20、シリウス破天荒・前編
5月25日、一箇所に全員が集まる。
「よし、集まったな。これから、北の空に位置する城へ向かう。移動方法は飛翔魔法による飛行。目的は敵部隊の殲滅。各自奮戦せよ」
「シリウスさん、とうとう毀軍との戦いですね。やり残したことはありませんね?」
「ああ。勿論だ。これから向かうぞ」
そして、軍師の一分間の詠唱のあと、空に浮く。
「わっ! これ操作難しいですよ!」
「落ちそうなんだけど!」
「まあ待て。コツをつかめば何とかなると思う」
早速魔術師が落ちたようだ。もう一度浮遊する。
「こんなんで大丈夫なんですかね」
「私も心配になってきた」
それからも多くの人間が落ち、いい加減に鬱陶しく感じた軍師は、重力完全無視反発上昇魔法で無理矢理空に打ち上げた。
で、空中の城にて。
「へえ、ここが空に浮かぶ城ですか。ちゃんと地面もありますね。雑草も生えてますね。うん。寒くない。気圧もそれほど低くない。空気も薄くない」
「魔術か何かで調節しているみたいだな。まあ、雲の中に入った時は耳元がゴーゴーうるさいが」
つーことで総統たちは城の前に簡易テントを張り始めた。
「これでよし、と」
「シリウスさん、あそこに大量の人間がいるんですが」
「ああ、先客が来ていたようだな」
「先客?」
「やつらだ」
軍師は≪先客≫に向かって走り出す。総統たちもそれに続いた。
「おおおお!! シリウスか! 無事だったか! よかった!!」
「アダラ! 来てくれたか!」
後で総統が訊いてみたところ、軍師とそのアダラという男は兄弟なのだという。が、見たところ兄弟とは思えない。真っ白な肌と漆黒の髪を持った軍師に対し、アダラの肌は少し日に焼けている。髪色は茶色。性格は知らん。
「6000だ! 6000人が生きてる!」
「6000だと? すごいではないか! 敵の二倍だぞ」
「連れて来て良かった! 武器も全員分ある。プルートの兵器も海にボチャンしたけど、何とか持ち直したみたいだ」
「そういえば、アダラは佐渡島に行き着いたんだって?」
「ああ。島の人たち優しくてさ、事情を話したら何故だか知らんが信じてくれたんだ」
「……それはすごいな。島民はどんなやつらなんだよ」
とりあえず、6000人を味方につけ、軍師は城を取り囲むように命じた。
「……待ってくれシリウス。人数が明らかに足りないぞ」
「様子見だ。まずは正面にできるだけ人を置けばいい。それからのことは後で考えれば間に合う」
「作戦、立ててあるんだろうな」
「様子見だといったはずだ。相手の力量を測るのが先だろう」
「まあそりゃそうなんだが。(本当にこいつに任せて大丈夫なんだろうか)」
アダラはだんだん心配になってきた。
さて、そのころ総統と僧侶は、
「戦わなくていいって最高!」
「あ、でも俺は戦わなきゃいけないそうなので途中で抜けますね」(鷲)
「そうですか。私はここで見ていればいいだけですからね。総統なんて軍の象徴みたいなものですから。実際の統領はシリウスさんなんです」
「いいですね楽で。まあ、俺も外に出れば無遠慮で殲滅魔法放てるからいいんですけども」(鷲)
本陣のテントにて寛いでいた。これも軍師の立てた策略のひとつである。だが軍師によると、「でもなんかむかつく」らしい。
「今回はどのような策を使うんでしょうね」
「何か城の正面に兵を張ってますけど、挑発か何かですかね」(鷲)
「また奇抜なことやるんですかね」
「実に楽しみです」(鷲)
「前回みたいに失敗しなければいいんですが……」
総統は、テントのそばに設けられた武器庫のスペースに目をやった。剣、槍、矛などの武器が置かれている。中に近代的な武器はなく、何故か原始的なものばかりがおかれている。まあ、総統たちの惑星では遠距離戦は魔術ばかりに頼っていたため銃などを作る必要はなかったからなのだが。
「弓とかなかったんですかね」
「魔術で戦ったほうが強かったんで」(鷲)
「まあそりゃそうですね。矢の消費もしますし」
「殲滅魔法のほうが数十倍強いですし」(鷲)
「……、そんだけ殲滅魔法好きなんですか」
僧侶は、敵の城などそういうものを見ると殲滅魔法を勝手に放ってしまうため、見えないようにテントに押し込められているのである。これも軍師の命令である。本陣テントの見張りにはカノープスがついているので安心だ。
ところで、新参のレグルスはというと、武器庫で武器選びをしていた。本当は昨日選んでいるはずだったのだが、昨夜、(軍師の隣で)武器選びをしている途中、いきなり総統がやって来て「もう夜遅いから早く寝なさい」というのである。完全に子供扱いである。総統のくせに生意気である。
そんな調子で今日、本当は城の真正面に(←訂正 軍師の隣に)陣取ろうと思ったのだが、武器選びをしていないことに気付き、今こうして武器庫にこもっているのである。
「レグルス君も大変ですね」
「……少なくともあんたよりは忙しいんだと思います」(鷲)
「総統だから何もしなくていいんです。寧ろ暇に押しつぶされそうです」
「それはそれで辛いんですね」(鷲)
「暇ですから」
「じゃあ何か仕事を見つけてくださいよ」(鷲)
「めんどくせーって思ってます」
多分総統の方が面倒くさい。僧侶はその倍面倒くさい。まさにスーパー面倒ブラザーズである。兄弟じゃないけどね。
まあそうやっていろいろと駄弁ってるうちに、軍師の方の準備が整ったようだ。城の正面には兵6000人が展開していて、人と人との間はどれもほぼ等しい。多分これは軍師が「間がバラバラなのは嫌だ」とか言い出したからに違いない。
正面門側の兵士は木や鉄の棒を握っていて、他は皆、剣や槍を構えている。
「始まりましたね。それでは俺はここらへんで抜けます」(鷲)
僧侶がテントから出て、城の裏側に回る。それから、僧侶の叫びが聞こえる。
「な、何てことだ!
一階と二階のあたりに窓がない!!」
窓がなかったのは防犯用だとかそうじゃないとか。