カラスと共に
《新たな登場人物》
・コルボ・アレグロ:陽気なファミリーの幹部。アメリカからボルサリーノに呼び寄せられた。
・ニック・サルト:イタリアの仕立て屋。ボルサリーノのお気に入り。
金曜日の夕方、研二は成田空港に父と共にいた。研二はジーパンと白いTシャツにデニムシャツを羽織るという格好だった。
「どうだ? 初の海外旅行ってのは?」
初めての海外旅行 in イタリア……!研二の心は踊っていた。手にしたキャリーバッグはいつもより軽く感じた。母静子とロイは日本で留守番、父と二人だけの男旅だった。ふと、外の旅客機に目をやった。
「俺らはどれに乗んの?」
子供っぽく研二は父に聞いた。
「ん? ああ、俺らが乗るのはそこにはないよ」
父はそう答えた。当然のように答えた。
(え? ここにない……? てことは、もしかしてだけど……)
ふとした疑問を父にぶつける。
「え? もしかして、俺らが乗るのって……」
「あ、うん。プライベート・ジェット」
(ひぇ~! 恐るべし…)
研二は忘れていた。父ボルサリーノは大手レストランチェーンの社長であることを。そして、偉大なる首領であることを……。
「あ、そうそう。大事なことをいい忘れていた。今回は俺らだけじゃない。もう一人連れがいる」
「へぇ~。どういう人?」
「現地で合流するよ。まあ、俺の友人みたいなもんだ」
そうとだけボルサリーノは言った。
(……いや、普通はこれより大事なことを先に言うんじゃないのかなぁ)
研二は内心そう思った。実際、研二はプライベート・ジェットなどとは縁もゆかりもない人生を過ごしてきたのだから、当然と言えば当然だ。
ミラノに着いたのは大分遅かった。空港に着くと一人の男が手を振っているのが見えた。
「よぉ~ボス!! 長旅、お疲れさまで。あ、荷物はこっちに渡してくださいよ」
ド派手な服装だった。黒のジャケットに紫のシャツ、金のネックレスが首元でギラギラと光を放っている。茶色のサングラスをかけたアフリカ系アメリカ人の男性だった。男は荷物を受けとると、研二の方に目を向けた。
「あ、この人がボスの……。カッコいいイケメンじゃないですかっ! ガハハハハハ~!」
大きな声で陽気に笑う。研二は、これが父の言っていた友人だと予想した。
(おいおい……)
少しあきれる研二。
「相変わらず、大きな声だな。あ、研二、コイツはファミリーの幹部で闇賭博を担当しているコルボだ」
ボルサリーノが紹介した。研二の予想は確信に変わる。
「よ、よろしくお願いします…」
「おうっ! 紹介にあずかったコルボ・アレグロだ。好きなものはうまい飯と、うまい酒。そして、、、可愛い女の子だぁッ!!! よろしくな~!」
年齢は50代というところか。二人は握手を交わし、止まっていた車の中に乗り込んだ。
(にしても、50代で……)
確かにそうだった。いい歳した50歳の大人が大の女ったらしというのは結構なインパクトがあった。ただ、その明るさ、気さくさは研二を安心させた。
「ボス、まずはあのテイラーですかいね?」
コルボはボルサリーノに尋ねた。その声は高級車の車内に響き渡る。
「ああ。ちょっとスーツを仕立てないとなのでね」
「へえ。こないだも白のスーツを仕立てやしませんでしたかね?」
少し不思議そうに尋ねるコルボ。よほどの頻度でここと向こうを行き来しているのだろう。
「あ、いや。今度はほら……」
その一言でボルサリーノの意図を見抜いたのか、コルボはウィンクをした。
△▼△▼△▼
しばらくすると、車は一軒の店の前で止まった。
「下りるぞ、研二」
そう言うとボルサリーノは店の中に入っていった。
「よお、ニック。相変わらず元気そうじゃないか」
「これはこれは、カルヴァン様。いらっしゃいませ。本日はどのようなご用で?」
初老の男が頭をペコペコと下げながら言った。少し禿げかかった頭を見せながら。
(なるほど……ここでは表の身分を使うのか……)
研二はそう悟った。アルバート・カルヴァンの名がレストラン経営者としてのボルサリーノの姿だったのだろう。
「うん、スーツを仕立てて貰いたいのだが」
「はぁ。いつものサイズのものでよろしいですかね?」
店主がそう言うと、ボルサリーノは首を振った。
「いやいや、私のではないよ」
そう言って研二の方を見た。
(え? 俺……?)
「ああ。息子さんのですか。わかりました。早速採寸しましょう。すいませんが、こちらに来ていただけますかね?」
そう言うと、店主は研二を奥の部屋へと招いた。
「……すまんが、生地の色は暗いグレーで、素材は防弾使様にしといてくれ」
ボルサリーノほ店主に囁いた。
採寸が済むと、首にメジャーをかけた店主はボルサリーノの方を見た。
「あの、すいません。代金の方ですが……」
少し申し訳なさそうに言った。
「ああ。いつもの方法で。指定口座から好きな額引き落としていい。完成したら、この場所に送ってくれ」
そう言って、ボルサリーノは紙切れに住所を書き残し、店を出ていった。研二もそれに続いた。
「どうも、ありがとうございました」
店主はそう言うと、研二たちを送り出した。その後、研二たちはレストランで食事を楽しんだ後、観光を思いっきり楽しんだ。途中、コルボは自分が付き合ってきた、女の話を面白く聞かせてくれた。
こうして、研二の初海外旅行は充実したものになったのだが、それと時を同じくして、イタリアに来ている者、また、研二たちと入れ違いで日本に来た者がいた……。ヤツらは動き始めていた…。
一体イタリアで何が……?
次回、イタリアで何かが起こる……。そして、新キャラ登場です!