動き始めた歯車
翌日、研二はいつものようにロイに見送られて学校へと行った。途中で千夏に腹部を強打されて。
(…ったく、何でアイツいつも俺の腹殴るんだよ!)
そんなことを思ったのは今日に限ったことではなかった。研二がもっと腹筋をつければそんなことはないかもしれないのだが。つり革に捕まりながら、ただそんなことを思っていた。腹部をさすりながら。
「あっ、研二~今日またアンタん家で勉強していいよね?」
座っていた研二を立たせ、代わりに席に座っている千夏が言う。
「はぁ~? あのな、千夏、俺ん家はコーヒーショップやファミレスと違うんだぞ、コラ」
「そんなこと、言われなくたって分かるわよ。バカ研二と違って」
千夏は胸を張って見せる。
(いや、分かって無いだろこれ…)
内心研二はそう思った。だが、今抗議をすると確実にダメージを食らってしまう。
(…けど、アイツとだとあんまはかどらないんだよなぁ~。よし!ここはビシッと!)
「あのさ、言いづらいんだけどさ、お前と一緒に勉強してもあんまりはかどらないと思うんだけど…」
「あら、こんなカワイイ女子と勉強してもはかどらないですって?」
(誰がカワイイ女子だよ…。お前はブレーキ不可の暴力女だっ!)
「あ! アンタもしかして変なことを想像してるんじゃ…?」
千夏がドアップで迫り来る。
「はぁ? んな訳ねぇーだろー! てか何だよ、自分のことをカワイイ女子~とか言いやがって! そんな要素の欠片も微塵もねーだろうが!」
無意識に怒鳴ってしまった研二。気が付くとスーツを着た中年のサラリーマン、同じく通学途中の学生など乗客からの冷たい視線が研二の報に向けられていた。
「…す、すいません」
恥ずかしながらも謝る研二。その横では千夏が口に手をあて、プププっと笑っていた。その後の研二の無力感は留まるところを知らなかった。
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一方こちらは山下家。ロイが静子の家事を手伝い、掃除を終えたところだった。掃除を終えたロイは鏡を見てネクタイを直した。
「掃除終わりました~。これからちょっと出てきます」
「あら~もう終わったの? どうもありがとう。ごめんなさいね、こんなことさせちゃって」
「いえいえ、こんなことくらい…」
「あ、帰りは何時頃かしら?」
「遅くなると思います。夕飯も多分向こうで食べて来ます。研二様には今日の授業はビデオで撮影してあるので、それを見るようにお伝えください」
「ありがとう。いつもごめんなさいね。また、チャールズが何か頼んだのかしら?」
「ええ、まあ。では、行ってきます」
ロイは外に出るとそのまま待たせておいたベンツに乗り込んだ。
「まったく、父子共々申し訳無いわ……」
ロイを玄関先で見送った静子は独りそんなことを呟いていた。
△▼△▼△▼
こちらは城ヶ崎高校の屋上。そこには研二と最上がいた。昼休みの時間にここへ来るよう、研二は最上に呼び出されていた。
「すまん、山下。二人っきりじゃないとマズイと思ってさ」
「…というと、あのことか?」
「ああ。親父さんのお陰で今は関係切れたんだけどな、その組織がまた何かやらかすらしんさ」
「…竜東会だっけ? てか、どうやってそれを?」
「昔のバイト仲間に何かあったら連絡してくれって頼んどいてさ。それで、竜東会がアメリカに乗り込むそうだ」
「アメリカに? ってことは親父の…」
「そう。詳しいことはまだわからないけどとりあえず知らせておこうと思って」
「……そうだったのか。わざわざありがとなっ!」
「いや、礼を言うのはこっちさ。親父たちのお陰で俺は今ここにいる」
だが、このとき既にアメリカでの竜東会の試みは進められていた。既に動き出した歯車は止まらなかった。
どこか怪しい予感が……。テストも近くなってきましたね!
次回もお楽しみに!