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全星空の大戦争  作者: 54
九章 こんな休日どうでしょう
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47、こんな休日どうなんでしょうか《毀軍会議編》

 さて、舞台は移り変わって毀軍基地。星軍討伐……ではなく、地球破壊という名目のため、彼らは会議を開いていた。


「えー、一週間後あたりに地球を攻めようと思うんだが、前回も前々回も、そのまた前も、何か変な集団(地球人ではない)が邪魔してくるんで、まずはそれを潰したい。何かいい案はないか」


 星軍は星軍で財政が危機に晒されているが、毀軍は毀軍で負けが続いていて、やはり財政が苦しくなっているのであった。偏りのなさ過ぎる力関係である。


「それならいっそのこと、全軍を送り込んで数の暴力で潰してしまいましょう」


「それは全軍を地球まで移動させる金がないからダメだ」


「なら最上級部隊を送り込み、質の暴力で潰しましょう」


「正攻法ばかり提案するな!」


 北極星ルルッカの提案を見事に打ち消したアルビレオではあるが、自分でもいい案が出せないものなので、それ以上は何も言わなかった。さすが毀軍中級将校だけのことはある。他人の考えを否定してばかりの俺TUEEEE!僧侶(アルタイル)とは違う。うむ素晴らしい。


「じゃあ他に、正攻法以外の案はないか?」


「いい考えがあります」


「なんだフェルカド」


「俺にいい考えがあると言ったんです」


「いや、そうではなくて、どんな考えかを話してくれよ」


 初めてボケの立場に回ったフェルカドであるが、なかなか上手くできていたのではないかと思われる。ひょっとしたら才能があるのかもしれない。「そんなにじっくりと解説しなくていいから」


「夜襲ですよ」


「なるほど。攻撃方法は? ここはセオリー通りに火をつけるか?」


「いえいえ、ここで王道はいけませんよ。俺が提案するのは、ガスを使った夜襲です」


「敵の砦内にガスを充満させ、爆発させるのか?」


「いいえ、俺は静かに事を済ませたいですから、致死性の高いガスを使いましょう」


「いいかもしれん。他に、何かないか?」


 さすが中級将校。いいものを聞いておきながら、新たなものを求めるという姿勢。用意周到ともとれる。他人の考えを否定してばかりの俺TUEEEE!僧侶(アルタイル)とは違う。うむ素晴らしい。


「私が提案しよう」


「ガーネット様でしたか。して、どのような内容ですか?」


「中級将校七人組を地球に「他はないか! 正攻法や多人数動員以外の策略・・はないかぁ!!」待て! 落ちつけ、落ち着くんだアルビレオ君!」


 毀軍も随分と廃れたものである。


「正攻法でもいいではないか」


「いいえ、やつらは必ず奇妙な策を使ってきます。ですのでこちらも必勝の策を考えなければ、いつものように負けてしまいます。よって、正攻法は使いません」


 尤もなご意見ではある。やはり他人の考えを否定してばかりの俺TUEEEE!僧侶(アルタイル)とは(以下略)。


「アルビレオ様、名案を思いつきました」


「何だねドゥーべ将軍」


 北斗七将軍と呼ばれる将校七人の家のリーダー格である。


「まずは将校たちを「アルビレオ様! 名案を思いつきましたよ!」……メグレズてめぇ」


 北斗七将軍の賢者、メグレズが邪魔をしようと謀る。しかもそれで笑っているのだから非常に腹が立つ。いつ内紛が起きてもおかしくないくらいだ。くそムカつくなぁ。


 ドゥーべは立て直そうとする。だがメグレズの猛攻はよけられない。(・・・・・・・)現実は非情である。(・・・・・・・・・)


「太陽系の惑星(勿論地球以外ですよ)に拠点を作りましょう。ですが水星はともかく、金星は雲が分厚いうえに気温がクソみたいに高いため、そこに拠点を築くのはまず不可能です。なのでその他の六つの惑星+冥王星に砦を築きます。木星型惑星の拠点は浮遊魔法で何とかなります。砦を管理するのは私たち七将軍でいいでしょう。兵士は多くは要りません。あとは敵軍の様子を伺い、機に乗じて急襲するのです。距離も遠くはありませんから、速さの面では優れていると言えますよ」


 援軍がすぐに出せますし、とも付け足した。その意見もアルビレオには気に入られたようで、何度も頷いていた。一方ドゥーべは、拳を握り、爪が刺さった手の平から血を垂れ流していた。


「うーむなるほど。今日はいいものを聞けた。二つだけで充分だな。よし。本日のところはここで解散とする」


 あっさりと終わらせた毀軍中級将校アルビレオ――人は彼を、天上の宝石と呼ぶ――であった。



 *



 さてさて、解散した後は当然訓練に戻っていくはずだったが、何故だかここ三日間、訓練が全くない。どう考えても上の者が怠けているようにしか見えないのだが「怠けているわけではないぞ。私たちは決して怠けているわけではないのだぞ」星軍も毀軍もすっかり休日モードのようである。だが、


「お前にはもう話してもいいだろうな。悪役が何故弱いものから順に正義と戦わせようとするのかを」


 基地の中の一室にて、アルビレオとフェルカドが二人、向かい合って椅子に腰掛けていた。


「もうって、いつ話しちゃダメなんですか」


「細かいことは気にするな。さて、悪役が弱いものから順に正義と戦わせようとする理由を語るとしよう。

 世界で最初にそれを考えたのは、魔神ヨクトだと言われている」


「なんだか小さそうな名前の魔神ですね」


「まあ、涅槃寂静とも呼ばれた魔神だったからな。

 それで、そのヨクトなんだが、始めは、弱い敵と戦ってもつまらないからという単純な理由でザコキャラクターを送り込んでいた。だがある日、彼はあることに気付いたんだ。正義側が悪を倒すと、必ず金が手に入る。正義はそれで得た金を使い、武器や防具や道具を買う。するとその金が世界に出回る。それが今度は悪側に入っていき、悪を倒した正義が金を手に入れる。その循環を繰り返していけば、経済のバランスが巧くとれるのだ。だがこの政策(かどうかは解らんが)には、決定的な欠点がある。なんだか解るか?」


「正義側が巧く金を使わないと、景気が一定に保たれるどころか、崩れていくこと、ですかね」


「ご名答。正義側がわけもなく金を貯めこんだりすると、金の循環が悪くなるんだ。すると、物を買う人が少なくなるから、店側の儲けが減る。それで店側は、商品を売るため、品物の価格を下げる。一方正義側は、それからも悪を倒し続け、金を稼ぎ続ける。すると更に金が回らなくなり、店側は品物の価格を下げる。その悪循環によって、景気が悪化する。いわゆるデフレというやつだな。

 もうひとつの崩れ方もある。正義が稼いだ金を使いすぎて、金が回りすぎる崩れ方だ。すると店側は品物の価格を上げる。その悪循環だ。インフレだな。どちらが起こっても、他の世界との取引をする時に苦労するだろうな。

 魔神ヨクトは、どうでもいいことに気付いてしまった代わりに、通常の人間なら気付くであろうごく当たり前のことに、気付けなかった。そういう話だ」


「……理由を述べられていないような気がしますが」


「まだ話は終わっていないぞ。

 それでそのヨクトだが、自分の考えた政策(かどうかは本当に解らんが)が失敗したので、経済を立て直すために会議を開いた。丁度そこに正義がやって来て、悪は完全に滅んでしまった。まあ当然だな。これで世界の平和を脅かす悪の存在は、次第に薄れていく」


「何が言いたいんですか?」


「つまりこれは、正義と悪の存在の比率を保つためにあるんだよ。報酬を与えないと正義が増えないからな」


「……そうならそうと最初に言えば話が早く済むじゃないですか」


 長い長い無駄話を終え、二人は部屋から出て行った。

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