危機迫る
「……しかしなぜ貴様となのだ」
運転席後ろーー後部座席左からレッジは助手席に座っているロイに声をかける。その隣ではナターリアがハンドルを握っている。そして、ナターリアの後ろ、つまりはレッジの隣に研二が座っていた。
「仕方無いだろ、ボスの命令なんだから。本来なら俺一人でも十分だってのにさ」
「貴様というお荷物は必ずと言っていい、どっかで油を売りやがる」
「お、お荷物とは何だっ! そんならお前は堅物脳筋金髪ゴリラだってのッ!!」
「俺がゴリラだったら、お前は犬か?」
「ふん! あいにくだが、“狂犬”の二つ名は今だって健在だぜ」
「自分で二つ名を言うとは哀しいヤツだ。ロイ、やっぱりお前は犬だな。ほらお手」
「っ! 誰がするかぁあああああ!!」
「上司に逆らうな」
そんなレッジとロイのやり取りがこの後、二時間くらい続いていた。ナターリアはというと、ただ平然とハンドルを握ったまま車を走らせるだけだった。
しばらくしてからだった。ロイが異変に気付く。数秒遅れてレッジも。今、車を走らせているのはニューヨーク郊外の寂れた道路。ほとんど車を見かけることのない道路のはず……だった。しかし、あるはずのない車がそこにはあった。それも二台も。レッジも少し遅れて感づいた。レッジは研二にしゃがんで姿を隠すように促し、ナターリアに車を止めるよう指示した。
「ここは俺一人で片付ける。ただ、万一のことを考えて一応銃は構えられるようにな」
そういうとレッジは車を下りた。二台の車からも拳銃を手に持ったいかにもあやし~い男たちが4、5人くらい下りてきた。スーツにサングラス、そして拳銃を所持している。善良なる市民で無いことは誰が見ても分かる。研二たちの車と男たちの車との距離は50m足らず。戦闘になった場合、勝ち目はない。
ふと、研二はレッジの座っていた所に目をやった。そこには黒い拳銃が、持ち主に取り残されたようだった。
(……え? えっ! け、拳銃置いてって……あ、うっ、じゃ、じゃあ今レッジーーは……ま、丸腰なんじゃあ……?)
考えたくも無い最悪の考えが、研二の頭の中を巡る。耐えきれず研二はロイに小声で訴える。
「ろ、ロイ、レッジ拳銃忘れて……ない?」
その時だった。男の一人が右手に持った拳銃でレッジ眉間に照準を定めた。
「よお、今ここで俺たちの言うことを聞かなかったら、そのおつむの中身をぶちまけることになるぜ」
男が脅し文句をぶつけてきた。




