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女五ノ宮   作者: みやこ
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前編

とある帝の御代に、女五ノ宮というたいそう美しい姫宮がいらっしゃいました。



姫宮は先帝の五番目の皇女としてお生まれになりました。母君は中宮として立てられたお方で、末の姫として母君はもちろん、父帝からも格別に慈しまれながらお育ちになったのです。

蝶よ花よと育てられた女五ノ宮は、まさしく花の綻ぶように愛らしい女性におなりあそばしました。



私の母は中宮にお仕えする女房のひとりでした。その縁で姫宮にお仕えすることとなり、初めて宮中に上がったのが十二の時でございます。

その頃姫宮は、母君と同じく麗景殿にお住まいで、翌年の春に裳着を控えていらっしゃいました。晴れの儀式の準備に慌ただしく一つでも多く人手が欲しいというのと、姫宮も年近い話し相手をお望みであるということで私に白羽の矢が立ったのです。

初めてお会いした姫宮は噂に違わず、同性の私が見ても惚れ惚れするほどのお美しさでした。

「晶子と申します。姫宮様におかれましては御機嫌麗しく……」

慣れない宮中と姫宮の御前で緊張し、しどろもどろになりながら挨拶をした私に、

「あなたが近衛の娘ね?私、あなたの参内を心待ちにしていたのよ。どうぞ仲良くしてちょうだいね」

と優しくお声をかけてくださいました。

このように美しくまたお優しい姫宮にお仕えできることを、幼心に大変誇らしく思ったものです。



姫宮の裳着の式はたいそうきらびやかなものでした。父帝が手ずからお選びになった調度で華やかにしつらえられた麗景殿に、大臣家をはじめとした殿上人や宮様方から届けられた祝いの品が所狭しと並びました。式の後に催された宴は空が白み始めるまで続き、下々の者にまで抱えきれないほどの禄を賜ったのです。



裳着をお済ませになった頃から、その美しさを聞きつけた公達からの文が届くようになりました。

二年の後に先帝が位をお譲りになり、姫宮が母君とともに三条のお屋敷に移られるとその数はますます増えました。都で一番の姫宮の心を射止めようと、さまざまに工夫の凝らされた贈り物が毎日のように届けられたのでございます。

文の贈り主について、年若い女房の間であれやこれやと品定めすることもありました。

「権大納言はお年も何も釣り合わないわ」

「中将はお手蹟()は素晴らしいけれど歌がどうも……ねぇ?」

「あな恋しつれなき人をねたまじや……これはちょっと……」

「やっぱり左大臣家の右大将の君がお釣り合いになるんじゃないかしら」

「でもあのお方はどこかすましたところがおありでしょう」

「使いの(わらわ)まで偉そうな物言いをするから私もあまり好きじゃないわ」

などと騒いでいると姫宮は「あまり失礼なことを申してはだめよ」と笑いながらたしなめられるのでした。



実のところ、姫宮が心惹かれておいでになったのは兵部卿(ひょうぶきょう)の宮様からのお文でした。

兵部卿の宮は主上の弟宮にあたるお方で笛の名手と名高く、また見目麗しくいらっしゃったので、後宮の女房たちの憧れの的でいらっしゃいました。姫宮には従兄にあたり、幼少のみぎりより親しく文などを取り交わされる仲でした。

それまでの気軽なお文とはうってかわって大人びた恋文に、姫宮も初めは戸惑っていらっしゃいましたが、まんざらでもないご様子でした。

兵部卿の宮からの文が届けられると、幾度も繰り返し読んでから大切に文箱に納め、少し頬を紅潮させながら返歌を思案なさる姫宮はたいへんお可愛らしくいらっしゃいました。



ある日は品の良い薄様(うすよう)を末摘花の枝に結び付け、

「思ふには 忍ぶることぞ 負けにける

色にいでじと 思ひしものを

ずっと前から貴女のことを想っていたのですよ」

と書きつけてありました。

なんとも趣味の良い文に見劣りのしないお返事を、と姫宮はしばらくお考えになったあと、

「紅の 末咲く花の 色ふかく

うつるばかりも 摘み知らせばや

花よりもずっと深い紅色に染まってしまったのを貴方はご存知でしょうか」

と紅の薄様に書きつけ、同じ枝に結ばせてお返しになりました。



兵部卿の宮はそれからも折にふれては文や季節の品などを贈ってこられました。その誠実さを見て母君と父院もご安心なさったようで、いよいよ兵部卿の宮を婿として迎えようかと色々とご用意をなさるのでした。



続きます。

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