正義の愚連隊
部屋の中は研二が思っているよりも明るかった。
「よく来たな、研二。会いたかったよ。掛けなさい」
テーブルの一番奥の席にいたボルサリーノが声をかける。
「よお、早かったな」
ボルサリーノの続きパトリックが声をかけた。
研二は用意されていた正面の席に着いた。ロイも隣に腰を下ろす。
「……あれ? ガスティーはジュニアとまだ会っていなかったのか?」
パトリックのすぐ近くに座っていたコルボが小声で隣の太った男と話していた。
(ジュ、ジュニアって……)
確かにそうだ。いくら研二といえど、そのように呼ばれることは今だかつてない。
「では、これより会合を始めよう。まず、本日は我々の新しい同志を紹介しよう。我が息子、研二だ。」
会場に居合わせた全員が研二に拍手を送る。
(ちょっ、こ、これって……)
いきなりの歓迎に戸惑う研二。すると、ロイが小声で
「立ち上がって静かに自己紹介してください」
と言った。研二は言われた通りにしようとするが……
バタッ!
椅子が床に当たる音が会場に響き渡る。慌てて椅子を戻す研二。
「し、失礼しました。俺は……、や、山下……研二です。ど、どうぞよろしくお願いします」
緊張のせいか、研二は顔を赤らめていた。そんな研二の様子を眺めていたボルサリーノは
(まあ、しょうがないか。こういった場面には不慣れだろうしな)
などと思っていた。無理矢理つれてきたのも同じだし、ファミリーの面々とも顔を会わせてからの日は浅い。確かに無理もなかった。
研二が簡単に自己紹介を終えると、今度はまだ研二と面識の無いファミリーの面々が自己紹介をすることになった。まだ若い男が立ち上がった。数多の女性を釘付けにするような抜群のスタイル、マスクの持ち主だ。
「はじめまして。レジナルド・マンガーノです。レッジとお呼びください。組織では副ボスを努めさせていただいています。密輸、恐喝等を担当しています。どうぞ、よろしくお願いします。」
「あ、はい。こ、こちらこそ」
その外見とは裏腹のスッキリとしていて無駄のない自己紹介だった。真面目な口調と落ち着いた声…。研二は彼がファミリーの副ボスなのにも納得が出来るようだった。
次に立ったのはでっぷりと太った肥満体質の男だった。
「え~、フロリド・ガスティーです。組織ではカフェ・レジームを務めてます。」
「……カポ・レジームです。」
横に座っていた男が訂正を加える。
「あ、そう。それ。どうぞ、よろしく」
(にしても、カポ・レジームって……?)
疑問に思った研二はロイに小声で訊ねる。
「ねぇ、カポ・レジームって何?」
「ああ、幹部のことです」
(なるほどな~。にしても、カフェって……)
今度は先程、訂正をした男が立ち上がった。
「ガブリエル・ドルミーレです。組織ではヒットマンなどを務めることが多いです。どうぞ、よろしくお願いします」
こうして、一通りの自己紹介が終わった。
「ありがとう。この他にも今は訳あって席をはずしているが、幹部やらが2人いる。では、本題に入ろう。レッジ、よろしく」
ボルサリーノをはじめとした、その場の全員がタブレット端末を取り出した。ナターリアが研二にタブレットを手渡す。研二が覗きこむとそこには、“ヤツら”に関するデータが送られてきていた。
「“レコレッタ・ディ・クレミナーレ 犯罪者の集い”…。情報によると、あらゆる分野の犯罪者の関与が考えられます。具体的にはメキシコの麻薬王フランチェシコ・ボルドバ、それから三合会の重役、“薬屋のヤオ”などの名だたる犯罪者の参加が考えられるかと。現在友好関係にあるファミリーや、国外のボルサリーノ・ファミリーの支部に調査を急がせてます」
「それと、ヤツらは今、ある計画を遂行している模様です。情報が入り次第、またお伝えします」
(にしても、どうやってこんな情報を…)
「では、今回の会合はこれにて終わりにしよう。では、諸君お疲れだったな」
一斉に席をたつ一同。研二も立とうとしたとき、
「あ、研二、お前は残りなさい。それと、ロイ、レッジも」
ボルサリーノに呼び止められた3人はその場に残った。
△▼△▼△▼
その頃、一人の男が日本を経った。アメリカに向かう飛行機に乗ったその男はタブレットを手に、コーヒーを飲みながらくつろいでいる。
(ボスに会うのも久しぶりだな……。さてと、カタギの仕事に取りかかるか……)
そういうと、またタブレットの画面に目を移した。そこには、化学式やら構造式やらがあった。そして、“1学期期末試験”の文字もある。
この男の名はゴッティー・マスケラーノ。だが、研二はもうすぐこの男のもう一つの名……いや、顔を知ることになる……。




