SMOKING GUN
ロイはじっと銃口を凝視する。男の小銃、コルトM4A1カービンの引き金がゆっくりと絞られる。そのときだった。男の右の脇腹に一発の銃弾が貫通する。ロイは銃弾が飛んできた方向に目を向け、驚く。
「ちょいと兄さん、どこぞの家と間違えたんじゃないかな?」
落ち着いた声が男を呼び止める。
「ああん? 誰だてめぇー!?」
男は慌てて声の方向に小銃を向ける。が、小銃は音をたてて落ちていく。男の手に痛みだけが残った。
(ボ、ボス…!)
(父さん…)
ゆっくりと階段を下りていく首領・ボルサリーノ。彼が手にしたトンプソンM1A1は白煙を上げていた。ロイ、レッジ、そして研二はそれをじっと見つめる。他の男たちがボルサリーノの方に狙いを定める。だか、ボルサリーノはうろたえもせず、トンプソンM1A1の鉛の弾を撃ち続ける。男たちが発砲する前に男たちの銃器が音をたてて落ちていった。
「俺の名はボルサリーノ。此処へ何しに来た?」
ボルサリーノがゆっくりと男に近づく。
「けっ、んなもんは自分の頭で考えやがれよ」
男は相変わらずヘラヘラ笑っている。こんな状況でもまだ余裕がある。ボルサリーノの目に怒りが見える。
「今日午前、俺の息子を襲った輩がいる。お前らだよな?」
ボルサリーノはその銃口を男に向けずに言う。怒りは感じているが、憤りもせず、そほ口調は冷ややかだった。それが首領の中の首領たる所以であり、尊厳だった。
「…だったら、何だ?」
男はまだ笑っている。二人の声しか響いていないこの光景を研二はじっと影からみていた。
「ふざけんじゃねぇぞ!!」
怒鳴ったボルサリーノが男の腹部に蹴りを入れる。研二は初めて父が怒鳴ったのを見た。男は後ろにのけぞり、後頭部を打った。
「一体、誰の指示だ?」
ボルサリーノは倒れたままの男の襟元を手で掴んで自分の近くに寄せて聞く。だが、男は何もしゃべることなく、不気味に笑うだけだった。すると、ボルサリーノはトンプソン・サブマシンガンを放り投げ、胸元からM29 44マグナムを取り出す。クルクルと何回か回したあと、
「では、しょうがないな」
そういって男の胸元から手を離した。ゆっくりとマグナムで狙いを定める。その後、一発の銃声が響く。だが、鉛の弾がとらえたのは男の眉間でもなければ、胸元でもない。男の左太ももに大きな穴を開けた。男は必死に両手で傷口を押さえる。口からは発せられた苦痛の叫びが研二の耳にも届く。痛みにもがき苦しむその様は残酷だった。だが、男の手の他にもその傷口を強く圧迫するものがあった。
「おい、床が汚れちまうだろ? 早くその血を止めろよ。それとお前、何処のどいつだ?」
その時研二が見たのは今まで自分が見たことの無いような光景、男の傷口を黒い革靴でグリグリと踏みねじながら、詰問をする我が父の姿だった。




