違和感
その頃ボルサリーノは執務室で、膨大な資料に追われていた。山積みされた書類を手にとっては眺めるボルサリーノ。
「また、ファミリーの仕事か?」
ソファーに寝そべっていたパトリックが身を起こして声をかける。
「ああ。少し気がかりなことがあってな。ほら、奴等の侵入経路、以前にも似たようなことが無かったかなと思って」
ボルサリーノの家はファミリー本部という側面も持ち合わせていた。その為、周囲には高い塀が築かれファミリーの人員ーーその中でもかなりの手練れが警備を担当していた。だか無敵の要塞は昨夜、チンピラの侵入を許してしまった。
「……確かに妙な違和感を感じるぜ。普通なら正面きって攻め入ろうなんて考えるはずがない。しかし、何で……?」
「そう。そして、正面からの侵入こそが一番ここを落としやすいことはファミリーの人員でも一握りしか知らない。他にも謎は残る。敵対するファミリーが乗り込んで来ようとするならまだ分かる。だが、なんでまた日本のヤクザなんかから人が回された?」
「……なるほど。何から何まで不可解だ」
本来狙われるはずのない弱点、場違いにもほどがある敵、そして息子研二の存在ーー。不安要素はたくさんあった。
「……ん? 電話か。俺が出るぞ」
電話のベルに気づいたパトリックが受話器を取った。
「あ、もしもし。○×△□教団の者ですが、あなたは神を」
「ああ゛? 神だぁ? 俺のことだ」
パトリックは乱暴に受話器を戻した。
「あながち間違った答えじゃないな、パトリック。俺にとっちゃお前は株式の神だぜ」
ボルサリーノの発言が嬉しかったのか、にんまりと笑うパトリック。だが、、、再び電話のベルが鳴る。
「はい、こちらボル」
「ねえ、ジェリー頼むからもう一度だけ……。あなたとやり直した」
「ジェリーなんて知らんっ! ゼリーでも食ってろっ!!」
再び受話器を乱暴に戻すパトリック。
「……電話、多いな」
「ああ、全くだよッ!!」
少しイラつきを覚えているのか、ソファーにどっと腰を下ろすと、テーブルの上のアイスコーヒーをグッと飲み干した。
(ったく、なんて日だ……)
そう思った矢先、再び鼓膜に響くベル。
(っ、ああ゛~!!!! 鬱陶しいなもう!!!!)
「おいおい! 今度は何だッ!!!」
心の声が先に出てしまう。
「……? もしもし、相談役ですよね? レッジですが、今取り込んでますか?」
「お、おうレッジか。すまない、ちと苛立っていてね。で、用件は?」
「はい、やっぱり奇襲にあいました。こちらに負傷者はありませんが、例の組織から鼠が回されています。いかがなさいましょう?」
「……何で奴等はお前たちがそこを通ることを知っていたんだ? だが、今交渉を決させるわけには……」
しばらくの沈黙が流れた。




