天国へのカウントダウン
一触即発の事態だった。
「待て、待て。そう焦るなよ、ブラザー。俺らはただの通りすがりだぜ?」
レッジは冗談めいたように言った。だが、研二はそれは少し不自然に思えた。まるで鉄仮面。普段のレッジはそんな雰囲気だった。とてもこんな口調が似合う男では無かった。
「笑わせんなよ、あいにく俺らは暇人じゃねえんだ。オラ! さっさと隠し持ってるもんすてやがれっ!!」
男が品のない言葉を浴びせる。レッジに向けられた銃口は依然として変わらず、冷たさがあった。
(? 胸に隠し持っている……? ってことは、銃持ってったってことか! 良かった……)
研二は少しだけ安心した。だが、刹那、、、
「はいはい、分かったよ。俺らはアンタらとやりあうつもりは無いんだ」
そういうと、レッジはゆっくりとジャケットの前ボタンを外し、ホルスターから銃を抜くと、それを高く放り投げた。そして、ゆっくりと手を上に挙げた。
(はあああああああ!? 捨てるの? え、捨てるのかよ銃!)
安心が絶望に変わった瞬間だった。二回弾んで銃はレッジから離れた場所に落ちた。研二は叫び声を上げないように口に手をあて、叫びを殺すことしか出来なかった。
「そうだ。それで良いんだよ。なかなか、話が分かるじゃないか。もしかして、お前あれか? 下っ端だからろくに実戦の経験もない、こ~し抜けってヤツか?」
男はゲラゲラと下品な笑い声をレッジにぶつけた。その笑いは男の取り巻きにまで及んだ。手を上に挙げる姿……。その姿は強さの前に打ち砕かれた者の姿。そんなことすら思わせた。
「おい、シーザー。さっさとガキ諸とも片づけちまおうぜ。なんなら、コイツを片づけてから車ごと発破で天国まで送ってやろうぜ?」
「あ? そいつはいい、名案だぜサム。でも、まずはコイツだな。俺が片付ける」
そう言葉を返すと男は銃の照準を、レッジの眉間に定めた。
「ロイ! ねぇ、ロイ!!」
ふと、フロントガラス越しに状況を傍観していたロイに声がかけられた。ロイは慌てて我に帰った。居眠りをしていた生徒が先生に声をかけられ、目を覚ます。そんな感じだった。
「っ! あ、研二様! どうかしました?」
「ど、どうかじゃないよ!! レッジが、レッジが……」
「ああ、アイツなら大丈夫ですよ~」
「で、でも……」
研二は狼狽した。頭数でも負けている敵を前に、武器を捨てる。まして、敵は武器を持っているのに……。そんな中でも平然と大丈夫などと言ってられるロイが不思議だった。
「なあ、このまんま死ぬっていうのも芸が無いとは思わないか? 死ぬ前に一つ、面白い手品を披露するぜ」
レッジはゆっくりと前の男を見ていった。