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正体

登場人物

・山下研二:主人公。普通の男子高校生。日本人とアメリカ人のハーフ。

須堂千夏すどう ちなつ:研二とは幼馴染みでクラスの委員長。成績優秀。

・山下静子:研二の母。

・アルバート・カルヴァン:突如現れた研二の父親。

最上誠もがみ まこと:研二と同じクラスの男子高校生。現在不登校。

・チェールズ・J・ボルサリーノ:アメリカ全土に影響力を持つマフィアの首領ドン。何らかの目的のために来日。

 翌朝、またいつもの毎日が始まった。研二はベッドから身を起こす。少し冷たい床の感触を素足で感じながらも、洗面所へと向かう。冷たい朝の水で顔を洗い、タオルに顔をうめてから、研二は居間へと歩いていった。


「おはよ~」


 またいつものように挨拶を交わした。そしていつもの椅子に腰を下ろす。ごくフツーの毎日と思いきや――


「えっ? 何これ……」


 輝かんばかりの光景がそこにはあった。目の前に広がっていたのは、卵を乗せたトースト、ソースをあしらった肉等。どれもホテルの朝食のような、豪華なものだった。その鮮やかさ、気品は並の朝食ではない。研二の母、静子には到底作れるはずがない。


(何だよ、これ……)


 研二は目の前に広がる料理を前に腰を抜かしそうだった。するとキッチンの方から


「おはよう。どうだ? うまそうだろ~?」


 低い声が聞こえてきた。衝撃の告白から一夜、父親(?)の声だった。


「これお父さんが作ったんすか?」


「まぁな。料理は得意中の得意でね。まーこれしきのことが出来なかったら、レストラン・チェーンの社長なんて勤まらんよ」


 と、笑いながら話す。その手にはフライパンが乗せられており、もう片方の手にはトングがある。


「レ、レストラン・チェーン?」


「あ、言ってなかったっけ? 俺はアメリカでレストラン・チェーンの社長をしてんだよ。『ロー・マニア』ってんだけど日本にも数店舗を構えててね、あと100店舗くらい増やしたいと思っててるんだ。あははははははっ~」


驚愕の事実パート2

父親は地味に凄かった。


「店舗を増やすって……。あ、それで日本に?」


「まぁね。他にも用はあるんだけど」


(しかし、何でまた急にここに……)


 そんな疑問が頭の中をよぎりながらも研二はナイフとフォークを使って食べる、人生初の極上朝食を満喫した。皿の上でカチャカチャと音を立てるフォークとナイフ――。普段とは違う朝の音だった。


△▼△▼△▼


 学校では相変わらずの日々だった。担任の数学教師の、むさ苦しい大音量授業に始まり、催眠術師のような眠たくなる古典に耐えて、疲れを感じる頃には学校は終わった。辺りは昨日の天気とは違う、灰色の空に覆われていた。

 家に着き、スマホの画面を覗くとメールが来ているのに気が付いた。


《Mogami-8110最上…》


(……最上から? 一体……?)


 研二は最上からメールをもらうなど今までにない。よほど急いでいるのだろうか、所々ミスが見られた。



《大変なことになつた。今、桜橋ビルにある駐車場5階いる。助けてくれ》



 桜橋ビルは家からそう遠くはない。自転車で15分といったところか。研二は急いで自転車をこぎ始めた。吹き付けるぬるい風を全身に受けて。


△▼△▼△▼


 駐車場の中は妙に静かで暗かった。手元にあるスマホのライトだけが頼もしかった。すると次の瞬間、左足首がぐっと掴まれたかと思うと、研二は急に引っ張られた。

 段ボール箱であろう、積み上げられた物の陰に彼は吸い込まれた。物陰は座って姿を隠すのに十分だった。そして、研二を引っ張りこんだ主がそこにいた。そこにいたのは最上だった。


「……お前、一体どうしたんだ?」


 研二は小声で話しかけた。最上は静かに答えた。


「……じ、実はさ、ヤクザの連中に捕まりそうになっちまって。バイトの仕事でさ、昨日俺はボストンバッグをあるロッカーの中に置いてこいって言われて。不自然に思って、恐る恐る中身を覗いたらさ、中には拳銃だった……」


「け、拳銃……!? え、でも一体何でそんな危ないバイトをしてんだよ!」


「……するつもりはなかったんだ。サバゲー関係の店でバイトしてて、そこでモデルガンを届けてくれって頼まれたんだ。でもモデルガンとは明らかに重さが違くて……。そしたら、警察に声かけられて、慌てて逃げたら、今度はコイツらに捕まりそうになった」


 最上が今にも泣きそうな声で言った直後だった。



       ズキューンッ!



 銃声が響いた。研二たちのいたダンボンールの端のコンクリートの柱にこげた黒い穴と煙が残った。


(い、今の音……。おいおい、う、嘘だろっ!?)


「てめぇ、命が惜しかったら、大人しく出てきやがれっ。蜂の巣になりてぇのか、オラァーっ!」


 耳障りな声が響いた 一人の男が立っていた。男の手にした拳銃の銃口からは白い煙が浮いていた。


(やっぱり……。 アイツ拳銃持ってやがる……!)


 花火をしたときのような、あの独特の匂いが研二と最上の鼻にくる。ふと、研二は横にいた最上に目を向ける。最上は震えてその場から動かなかった。死を目の前にした人間の恐怖、そんな言葉がぴったりだった。


 しばらくして研二はふと、敵の様子を確認しようと物陰からそっと覗きこむ。すると、ド派手な柄のシャツに黒のジャケット、大きく開かれた胸元からは刺青が除いている男を研二は確認した。だが、それよりも重要なのは車の周囲の人影……男の回りにはあと、何人かいるようだった。


(ヤバいぞ、これ……。アイツら全員拳銃持ってんのかよ…。ああ、クソっ! 完全に俺らでどうこうならねぇ……! にしても、よくある台詞セリフだ。もう少しましなこと言えないのかなぁ~)


 台詞セリフに対しては少し呆れながらも、研二はゆっくりと立ち上がった。ガクガクと震える膝、耳にまで届きそうな心臓の鼓動…。震える両手を静かに上に挙げる。この状況で自分達には何も抵抗する手段が無い。そして、相手は拳銃を所持している。下手に抵抗しても男の言う通り、蜂の巣になって命を落とすだけになってしまう。刺青男もじっと研二の方を見る。男は研二の顔を見ると目を細めた。


「んぁ? 何だ、てめぇ~? カバン運んでたガキはど~したぁ? お前ぇじゃねぇよな? まぁ、いい。どちらにしろこの場見られら、生かしちゃおけねぇな……」


 男はそう言うとコルトのハンマーを起こして、研二の胸元に照準を合わせた。


(ちょっと待て、ちょっと待て! おいおい、こんなのありかよっ!?)


 そう思って目を閉じた矢先、、、



       ズドーンッ!



 銃声が響いた。ゆっくりと目を開ける研二。音を立てて男の手から拳銃が落ちた。何が起きたのかと疑問に思い、振り向くとそこには信じがたい光景が広がっていた。スミス&ウェッソン44マグナムを握り、黒のスーツをばっちり着こなし、目深に黒のボルサリーノ帽を被った長身の男が立っていた。


(え? と、父さん!? 何でここに……?)


 その姿は紛れもなく父だった。


「45口径のコルト・ガバメント、アメリカ製…。その拳銃、あんたが使いこなすには、あと10年はかかるな。もちろん、それまで生きてられたら……の話だが?」


 にこやかに笑いながら、静かに歩いてきた。手でマグナムをクルクルと回しながら。


「けっ、勝手にほざきやがれよ」


 男はそう言うと、パチンと指を鳴らした。同じように拳銃を握った男が5~6人、車や柱の影から姿を現した。1対6、この状況は圧倒的に不利なのはわかる。だが、父は平然とマグナムを回し続け、その様子は研二や最上にどこか余裕を感じさせた。


「う~ん、まだまだだねぇ~。指鳴らすときはもっと大きな音でするものだ」


 そう言って大きく指を鳴らした。音はよく響き、20は越えるであろう、武装した男たちが一斉に刺青男たちを取り囲んだ。刺青男たちは突然の逆転に自らの目を疑い、狼狽えた。自らに向けられた拳銃の銃口を見て、刺青男たちは自ら敗北を悟った。そして、父に問い詰めた。


「て、てめぇ……。い、一体……?」


「俺の名を知らねぇのか? 俺の名はボルサリーノ。チャールズ・J・ボルサリーノだ」


 父は落ち着いた低音の声で答える。ボルサリーノ…。それはアメリカの全土を支配した犯罪組織、《ボルサリーノ・ファミリー》の名。

 男たちの顔から血の気が引いた。この男が……アメリカで最強と呼ばれているマフィアの一員、それもその首領ドンが目の前にいるだなんて……。


 拳銃を床に落とし、男たちはその場に立ちすくんだ。手が震えている。



 普段はレストラン・チェーンの社長。夜は暗黒街の首領ドン……。これが彼の父の正体だった……。

 さてさて、正体が明らかになった父親……。研二はどう向き合うのでしょうか?

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