は元気なさげに、声も小さくなりながら。鉄格子に項垂れる。


少しして、ほんの少しだけ顔を上げる。と、そこに見えるものがあった。

鉄格子にかけた手の甲に、見慣れない図形の紋がある。


彼はハっと気付く。


自身が獣人の出る小説も読むことに。そういう小説では、主人公が異世界へ召喚され強力な力を得る。そのことに気付く。

つまりこの手の甲にある紋…、これは彼の力を示す紋章ではないかと。


彼の表情が明るいものになる。希望を得て、力が湧いてくる。

早速、彼はこの紋章の使い方を考える。


「むぅぅ」


紋章に力を込めてみる。…何も起きない。紋章が光ったりもしない。


「ファイアーボール!」

「アイスアロー!」

「サンダーレイン!」


漫画やアニメでよくある魔法を唱えてみるが、何も起きない。紋章も光らない。


仕方ないので、鉄格子を蹴る。


「痛っ」


足が痛いだけだった。もちろん紋章は光らない。


最終手段、この紋章のある手で殴る。


ガンッ


「痛っ」


やはり痛いだけだった。紋章は光らない。


がっくりと項垂れる彼。

二度の無反応と、二度の痛みにより目が覚めたのだ。

この紋は希望ではないと。


しかし、人間とは身勝手なもの。希望を持った分、落ち込むのだ。しかしそこで、今の状況に陥った原因を思い出した。いや、原因が分かったと言うべきか。

先ほど思い出した、小説。異世界転移ものの小説。そこで気付くことがあった。歩いていた時の地面からの光。次に見た、あの石造りの一室の足元の線。

あれはもしかして召喚魔法陣ではないだろうか。

そう考えれば辻褄は合う。

彼は気付いた。確信を持った。異世界に召喚されたのだと。


そして、それを行ったのがあの石造りの一室に居た十数人の者たち。

さらにいうならば、首謀者は豪華そうな服を着たあの男!


あいつだ。あいつが犯人だ!

彼をこの状況にあるのは、あの男のせいだ!


彼は腹の底から怒りが湧いてくるのを感じている。

そうだ、あの男のせいでこんな牢屋に入れられているのだと。


「あの男を出せ!」


「あの男が犯人だというのは分かっているぞ!!」


「出て来い! 出てきたら殺してやるぞ!!」


彼が激情にまかせてそう言った瞬間。


手の甲に痛みが走った。


「うああああ」


彼が手の甲を抑えてうずくまる。




しばらく痛みに耐えたのち、座り込んで言う。


「な、なにがあったんだ?」


「いきなり手の甲に痛みが走ったぞ」


今はもう痛くない手の甲を見ながら、彼は何が起こったのか考える。

痛みが走ったのは殺してやると言った瞬間だったか。

彼は、やりたくはないが確認のためにもう一度言ってみた。


「あの男を殺してやる!」


手の甲に痛みが走る。


「うああああ」


痛みに叫ぶ彼。

またしばらく痛みに耐え、確信する。


「なんてこった。殺すと口にした瞬間痛みが走るってことは、これは小説でいうところの奴隷紋だったのか…」


奴隷紋、それは奴隷に刻まれる紋のこと。奴隷が主人に対して殺意を抱いたり、逃げようとしたりすると痛みなどによって罰を与えるもの。

ここで問題なのは、逃げようとしたりすると、という部分だ。小説ではそうだった。この紋もそうだろう。そうじゃなきゃ紋を刻まないだろうし、牢屋にも入れないだろう。

つまり、彼は奴隷として牢屋に入れられているということだ。そして逃げられない…。


「奴隷なんてやだよ…」




◇◇◇




手の甲の紋が奴隷紋らしいと判明して、体感で数時間くらい経ったとき。

兵士の姿の者が彼の牢まで確認に来た。彼が起きているのを確認したらすぐに立ち去ったから確認にきたんだろう。


しばらくすると、あの豪華な服を来た男が来た。槍と鎧の兵士と、何かトレイを持った人も連れて。


トレイを持った人がトレイを差し出してくる。

おそるおそる見てみると、指輪が置いてあった。

トレイを持った人の横にいる人が、その指輪をはめろとジェスチャーしている。


彼は奴隷紋より悪いものはないだろうと指輪をはめる。


「わたしの言葉が分かりますか?」


トレイを持った人の横の人が話しかけてくる。トレイを持った人は数歩下がった。

彼が頷く。


「よかった。それは意思疎通の指輪といって他国の者と話すときに使うものなのです」


「では、説明させていた―」


「それには及ばぬ」


豪華な服を着た男が遮って言う。


「貴様の魔力値は期待外れであった。低すぎる。そのような者を召喚したとあっては侯爵家の名折れ」


「よって貴様は奴隷として売ることにした」


奴隷として売ると言われた彼は激昂して鉄格子を叩きながら言い返す。


「なんだとぉ、てめぇ! ふざけんな、勝手なこと言いやがって。はいそうですかと従うと思ってんのか!!」


兵士が貴族の男の前に出ようとするが、男が手で制す。


「逃げられるなら逃げるがいい。逃げられたなら見逃してやろう」


「まぁ、無理だがな」


そう言って貴族の男は来た道を戻って行った。

兵士も付いて行く。

説明しようとした人だけが、こちらを気の毒そうに見てから去って行った。




◇◇◇




ふざけたことを抜かす貴族の男が去った後、頭を冷やした彼は考えた。

貴族の男が最後に言った言葉だ。

無理だと言っていた。つまり、この奴隷紋には逃走防止の効果があるのだろう。


「くそっ」


ガンッと、悪態をつきながら鉄格子を殴る。

どのみち鉄格子を破る術もない。

逃走防止の効果が無くても逃げられないだろう。

それでも逃げられる機会が来た時のためにごろんと寝転がる。彼は体力を温存するようだ。




カツンカツンと足音が聞こえる。

また誰か来たようだ。

真剣に、どうやって逃げるかを考えていた彼は思考を中断させられた。


来たのは兵士と身なりの良い男だった。その後ろには護衛らしき武装した男たちがいる。

彼は直感した。彼を奴隷として買いに来た者達だと。


「ほう、彼がそうなのですか」


「はい、獣人商殿。侯爵様の―」


直感してる間に話が始まってしまった…が、聞き逃せない言葉を彼は耳にした。


「(今、もしかして獣人商って言ったか? まさか、この世界には獣人がいるのか!? そして、獣人商であるならば獣人を扱っているということだ。ということは…)」


「では、聞いてみましょうか」


獣人商と呼ばれた人が彼に質問してくる。


「どうでしょう、私どもは獣人を扱っているのですが、あなたは私どもで働く気はありま―」


彼は即答した。いや、獣人商の言葉が終わる前に断言した。


「獣人は大好きです!!! ぜひ働かせてください!」




◇◇◇


「紹介しよう」


獣人商から、商会で働く従業員達を紹介される。

彼に直接関わるのは、獣人の世話係部門トップの上司。先輩二人、それと奴隷三人。


ここで彼は別の驚きを目にすることになった。

なんと、先輩二人はエルフだったのだ! 耳がとがっている。

上司と奴隷三人はヒューマンだった。人ではなく、この世界ではヒューマンというらしい。

なお、上司と先輩二人は従業員であり、奴隷ではないそうだ。


「じゃあ獣人たちの世話について教えるね」


先輩エルフから教わるため、獣人たちの部屋へと行く。

とうとう獣人に会える…! 彼の期待と興奮は最高潮に達しようとしていた。




「ここが獣人たちの飼育部屋だよ」


「飼育部屋?」


「そう、飼育部屋だ。君みたいに田舎から来た人は勘違いしてることが多いんだけど。彼ら彼女ら獣人たちは僕たちエルフ・ヒューマン・ドワーフといった、いわゆる人ではないんだ。」


衝撃の事実。この世界の獣人は、彼が読んだ小説とは違い、人ではないのだ。これは差別という意味ではなく。そのままの意味で人ではないのだ。獣人は姿こそ人に近いが、知能が猿やイルカ、高くても小学生以下なのだ。個体差が大きいので一概には言えないのだが、つまりは獣である。獣だが人の姿をして、人と同じように生活できるため獣人という種族名が付いたのだと。

あと、どうやら彼は田舎から来たと思われているようです。

訂正する必要性を感じないので、彼は訂正しません。


「見ての通り、人型であり、指が五本に足の指も五本。でも、体は毛に覆われていて服を嫌うんだ。そして顔はほぼ獣であり、しかし髪はある。食事も人と同じものを食べるし、人と同じように排泄もする。排泄に関しては、うちでは必須の躾になってるね。うちの店は高級店だから。排泄の躾がちゃんとしてる子、それがうちの店で扱う最低条件だ」


他の店では排泄だけでなく、そもそも躾がされてないこともあるんだ。と、先輩エルフは言う。


彼は、先輩エルフの説明を聞きながら、感動で打ち震えながら、目の前に広がる光景を見ていた。彼はケモナーである。最初に述べた通りである。そして、彼の好きな「ケモノ成分多めのケモノ娘たち」が目の前にいる。しかも多種類、多人数。


彼はほっぺたをつねった。

目の前の光景が本物かどうか。自分の目を疑ったからだ。

ほっぺが痛い。

つまり、これは夢ではない。

目の前に広がる光景は夢ではない。


彼は異世界に召喚されて地獄にでも来てしまったのかと思っていたが。実は天国に来ていたのだと認識を改めた。今ならあの貴族の男に感謝してもいいかもしれない。いや、やっぱり機会があればあの男には復讐とまではいかなくても仕返しはしたい。そう思い直す。


貴族の男への復讐を考えたのに、彼の手の甲は痛まない。奴隷の主人として獣人商が登録されているからだ。本当に復讐できるのである。ただ、実行した場合獣人商に迷惑が掛かるかもしないので、たぶんやらないだろう。それより天国で過ごすことのほうが重要だし。

彼の頭の中はこんな感じであった。




獣人たちの世話についてひと通り教わる。実践は明日からだ。

彼はいろいろとテンパっていたため気付いてなかったが、すでに夕方だった。

奴隷用食事(質素)を頂き、寝る場所(奴隷用大部屋で雑魚寝)に案内された後、就寝。

食事と寝床については、働き具合により変わるらしい。


寝心地は良くなかったが、獣人と触れ合える明日を考えるとそんなことは気にならなくなった彼であった。




◇◇◇




翌朝、同じ奴隷たちが起きる気配で起床し。質素な朝食を摂り、仕事部屋へ行く。

仕事部屋、つまり獣人たちのいる部屋だ。

彼は多種多様な獣人たちを見て口がにやけるのが止められない。

先輩エルフと一緒に仕事を始める。

もちろんイヤイヤではない。

甲斐甲斐しく世話をすれば好かれるのではないか。そんな下心を持ちつつ仕事をする。


獣人部屋の掃除。獣人の毛をホウキで掃く。獣人用寝ワラの交換をする。

彼に任された仕事は以上である。

他にも仕事はあるが、彼は素人であるためまだ他の仕事は任されない。

彼は残念であった。早くケモノ娘たちに好かれたいのに。


「それにしても、獣人たちは大人しいですね」


彼は疑問に思ったことを先輩エルフに聞いてみた。

捕まえられていると言っても過言ではないはずなのに、非常に大人しいのだ。


「あぁ、それはな。獣人と獣人商の歴史でな。獣人商は大人しい獣人を好んで飼育してたんだ。愛玩用としてちょうど良いこともあってな。それで、大人しくない活発な獣人は飼育されなくなった。森に放したりしてたんだが、活発な獣人は森を好むんだ。そういう感じで住み分けがされていった結果、大人しい獣人たちが店にいると。そういうわけだな。」


「じゃあ、この店でも活発な獣人は森に放してるんですか?」


「そうだ。店に置いておくと世話にいろいろと掛かるが、森に話せば何も掛からないからな。それに、活発な獣人は脱走するしな。その時に一緒に大人しい獣人まで逃げてしまうことがあるから、活発な獣人はすぐ森に放すことになってる」


「はぁ~、そうなんですか」


もう一つ、先輩エルフは知らないが。この店にいる獣人たちは大人しいだけでなく、人に懐きやすい獣人たちでもある。これも、獣人商の歴史の中で選別されていったのだ。




◇◇◇




こうして働くこと一週間。彼はこの生活にも、仕事にも慣れてきた。

そして慣れてくると…下心がむくむくと頭をもたげる彼であった。


彼の目の前には猫の獣人がいる。

顔は猫の顔だが、茶色の髪がある。頭のその他の部分には猫のように毛で覆われている。

体は腕と足が毛で覆われており、胴体部分の毛は産毛のようになっている。


つまり、彼の好みどストライクである。

そして、この猫獣人は獣人の中で彼に一番懐いているケモノ娘である!


頭を撫でれば喜び、喉を撫でれば喜ぶ…。そのまま頬を撫で、肩を撫でる。

次に背中を撫でたが―やはり喜んでいる。


こ、これは…イケるか!? 彼の頭の中では天使と悪魔が戦っていた。


悪魔「イケる、イケるって! いかなきゃ男じゃない!」


天使「慎重に、かつ大胆にいくんだ! スキンシップを確実にな!」


戦って…。

戦ってはいませんでしたね。



にゃぁ~ん



結局、彼は突撃してしまったようです。




◇◇◇




猫獣人ちゃんと甘い一時を過ごした彼。

やってしまったという思いと、本懐を遂げたという思いがあった。

なにせ彼はケモナーですからね。本望でしょう。


コンコン


彼がハっと振り向くと、そこには先輩エルフが居ました。


サッと顔から血の気が引く彼。

しかし、先輩エルフは嬉しそうに言いました。


「おまえ、獣人とヤれるほど好きなのか。上司からそう聞いてはいたけど、まさか本当だとは思わなかったよ」


「い、いや、あの、その、これは―」


「あぁ、心配しなくていい。責めようっていうんじゃないんだ。むしろ、おまえにとっては良い話だぞ。好きなだけ獣人とヤっていいって話だからな」


「えっ?」


彼は耳を疑いました。好きなだけ獣人とヤっていいなんて、そんな都合の良い話があるのかと。


「なんだ、愛玩用だと言ったろ? ヤるのなんて愛玩用の用途の一つだろうに」


そういえばそうです。愛玩用と説明されていました。地球でいうところの犬や猫だと思い、ヤるのは無いと思い込んでいたようです。もちろん、無いと思い込んでいた彼が行為に及んだのはケモナーの業と言っていいでしょう。


「だから、ヤるための愛玩用の躾の一つにヤるときの作法とかいろいろ教える仕事があるんだよ。もちろんヤる目的のない愛玩用にはないぞ」


「それでな? ヤるときの作法とか教える仕事のことはエロ指導って呼んでるんだが、獣人へのエロ指導はできるやつとできないやつが居てな。できない理由は生理的な問題で強制できないんだよ。強制したところで勃たないからな。で、おまえやるか? っていうかやるよな? ヤってたしな!」


「は、はい。それはもう喜んでやらせてもらいたいと思いますが…」


テンション高めの先輩エルフに、まだ少しついていけてない彼は少々言葉が怪しくなります。


「そうかそうか! じゃあ問題ないな。上司には俺から言っておくから。確実にエロ指導担当になれるから心配するな。あと、ヤったのもお咎め無しだ。本当にヤるとは思わなかったが、エロ指導用の獣人部屋をおまえの担当にしたからな!」


おおっと、半信半疑だったそうですがエロ指導用獣人の担当にされていたようです。

先輩エルフのお陰でお咎め無しだそうです。良い先輩を持ちましたね。


「あ、でもエロ指導用じゃない獣人に手を出したらこうだからな。気を付けろよ!」


手で首を切るジェスチャーをする先輩エルフ。

あー、やっぱり手を出すのはヤバい行為だったようです。

自分の行為がいかに危険だったかを説明されて理解する彼。背筋に冷たい汗が走ります。


「いやー、よかったよかった。これでエロ指導の仕事が俺に回ってくることはないな!

 俺はあんまり趣味じゃないんだよなぁ」


そう言いつつ部屋を去って行く先輩エルフ。


あとに残されるのは、本懐を遂げたけれど、やはり本望として死ぬところだったかもしれない彼。

運が良かったと言えるでしょう。




◇◇◇




翌日、上司に呼び出された彼。


「やぁ、ヤっちゃったんだって?」


上司の部屋に入った途端、爽やかに話を始められる。

まったく怒った様子のない上司。

先輩エルフの言っていた通り、本当にお咎め無しのようだと安心する彼。


「まぁ、エロ指導用の獣人相手で良かったよ。エロ指導用じゃない獣人相手だったら処刑しなきゃいけないところだったからね。うちの獣人はみんな高価だからね。手を出す不届き者は処刑されるんだよ」


処刑と聞いてビクッとする彼。

どうやら上司、釘は刺すつもりのようです。


「エロ指導用じゃない獣人には手を出さないようにね?」


「はっ、はい! 肝に銘じます!!」


「うん。それじゃ本題に入ろうか。今日から君にはエロ指導もやってもらう。エロ指導についてはエロ指導部門の人に教えてもらうように。先方には伝えてあるから。」


「はい!」


「あ、これも一応言っておくけど。エロ指導と言っても、やって良い範囲というのがあるからそこから逸脱しないようにね。したらこれだから」


手で首を切るジェスチャーをする上司。さらに続けて。


「数年に一度くらい逸脱して処刑されるひとがいるから君も気を付けるようにね」


「ひゃ、ひゃい!」


数年に一度は処刑されていると聞いてビビる彼。

返事も噛んでしまっている。


「それと、君の真面目な働き振りとエロ指導の仕事の追加を鑑みて、君の食事と寝床のランクが上がることになったから。部屋とか確認しておいてね」


なんと、まだ一週間しか経っていないのに。彼の待遇が良くなりました。

まぁ、それも当然と言えるかもしれません。なにせ、ケモノ娘たちの世話です。彼が手を抜くはずありませんからね。


その後、彼が獣人とヤるだろうと見抜いたのは獣人商その人で。ヤるかもしれないから配慮した配置にするようにとのお達しがあったことを聞く。

そのお達しの通り、上司から先輩エルフに指示があり。先輩エルフも半信半疑ながら、もし彼がヤるなら自分の仕事が減るためにエロ指導かつ制限なしの部屋に配置されたとのこと。

配慮がありがたいやら、見抜かれていて恥ずかしいやら。彼は顔を真っ赤にして上司の部屋から辞去したのでした。




◇◇◇




彼がエロ指導の仕事を任されて半年が経ちました。


エロ指導部門にて最初に教わったのは、やって良い範囲という。お客様の要望についてでした。


性技の何を覚えさせるか。何を教えてはいけないか、そういうことだそうです。

しかし、彼にとってはケモノ娘たちとの甘い時間であることには変わりありません。


一心不乱にエロ指導の仕事をしました。

いえ、楽しみました。というべきでしょう。

彼はもう、あの貴族の男のことなど覚えていません。

ケモノ娘たちに夢中なのです。




そして今日、彼は上司とともに獣人商に呼ばれていました。

ですが、この半年間獣人商に呼ばれる奴隷など見たことがありません。


獣人の世話にエロ指導、彼はケモノ娘たちへの愛を込めてやっていました。

なので、マイナスの理由で呼ばれているわけではないと予想しつつも、やはりちょっと不安はあるようです。


獣人商の執務室に入ります。


彼は獣人商の前に立ち、上司は獣人商の横に立ちました。


「よくやってくれているようですね。あなたの働き振りは非常に評価が高いですよ」


獣人商からお褒めの言葉を頂きました。

彼は、叱責や処刑でないことに安堵します。

しかし、次に獣人商から発せられた言葉に凍りつきます。


「あなたの働き振りを評価した結果、あなたを奴隷から解放することにしました」


奴隷から解放、奴隷として買われて働いているのに、奴隷から解放…。

それはまさか―!?


「待ってください! お願いです、ここで働かせてください! 奴隷のままで良いですから!」


彼は土下座して懇願します。この世界に土下座があるかどうかは分かりません。

そこまで頭が回っていないのです。この店をクビになるかもしれないと、そう思い当たった瞬間。彼は土下座していました。

その土下座に返ってきたのは―


「あっはっはっはっは」


楽しそうに笑う獣人商の声でした。

「楽しそうに」笑われたため、彼はびっくりして顔を上げました。


顔を上げた先に見えたのは、我が意を得たりという顔の獣人商。そしてほほぅ、という顔の上司でした。


「心配は要りませんよ。別にあなたを放り出そう。クビにしようというわけではありませんからね」


獣人商から想定外のことを言われて戸惑う彼。


「どうですか?」


と、獣人商から問われて返す上司。


「いや、いつもながらさすがですな。獣人愛を持つ者を見抜く目は。それも、ここで働けるなら奴隷で良いとまで言うとは…」


「いやぁ、私もここまでとは正直予想以上ですよ」


獣人商が上機嫌で話す。


「さて、話を戻しますが。あなたをクビにするのではなく、奴隷から解放しその上で従業員として雇いたいと思っているのです」


ものすごく良い条件の話をされる彼。彼のケモナー愛が認められたようです。


「あなたの獣人愛は本物でした。いえ、それ以上です。ならばあなたを是非雇いたいと思います。同じ獣人愛を持つ同志として」


やはり、間違いなく良い話のようです。この店のトップの同志として、とまで言われています。


「あ、えっと、ここで働けるなら、お願いします」


ようやく出た返事でしたが、ここで働きたいというものでした。

獣人商だけでなく、上司も笑います。




こうして、ケモナー愛を認められた彼は、愛するケモノ娘たちとの生活を続けます。

その生活がケモノ娘たちの世話や、調教といったものなのは―


やはり彼の業は深い、ということなのだろう。




おしまい。

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