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女五ノ宮   作者: みやこ
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中編

姫宮と兵部卿の宮が文のやり取りをしていることはすぐに宮中に知れ渡っておりました。

都に名高い美しい女五ノ宮と麗しい宮様との間を嫉妬できようはずもなく、右大将の君をはじめとした求愛者の方々も、兵部卿の宮がお相手とあっては諦めざるを得なかったのでございます。



程なくして、姫宮と兵部卿の宮との婚儀の日取りが決められました。しきたりどおりに兵部卿の宮が三夜続けて姫宮のもとへお通いになり、屋敷では家人達が新婿殿に失礼のないおもてなしを、と慌ただしく準備に追われました。姫宮も直接に兵部卿の宮とご対面なさるのは数年ぶりのこと、当日はたいそう緊張なさっていらっしゃいました。

「香はおかしくないかしら?」

「屏風が派手すぎるのではない?」

そわそわとお尋ねになる姫宮に、その都度

「いいえ、これまでで一番の出来でございますよ」

「これくらい華やかなほうがご衣裳にも映えましょう」

とお答えするのでした。それでもなお落ち着かない様子でいらっしゃる姫宮に、

「どうぞこの晶子を信用なさってくださいませ」

ときっぱり申し上げると、ようやくほっと一息おつきになって、

「そうね、晶子の見立てなのだから心配いらないわ」

と微笑まれるのも大変光栄なことでございました。

もてなしやら宴の用意やらで目も回るほどの忙しさではございましたが、無事に三日目の露顕しの儀を済ませ、晴れて正式な夫婦となられたお二方はますますお幸せそうに見えました。



婚儀の後、兵部卿の宮は三条のお屋敷に足繁くお通いになり、それが叶わぬ時には必ず文や珍しい贈り物などで姫宮をお慰めになりました。三条のお屋敷でも婿殿のために新しいお召し物を用意したり、あるいは父院もお出でになって宴を催したりと、大変な歓迎ぶりでございました。



姫宮の母君が身罷られたのは、そんな幸せの最中でございました。

その年はこれまでにないほどの流行病が都を襲い、母君もまたその病に臥せってしまわれたのでございます。数多の験ある僧が屋敷に集められ、昼夜をわかたず祈祷を続けておりましたがその甲斐もありませんでした。

突然の女主人の崩御に屋敷全体が悲しみに包まれ、重く沈んだ空気が満ちておりました。

姫宮のお嘆きもひとかたならぬもので、部屋にお籠りがちになり、食事も喉を通らないご様子でした。

不幸は重なるものなのでしょうか、父院もまた後を追うようにして身罷られてしまいました。

両親を一度になくしてしまわれた姫宮は何もお手につかないご様子でございました。



幸いにも姫宮ご自身も品位をお持ちで、母君から受け継いだご所領もあります。また、兵部卿の宮の北の方という立場でもいらっしゃいますので、後ろ盾を無くされても決して軽んじられるべきお方ではありません。

実際、今上帝を初めとした方々から数多く見舞いの品や使いが贈られ、私は姫宮の代理としてその対応に追われておりました。

一月二月が過ぎ、ようやく見舞いの対応も落ち着いてきたかという頃、ぽつりぽつりと暇乞いをする使用人があらわれはじめました。姫宮も強くお引き止めなさるようなこともなく、気がつけば半数近くの使用人が屋敷を去り、これまでの活気が夢であったかのように人寂れたお屋敷となってしまったのでございます。

父院の崩御から半年が経ったある日、このままでは屋敷の維持もままならないので幾人か新しい女房や女童を雇い入れては、と姫宮に進言いたしました。

墨染の袿を羽織り、ひどくやつれてしまわれた姫宮は「晶子に全て任せるわ」と仰ったきり、また「お父様、お母様……」と泣き臥してしまわれるのでした。

そのおいたわしいご様子に、いつか姫宮が立ち直られる日まで必ずお支えもうしあげよう、と私は強く決意したのです。



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