守るべき物
まだボルサリーノ・ファミリーがアメリカを制していないときだった。
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当時、ニューヨークはチャールズ・J・ボルサリーノを長とするボルサリーノ・ファミリー、アンドレア・ヴァレンチノを長とするヴァレンチノ・ファミリーの二大勢力が仕切っており、抗争が絶えなかった。
抗争はボルサリーノ・ファミリーの勝利に終わり、ヴァレンチノ・ファミリーはアメリカを追われた。だが、ボルサリーノは大きな心の傷を負うことになってしまった。息子、ベッティネリ・ボルサリーノの死。ボルサリーノの生涯で最も尊い物を失ってしまった。
「ベッティー、私は間違っていたのだろうか?」
ボルサリーノは写真に話しかけた。抗争の最中、拉致された息子……。マフィアの世界において、子を持つことはある意味タブーなのかもしれない。傷つくのが、失うのが怖いから――。
ボルサリーノは何も息子を見殺しにしたわけではなかった。相手が与えた選択肢は二つ。
「息子の死か、ボルサリーノの死か」
だが、ボルサリーノが取った策はそのどちらでもなかった。自殺したかのように見せかけて、息子を救う計画。完璧な計算のもと撮影された、どっからどう見ても自殺したようにしか見えない映像にボルサリーノは運命を託した。しかし、
「ボス、こちらはソニーです。ヤツは生きてます。映像はダミーだと思われます」
ボルサリーノ・ファミリーの一員だったソニー・ドローの裏切りが発覚、裏切り者のたれ込みでボルサリーノの計画は露見してしまった。そして、ベッティネリは帰らぬ人となってしまった――。
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「私は、富を手に入れた。委員会の長という肩書きのもと、アメリカを手に入れた。だが、私にとってかけがいのないものは消えてしまった……」
手に取っていた写真を静かに戻すと、ボルサリーノはゆっくりと引き出しを開けた。中には一つの銃がある。黒く輝く鉄は冷たく光る。トンプソンM1921。かつてボルサリーノが使っていた銃だった。あるときは自らの野心のために、あるときは復讐のために。忠実にボルサリーノにしたがってきたこの銃は、ボルサリーノが本当に守るべき物を守れなかった。
ボルサリーノは、ドラム型の弾倉を取り付けた。その日、ボルサリーノは再びその銃を手に取ることを決意した。今度は己の守るべき物を守るために……。この銃が火を吹くのは人を殺めるためではなかった。人を守るためだった。




