晩餐
蝋燭の灯りが暗いその部屋を照らし、大理石の床ににわずかに映った。この蝋燭の火だけが互いの顔を認識させる。ドローレスは食前酒として用意されていたシャンパンを一口啜った。豊かな薫りが鼻にまで広がり、口の中で細かい泡が踊っている。喉をつたって流れ込んだ液体は酸味と苦味を残して消え去った。
「フフッ、以前黒田氏とロシュフォールさんをお招きした際には、そのシャンパン一つでも喧嘩になりまして」
「はぁ……。よりによってあの二人を一緒に招いたのか?」
「見ていてなかなか面白かったですよ。ところで、貴方はイタリアへは何度か?」
オーガスタは前菜の盛り合わせを口に運びながらオーガスタへ訊ねた。薄くスライスされたトマトに添えられた純白のマスカルポーネチーズ。その上に岩塩と黒胡椒がふられている。
「ああ、何度か仕事でね」
「フフッ、仕事……ですか。レコレッタでの任務は聞き覚えてますが、その他には一体どのような?」
パンをちぎっていたドローレスの手が止まった。ゆっくりと顔を上げる。オーガスタも食事の手を止めた。少しの間、二人は見つめあった。沈黙が二人を覆う……。
やめましょうというオーガスタの一言が二人を食事に戻した。
「失礼、前々から気になっていましてね」
「ふっ、素性の詮索はよそうぜ。お互い」
「貴方もなかなか言ってくれますね。だが、折角の料理の味を落とすのは勿体無い。ただ、一言だけ申し上げておきましょう。ーー私にとって、貴方は敵には回したくない男だ」
「ほお、嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
「フフッ、何処までが本心やら……。さあ、話は此処までで。そろそろメインが運ばれる頃だ」
そう言ってオーガスタは話を終わらせた。後に、研二達が関わる世界中を巻き込んだ“大きな闘い”はこのとき既に始まっていたのかもしれない。だが、それはまだまだ先の遠い未来の話。まだまだ先のーー。
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「……ほお、ウブ・ラウレイ。それがアンタの上司か」
男の胸蔵を掴みながらレッジは問い詰めた。
「ああそうだよ!! BREAKの幹部、ウブ・ラウレイさんだ! もう、良いだろう。いい加減その手を離してくれっ!」
「ふっ、なるほどな。ありがとう、もうお前に用は無い……」
そう言うとレッジは男から手を離した。そして、再び男の眉間に的を定め、ゆっくりと引き金を絞る。
「おいおい、待てって!! ちゃんと答えただろうが! ……あ?」
鈍い音がした。レッジの持っていた拳銃ーーいや、拳銃の形をしたライターはその銃口に火をともしていた。
「俺は雑魚は相手にしない主義でね。相手にするまでもない鼠どもには丸腰って決めてんだ。じゃあ、そういうことで。先を急いでるんでな。よい一日を。Ciao~」




