招かれざる客人
扉が大きく開けられた。そのなかはまるでテレビの撮影に使われるかのような、豪華なフロアだった。金細工の手すりの階段が左右に広がり、天井のシャンデリアが華やかさを演出していた。すっかり見入っている研二に老人が声をかける。
「おっと、私としたことが。自己紹介が遅れました。私、カルヴァン様すなわちボルサリーノ様の執事、アルフレッドでございます。研二様が産まれて間もない頃、一度だけお目にかかりました。どうぞ、よろしくお願い致します」
老執事は丁寧なお辞儀をする。
「あ、はい。こちらこそ」
研二もお辞儀をする。
「これはこれはご丁寧に…。では、何かあったらベルでお呼びください。それでは、失礼します」
そういうと、老執事はどこかへと消えていった。
「さて、研二様、お部屋へと向かいましょうか」
ロイは研二を部屋へと案内した。
廊下を歩いていくと、次々とメイドが研二に会釈をする。また、廊下の装飾もなかなかのもので、研二はあたりこちらに目移りした。だが、一番目が離せないのはロイ…。な、なんと次から次へとメイドに声をかけていく。
「ねぇ、君~。今夜空いてない?」
「あ、すいません。今夜はちょっと…」
(女たらしと言われるだけあるな…)
研二は呆れるしかなかった。廊下を進むと、そこにはホテルのスイートルームのような豪華な部屋だった。ふかふかのソファーに、シャンデリア、ガラス張りの机…。部屋の中には研二の荷物も運び込まれている。
(うわぁ……ヤバい、メッチャ綺麗……)
驚きを隠せない研二。ここが我が家ということも忘れていた。というより、その実感がなかった。
「なかなかですよね。あ、この他にも温水プール、バーカウンター、テニスコートとサッカーコート、ゴルフ場、屋内体育館など備えてますよ~♪」
(これは本当に家なのか!?)
研二はあまりの凄さに言葉を失った。もはや、そこはアミューズメントパークとホテルを組み合わせたような楽園だった。
ちょうどその頃、ボルサリーノも帰宅していた。レッジに運転させたロールス・ロイスはガレージの中に入れられた。
「お帰りなさいませ、旦那様。研二様は今お部屋にいらっしゃいます」
「そうか。ありがとう、アルフレッド。すぐ夕食にできるか?」
「はい。支度させましょうか?」
「うん。宜しく頼む」
「承知しました」
老執事は再び姿を消す。
△▼△▼△▼
しばらくして、レッジ、ロイ、ボルサリーノ、そして研二の四人はテーブルの席についていた。白いテーブルクロスの上に並べられる皿の数々…。研二もさすがに慣れてきた。ダイニングルームを忙しく動くメイドたちの姿は、奥のガラスに映っていた。ボルサリーノは水の入ったゴブレットを口元に持っていき、一口すする。冷たくはない水はなぜかボルサリーノを安心させた。ふと、口を開く。
「改めて研二。ようこそ我が街、ニューヨークへ。そして、我が家へ。どうだ、なかなか広いだろう?」
「ははは…。なかなかってレベルじゃないよ、これ。でも、これもロイのお陰だね」
ロイの方をちらっとみる研二。
「ありがとうございます」
にっこりと笑うロイ。
「改めてボス、今日は夕食にお招きいただき、ありがとうございます」
丁寧な挨拶をしたのはレッジだった。表情一つ変えず、じっとボルサリーノを見つめる。
「ハハハ~! 気にするなよ、レッジ。それより今日は研二の歓迎会だ。そう堅くなるなって!」
まだ酒が入っていないにも関わらずボルサリーノは機嫌が良かった。
「お話し中のところ、失礼します。食前酒をお持ちしました」
老執事が氷が入ったワインクーラーの中から瓶を取り出す。すると、白ブドウを思わせる緑色の瓶についた水滴を丁寧に拭き取り、栓をあけた。
「クリュッグ……。こんな日のために取っておいた逸品だ。ドン・ペリニヨン数本に値する。今日飲むには相応しい」
シャンパングラスに注がれるのを眺めながらボルサリーノは言う。その横では、ロイが目を輝かせ、息を飲み込んでいた。フランスのモエ・エ・シャンドン社の誇る、最高級のシャンパンを越えるもの……。格違いの高級酒、それが今自分の手元に置かれ、早く飲んでくれと言わんばかりに見つめている。
「では、晩餐にしよう。我が息子、研二に!」
「「研二様に!」」
ボルサリーノ、レッジ、ロイがシャンパングラスを掲げる。そして、今一口飲もうとしたその矢先、
ズドーンッ!!!
外から凄まじい轟音が響いた。




