空になった弾倉
轟音の正体はプラスチック爆弾だった。高く積まれていたかレンガの壁の一部が音をたてて崩れる。その回りには武装し、スーツを着た男たちが集まっていた。横には警護にあたっていた男がスタンガンによって気絶して倒れている。
「よし、そろそろ突入するか」
「だな。準備はいいか?」
「早くしねぇと逃げられちまうぞ」
「おい!俺の足踏むなって!」
「押すなよ~!」
男たちの会話はあまりにも滑稽だった。銃を手にしていてもそれは変わらない。鉛の弾に頼っても、己の弱さに代わりはなかった。臆病な彼らにとって、硝煙は麻薬も同じだった。その鼻につくような臭いが彼らを安心させる。震える手で銃を握りしめた黒服の男たちは、夜に溶け込むとそのまま突入の準備に入った。
「ロイ、研二を頼む。レッジは俺と来い」
そういうと、武器庫へと走っていった。ボルサリーノはトンプソンM1A1を手に取ると、弾倉を何本かベルトの間に挟み、駆け出していった。レッジもサブマシンガンを手にとる。そして、近くにあったアサルトライフルを肩に掛けると、弾倉をポケットにねじ込み、ボルサリーノの後を追って、タイルの敷き詰められた廊下を駆け出した。
「ふぅ~。ったく、面倒な奴らですね~」
コルト・ガバメントの弾倉を替えながらおもむろにロイがぼやく。敵の数はだいたい15人といったところか。全員が拳銃の他にアサルト・ライフルやショットガンなどを保持している。瓦礫を踏んだ靴でボルサリーノ邸に押し入り、銃撃を繰り返す様だった。螺旋階段の右にある壁に隠れたロイは研二を庇いながらコルト・ガバメント撃ち続ける。
「ちっ!このままじゃラチがあかない」
3本目の弾倉が空になりかけたときロイは舌打ちをした。すると、そのとき螺旋階段の左からボルサリーノとレッジが駆けつける。
「待たせたな」
レッジが声をかけて、持ってきたアサルトライフルを滑らせ、ロイに手渡す。
「……ロシアの銃?俺の好みじゃ無いんだけど」
アサルトライフルを手に取り、投げられた予備の弾倉を受け取りながらロイが愚痴る。男たちはまだ立て続けに銃をぶっぱなしていた。
「愚痴るのは後にしろ、ロイ。準備はいいか?」
レッジがサブマシンガンを抱えてロイに声をかける。
「ああ、いつでも。研二様、少しここで待っててくださいね」
ロイが研二を後ろに下がるよう促す。レッジの後ろではボルサリーノがトンプソン・サブマシンガンを構えてその時を待っていた。
「3つ数える。そしたら――だ。いいな?」
ボルサリーノの呼び掛けに二人は静かに頷き、銃弾を受けてボロボロになりかかった壁から敵を確認する。
「1……、2 ……」
息を飲んで見守る研二。だが、ロイたちはまばたきもせずじっと待っている。
「……3! いくぞ!!」
ボルサリーノの声が聞こえた。刹那、レッジ、ロイは階段を駆け出し、銃を撃っていく。慌てふためく敵をよそに、ロイは銃を撃っていった。空になった薬莢が階段に甲高い音をたてて転がり落ちていく。男たちの手からも次々と銃器が落されていった。広いフロアのせいか、床に当たる音はよく響く。
レッジもいくつもの銃弾をかわしながら男たちに次から次へと銃口を向ける。落とされていった銃器を蹴り飛ばしながらサブマシンガンを撃ちまくった。
「ちくしょー! マフィア共が! 死ね! 死ね死ね死ねー!」
一人の男が発狂したかのように小銃を乱射した。ロイがその男に狙いを定めようとしたとき、男は不気味に笑いながらロイに近づく。手に小銃を持って…。ひたすら撃ち続けたロイの弾倉は既に空だった。
(……ちっ! まだ弾が残っていやがったか! こっちはもう弾が尽きた。どうする……)
弾倉を替える間もないロイを男が狙う。
「けっ、くたばれ」