同盟
カルロス・サーメンデスは目の色を変えて怒っていた。そんな折だった。意外な人物からの電話を受け取った。
「もしもし、カルロス・サーメンデスか?」
「誰だ、てめぇ?」
返事をするサーメンデス。
「チャールズ・J・ボルサリーノだ」
「ボ、ボルサリーノ!?」
やはり、アメリカを制する者、暗黒街の帝王ボルサリーノ……。暗黒街で生きる者で彼の名を知らぬものはいなかった。
「こ、こいつぁ、すまねぇ。無礼を許してくれよ。で、アメリカのマフィアのドンが一体何の用で?」
「あなたに話がある。大事な話だ。今夜会えないだろうか?」
「なんとも、急なもんだな。まぁ、いいぜ」
「では、今夜7:00に。場所はホテル・ロイヤルズのロビーに来てくれ。部下に部屋まで案内させる。それでは、また夜に」
そこで電話は切れた。その後だった。
「もしもし、カルロス・サーメンデスさんですか? あなたの大事なモノを預かっているのですが」
「きっ、きさま……。モニカはどこだっ!」
「それはお教えできませんよ、サーメンデスさん。そうですね、身代金としてあなたの組織の金の半分くらい頂戴したいのですがねぇ」
「俺を、誰だと思って話をしているっ!?」
「だったら、分かるでしょう。愛人のため、組織《シチリア同盟団》を売ったボス……。そんな噂が流れたらどうなるでしょうかねぇ」
「ちっ! ……わかった。要求を呑もう。金はいつ渡せばいい?」
「そうですねぇ、今夜9:30にこちらから電話はをします。そのときまでに、ミラノにある公園に来てください。そしてそこで、車を止め、中で待っていて下さい。もちろん、部下を下ろした上で一人でね」
そこでポツリと電話は切れた。
(モ、モニカ……)
サーメンデスはうなだれた。
△▼△▼△▼
ホテル・ロイヤルズのロビーは悪くなかった。大理石の床に赤いフカフカのソファー、木のテーブル、大きな振り子時計…。招かれた客人は最上階のスイートに案内された。しかし、客人の様子はどこか不自然だった。
「ご足労だった。自己紹介の必要は?」
ボルサリーノが言った。
「それには、及ばない」
サーメンデスが答える。
「どうした? 気分でも悪いのか?」
客人の様子を気にしたボルサリーノが答える。
「いやぁ、何でもねぇ。ちと、株で損をしちまって」
笑いながらボルサリーノに答えるサーメンデス。
「では、早速本題に。カルロ、この頃の麻薬市場の異変は知ってるね?」
ボルサリーノが話を切り出した。
「ああ。謎の新型とやらがバラまかれているな」
うなずいて答えるサーメンデス。
「その通り。《レコレッタ・ディ・クレミナーレ》という組織が関与している」
「ふむ、少し音は変えてあるようだが、“Raccolta di criminali”つまりは、“犯罪者の集い”というわけか」
「ああ。そのようだな。俺らの構成員を一人、ヤツらのトコに送り込んだ。ヤツは死んだが、組織の名は知り得た」
「んで、俺にそんなことを教えてどうしろと?」
「わかるだろう、ヤツらの壊滅を手伝ってほしい」
「ふうん、俺一人の判断はしかねるね。五大ファミリーの会合がある。そこで、シチリアン・マフィア全体としての意見を取りまとめよう」
「よろしく頼む。いい返事を待っている」
そう言ってサーメンデスとの会合は終わってしまった。
△▼△▼△▼
サーメンデスの帰った後だった。
「ボス、にしても何でアイツの電話番号なんか知ってんですか?」
コルボが尋ねた。
「簡単だ。ヤツの愛人に聞いたことがある。俺の旧い友人でね」
ボルサリーノがそう言った時だった。
「もしもし、チャールズ? チャールズなの?」
電話から女の声が聞こえた。
「噂をすればか。久しぶりだねぇ~」
にっこりとしながら電話を握るボルサリーノ。だが、急にボルサリーノの顔が曇った。
「な、何だと!! じゃあ、サーメンデスは……。わかった。すぐに向かう!」
そうだけ答えると、コルボの方に目をやった。
「コルボ、至急飛行機の手配を。それから、武装した仲間を10人ほど待機させてミラノ近郊に向かわせてくれ」
それから頭を抱えて言った。
「モニカは誘拐されていた。今、ミラノ近郊の宿に身を隠している。ヤツらだ……。サーメンデスはヤツラにゆすられていた。ヤツが危ない……」