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全星空の大戦争  作者: 54
十章 夜襲に注意
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50、影の舞踏・前編

 星軍が巨大な建造物の前に集合した。


「何をするつもりですか」


「この建物の中に、毀軍をおびき寄せる。偵察隊員、誰でもいい。毀軍の数は?」


「4000人ほどです」


「それならまあいいか」


「シリウスさん、どうやっておびき寄せるんです? 囮でも使わないと難しいですよ。それでも犠牲は出しますし」


「それは問題ない」


 軍師は二秒ほど区切ってから、言った。


「真影実体化魔法だ」


 真影実体化魔法、それは、光のある場所でしか使えない魔術である。これを使うと、人や物の影を、本体とそっくりに実体化することができる。触ることもできるし、少し能力は劣っているものの、人を動かしたり、物を使用したりもできる。極めて便利な魔術ではあるが、難点がある。それは、実体化した影が壊れると本体も壊れるということだ。実体化した影は人間でいう一卵性双生児や、動物でいうクローンコピーなどとは違って、それぞれが独立したものではない。親株と子株は常に繋がっていて、一方の状態が変わるともう一方も変わってしまうという性質を持っている。そのため、人の実体化した影を囮に使うのはあまり好ましくない。だが、それを補える要素がひとつ存在する。この魔術は任意のタイミングで解除できるということだ。それも、実体化した影が元に戻り、本体のいる場所に一瞬で戻って来る。


「つまり、囮に使った影が死ぬ前に、その真影何とか魔法を解除するということですね」


「ああ。だがもうひとつ難点がある。コピー元に光が当たっていないと、魔術が勝手に解除されてしまうんだ」


 この魔術を使っている間に、コピー元の人間には光を当てていなければならない。非常に使いにくい魔術である。


「ですが、どうやって罠にかけるんですか? 収容室は管理室と離れていますし」


「だからこそできることなんだよ。私は先ほど、プルートに命じて管理室を改造させてもらった。毒ガスの噴射を行うスプリンクラーを、管理室にも取り付けた。さらにはドアを改造し、毒ガス噴射が行われると自動で閉まるようにしておいた。施設全体がだ。だが収容室の方は、時間が足りなくて作りかえられなかった」


 管理室は無駄に広い。毀軍1000人は入りそうである。収容室が広い分、それを管理する部屋も広くてはならないのだろうか。


「シリウス、ではさっき言っていたO=P(C)(OCC)SCCN(C(C)C)C(C)Cというのは、毒ガスのことなんですね?」


 マーキュリーが軍師に訊いた。


「ああ。確かVXガスだ。非常に毒性の強い油状の液体。皮膚からも吸収される。これほど大量虐殺に都合のいい物質はないな」


 軍師は言った。


「それと、あの建物に繋がっている電気の路を切れ」


 軍師はいきなりとんでもないことを言い出す。


「電気? どうしてそんな必要が」


「照明が点くからだ。点いた照明は実体化した影に当たる。マーキュリー、真影に光が当たるとどうなる?」


「影がなくなる……?」


「おしい。半影になるんだ。つまり、実体化した影、真影に別の光源からの光を当てると、真影ではなくなる。だから実体化の魔術が解ける」


「何故です?」


「何故かは知らない。だがそんなのは自分で推測してくれよ。あとは魔術の名称だ。真影・・実体化魔法」


「半影は実体化できない?」


「まあそんなところかな」


「ですがシリウス、私にはまだ理解できない点があります。照明が点かないように電気を断つのはいいです。が、毒ガスの噴射と、それと同時に行われる扉の閉鎖は」


「問題ない。毒ガスの噴射は手動だ。レバーを回すと歯車が回ってそれが動力を伝える」


「そんな簡単な!? しかし偵察部隊は、さほど複雑ではないつくりの機械と言っていたのでは」


「工業関係になれていないヤツなら、大量の歯車の集合体を電動の機械と見間違えることはあるだろうよ。それも初見で」


「では本当に手動の噴射!? そんなことが現実にあり得るんですか!?」


「よく考えてみろマーキュリー。相手は何処の星で生まれたのかも解らないやつらだぞ。私たちの常識など通用しない」


「それではどうして手動と解ったのですか?」


「さっきプルートに管理室を改造させたと言った。その時にヤツが気を利かせて、わざわざそれに繋げたんだよ。私の考えを先読みしてな。まったく大したものだよ」


 マーキュリーは天を仰いだ。ここまで自分の反論が跳ね返ってきたことなど、今までに一度もなかったからだ。もはや欠点は存在しない。毀軍をおびき寄せることができれば、よほどのことがない限り、失敗はありえない。


「もう敵が迫ってきている。あいつらは一つ目の作戦に失敗し、二つ目も逃した。運が悪かったんだ」


「二つ目?」


 マーキュリーは訊ねた。


「ああ。私たちの集まった海岸に、宇宙船があった。やつらがそこに潜んでいて、私たちが中に入ったときに動かすというようなものだったはずだ。あくまでも憶測だがな」


「宇宙船? そんな物ありましたっけ」


「あった。黒くて解らなかったんだよ。暗いからな」


「気付いていたなら何故調べなかったのです?」


「戦争が終わってもいないのに?」


「……」


 これ以上追求するのは無駄だと考えたのか、マーキュリーはそれから何も訊かなかった。


「毀軍が来たぞ。建物の裏に隠れろ」


 星軍はその巨大な建造物の裏に身を隠した。

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