黒い人影
研二たちが廃工場から去った直後だった。男はドローレス・ドルトゥーラに電話をかけた。
「もしもし、私です。うまくやりました」
落ち着いた口調だった。
「お疲れだったな、サム。で、ヤツらの面子だが……」
「はい。黒スーツの男が11人でした。ボスはチャールズ・J・ボルサリーノのようです」
「な、何っ! それは本当か?」
ドルトゥーラは危うく腰を抜かすところだった。
「はい。間違いありません。赤のポルシェ911カレラ、深く被ったボルサリーノ帽、そして……」
そこで、一息ついた。
「トンプソンM1A1を所持してました」
サム・グイノーソの言うトンプソンM1A1は、今となってはやや時代遅れな銃だ。当然、そんなものを扱っていれば目立つし、使っている人間も少ない。その結果、トンプソンはボルサリーノのトレードマークのようなものになってしまった。
「そうか。やはり、ヤツがイタリアに……」
「はい。あと、もう1つ気になることが」
「何だ?」
「ガキがいました」
「ガキが……!?」
再び驚くドルトゥーラ。
(一体何でこんな所にガキが……)
「恐らく中・高生です」
「わかった。女の方はどうやら救出されたようだな」
「はい。殺りますか?」
殺し屋が言った。人を殺すことにためらいを持たないせいか、その声に少しの迷いと動揺は見られなかった。むしろ、血に餓えた獣が、獲物に静かに頷いて忍び寄るような冷たい殺意すらあるようだった。
「いや、ヤツは用済みだ。今回の狙いは悪魔でサーメンデス。それに今頃、飛行機でアメリカへ亡命してる頃だろう。どうやら、追跡装置も外されたようだしな」
「わかりました」
「それより、もう1つの方だが……」
「はい。今夜の船で3日後には中国です」
「荷は無事か?」
「はい。問題ないかと」
「わかった。どうもありがとう。セルビアによろしくな」
そうだけいって電話が切られた。男はバイクに股がると、廃工場を後にした。
△▼△▼△▼
研二たちはベネチアのホテルに戻っていた。
「どうやら、ヤツらはサーメンデスから何かを聞き出そうとしてモニカを誘拐したようだ。だが、我々の救出によって計画は破綻、とんずらしたようだ」
ボルサリーノが研二とコルボに話す。
「しっかし、モニカも無事で何よりでしたぁ。あんな美人が死んじまったら……」
コルボが言った。目に涙を浮かべて……。
(おいおい、サーメンデスの心配はないのかよ……)
研二は苦笑した。モニカはボルサリーノの手配によって、しばらくはアメリカにいると言うことだった。こうして、研二たちの旅行(?)は無事に終わった、かのように見えた。
△▼△▼△▼
数日後、研二の家からボルサリーノは姿を消した。何やら、置き手紙のような物が残されていた。
『研二へ 急な別れを許してくれ。緊急事態でね。俺は自分のシマに戻る。サーメンデスが殺られた。だが、ヤツだけじゃない。イタリアの五大ファミリーが全員が殺られた。サーメンデスの呼びかけで開かれた会合で、ヤツが爆発した。人間爆弾だ。爆弾は心臓の裏に付けられてて気付かなかった。モニカを守るためにも俺はアメリカに戻る。ヤツらに気を付けろ。どこにいるかわからないからな。ロイと母さんによろしくな。お前たちの幸運を祈る。 チャールズ・J・ボルサリーノ.』
手紙はまだ続きがあった。
『……P.S. そいつは俺からのプレゼントだ。一回くらい袖を通しておけよ。それから、銃は常に携帯しておくこと。ただし、バレるなよ。弾が足りなくなったらロイに言うように。』
大きな箱があった。開けてみると、艶やかな灰色の生地のスーツ、真っ赤なネクタイ、あのときのワルサーPPK、そしてスーツと同じ色のボルサリーノの帽子があった。
シチリアン・マフィアの死…。ヤツらのもう一つの目的は…?
次回、ボルサリーノ・ファミリーのNo.2登場です!お楽しみに!
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