刹那の政変
その頃、ワシントンD.C.ペンシルベニア通り935番北西にそびえ立つ建物――FBI本部では、CIAとの合同作戦について話がなされていた。まだ若い新手のFBI捜査官ミッキー・クラウンは上司であり、パートナーである中年のベテラン刑事ゴメス・メルヴィルと手元の資料に目を通していた。《RGB計画》そう表に書かれていた冊子を開く。
「ゴメスさん、今回の一件どう思います?」
パイプ椅子の背もたれに寄りかかった、クラウンはざっと目を通した資料を閉じる。アメリカ裏社会に君臨する帝王の逮捕、それがこの計画の目的の一つだった。
「どうって……。ヤツの逮捕のことか?」
メルヴィルは頭をかきむしる。長らくFBIに勤務、法の番人として働いてきた。そんな彼の刑事生活が終わりに近づいた矢先、転んできた事件がこれだ。
「ええ。仮にヤツを逮捕したとしたら、マフィア連中の抗争は激しさを増しますよ」
「だが、ヤツの行動を我々も黙って見過ごすわけには行かないぞ。それがいくらアメリカ裏社会の秩序を乱すとしても……だ」
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同じ頃、黒田は木曽組の事務所にいた。隣には小田切がおり、その後ろに小田切の部下が数人いる。
「ご苦労だったな、小田切。これで竜東会は潰れた。さて龍、取引と行こうか」
東郷は椅子の座ったまま、黒田の方を見る。
「いやいや、組長。バカ言っちゃいけねぇよ」
黒田はチッチッと立てた人差し指を振りながら言った。
「おい、どういうつもりだ? 竜東会を潰し、ガキも見つけた。それと引き換えに武器を貰うそうだろっ!?」
机をバンッと左手で叩きつけ、東郷はじっと黒田を睨み付ける。その時だった――。
後ろにいた小田切の部下が東郷の後ろに控えていた組員に発砲する。それを合図に、黒田、小田切も隠し持っていた拳銃を取り出した。そして、東郷の胸元にたっぷりと鉛の弾を浴びせる。
「ぐ、ぐ……き、貴様らぁああああ!」
「東郷、俺はテメーに売るなんて一言も言ってないぜ? 俺が武器を売るのは木曽組六代目組長、小田切竜也にだ。長らくお勤めご苦労様で」
黒田はわざとらしく頭を下げる。小田切の手に握られた拳銃が火を吹く。呆気なく東郷は息を引き取った。
「つまりそういうことだ。木曽組は今後、この俺が仕切る」
この日を境にして、関東はヤツらの支配下になった。それは、ごく少数の人間しか知らないことだが、紛れもない事実だった。




