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5話 学院

これがドラゴンか。俺の【索敵】に近くにいた劣等竜(レッサードラゴン)が反応しなかったのも頷ける存在感だ。

もちろん、劣等竜を感知出来なかったのは俺のミスなのでえばれた事では無いのだが。


「逃げますわよ、こんなのに勝てるはずありませんもの!!」


足の治った美少女が叫ぶ。

 美少女は将来が楽しみになるような整った顔立ちに綺麗な金色の髪をしている。エリンのエメラルド色の髪もいいが、偶には金髪も良いものだ。

 っと、そんなことを考えている場合ではなかったな。このドラゴン、感じる圧力は《龍帝王フレイブル》よりは遥かに下だ。だが、今の俺達は二人しかいない。それに《ロストオブエデン》の時より、今の俺は使える剣技も少ない。それらを加味すると、決して楽に勝てる相手ではなさそうだ。


「エリン。」


エリンの名前を呼ぶだけでエリンは俺の言うことを察したらしく、魔術を展開し出した。


「《千暴風(サウザンドストーム)》」


幾千もの暴風がドラゴンを襲う。そして、ドラゴンはその風圧に耐えきれず吹っ飛んだ。


これで金髪美少女から距離を置くことができた。


「金髪の美少女さん、後は俺達に任せて街に戻りな。」


美少女は一瞬だけ迷いを見せたものの、すぐに背を向けて走りだした。

去り際に見えた彼女の瞳を俺はよく知っていた。《ロストオブエデン》で幾人の人々が経験した死の恐怖、それに捕らわれてしまった人の目にそっくりだった。

立ち直ってくれると良いのだが。


「他人の心配をしている余裕は無いわよ。」


「分かってる。」





「キューーーーン!!!!」



ドラゴンが翼を広げ怒りの咆哮を上げる。


「さっきの魔術で私の魔力は大分消費してしまったわ。」


「了解。エリンはサポートに徹してくれ。後は俺がやる。」







▼△▼△▼


「爺さん以外に本気を出したのは初めてかもしれないな。」


一時間後には倒れて動かなくなったドラゴンと俺達の姿があった。残念ながらこちらも無傷というわけには行かなかった。ブレスを食らった腕は一度黒こげになったし、尻尾を叩きつけられた足は骨が粉々になった。

どの傷もエリンの回復魔術と俺の【自動回復】で治ったので、今はもう何ともない。


「九歳にして幻想竜(インシアノドラゴン)を倒してしまうところはガイル様との血のつながりを感じるわね。」


「嫌だよ、あんな爺さんと同じにされるなんて。俺はもっと紳士だろ。」


「紳士は初対面の子にいきなり『美少女』とは話しかけないわよ。」


あらら、どうやらエリンさんは少しご機嫌斜めの様子。

 分かった、これは嫉妬だな。


「違うわ。」


「俺、まだ何も言ってないよ?」


「何やら不愉快なことを考えていそうな顔だったからついね。」


エリンはスキル【直感】でも持っているのだろうか?

まぁ、それはいい。とりあえず、これでガイルの爺さんの無茶ぶりはクリアした訳だし、帰ろう。


「向こうについたらエリンのケーキだからな。」


「まだ覚えていたの?」


「あたりまえだよ。」



こうして俺とエリンはドラゴン、幻想竜(インシアノドラゴン)の首を持ってあの怪物ことガイルの爺さんが待つ屋敷へと歩き出した。

ちなみに、エリンの作った野苺のケーキは絶品だったことをここに記しておこう。





◇◆◇◆◇


 早いもので、幻想竜(インシアノドラゴン)を倒してから三年が経った。

十二歳になった今日、俺とエリンはガイルの爺さんに呼び出しを受けた。


「フィン、今日はお主に大切な話がある。」


ガイルの爺さんの書斎に入ると、いつもと違い真剣な雰囲気を纏ったガイルの爺さんの姿があった。


「なんだよ?」


俺はガイルの爺さんと出会ったその日から猫を被るのをやめている。

さすがに偶にあう両親には猫を被るが、それ以外は今では基本的に素だ。


「今まで、儂は多くのことをフィンに求めてきた。

だが、それも今から儂が言うことで最後だ。」


最高の酒を貰いにエルフの里へ行けやら、酒の摘みに合う砂漠魚を捉えに大陸一巨大なフィール砂漠に行けやらと、私的としか思えない理不尽な命令も半分くらいあった。

それも今日で終わりということか。


「んで、最後の無茶ぶりはエリンも参加可能なのか?」


エリンの同行許可はなかなか出ない。俺を鍛えるためなのだから当然だ。

傾向としては、長期的に外の世界に足を運ぶことになるときや、幻想竜(インシアノドラゴン)の時のように一人ではどうにもならないような奴が相手の時はエリンの同行が許可されるようだ。


「それはエリン次第かのう。

 彼女が付いて行くというなら儂は止めん。」


「付いていきます。」


「まだ儂は何をさせるかも言っておらんというのにせっかちな奴よ。」


「なら早く言えよ。」


「儂の孫は口が悪くて困るのう。

 余り長引かせてもよくないだろうから、手短に言う。お主等、《朱雀》になってこい。」


「「‥‥は?」」







▼△▼△▼


「あれが魔術学院か。」


爺さんの命令を受けてからはあれよあれよと言う間に俺達の魔術学院への入学が決まってしまった。

そもそもで《朱雀》とはこのネルフィスで最強の魔術騎士団。その構成員は全て魔術学院の卒業生、または在校生だ。

ここで、俺の知る学校と魔術学院の大きな差を説明しておこう。俺の知る学校は基本的に安全というものが保証されている。だが、この魔術学院は違う。命令があれば魔物の殲滅やダンジョンの攻略など、命の危険が伴うことをさせられる。

つまり魔術学院とはこの世界での軍事施設なのである。

魔術学院は十二歳から入学が許され、卒業は最短で十八歳でできる。ただ、エリンの話によると卒業生の数は入学生の数の四分の一以下ということだ。

なぜ、こんなにも危険な場所に人が集まるのかと言うと、偏に《朱雀》に与えられる権力の高さにある。《朱雀》の構成員は並みの貴族よりも遥かに高い権力が与えられるのだ。例えそれが平民出であろうともだ。

また、卒業するだけでもある程度の地位は約束される。

貴族が自分の家の血筋の優秀さを誇示するために魔術学院に跡取りとはならない次男や次女を送ることも多いらしい。




「腰が痛いわね。馬車よりも飛んでいった方が良かったんじゃない?」


俺達は今、馬車で魔術学院に向かっている。というのも、魔術学院は《ネルフィス》の中央にある広大な敷地に校舎を構えているのだが、ガイルの爺さんの屋敷からは随分と遠いからだ。


「待て待て、俺は飛べないから。」


ご存知の通り、俺は属性魔術は使えない。


「走りなさいよ。」


現実問題、馬車よりも俺が本気で走った方が速い。エリンが飛ぶ速度とも良い勝負ができるだろう。

だが、それとこれとは別問題だ。


「最近の俺はエリンに甘すぎたみたいだな。」


「ちょっと、何する気?」


「下僕の分際で生意気だ!!」


「やめなさいって、こんな狭いところで暴れないで。」


「どこ触ってんのよ、っちょ、くすぐったい!!」


「ごめんなさい、私が悪かったから脇と耳の同時攻めはやめて~!!」


狭い馬車の中、非常に有意義な時間を過ごした俺とエリンだった、まる


「私は散々な時間だったわよ!!」



▼△▼△▼


 しばらくして魔術学院の敷地内に着くと、そこにはたくさんの人がいた。

どの人も同じ服を着ていることから、おそらくここにいる人、全員が魔術学院生というわけだ。

俺達も事前に渡されたここの制服を既に着ている。

 学院は城のような巨大な建物で、中にはたくさんの施設がある。そして、学院の敷地内は一つの街として機能している。いわゆる、学園都市という奴だ。




「人混みに酔いそうね。」


 エリンの言うとおり、凄い人の数だ。前の世界の某電気街と同じくらいの人混みかもしれない。


「新入生は向こうに行くらしいな。

 どうする?サボるか?」


俺の経験上、入学式なんてダルいだけだ。サボってもさして問題はないと思われる。


「いえ、入学初日から目立つのは避けましょう。」


「それは今更じゃないか?」


 先ほどから嫌というほどの目線がエリンに、というよりエリンのその長い耳に向いている。エルフは魔術学院でも珍しい存在のようだ。


「それもそうね。」


魔術学院にはエルフを初めとする亜人も少数だが在籍している。しかし、エルフ以外の亜人は人々に差別され、辞めていく者がほとんどらしい。

そんな中、《ネルフィス》と友好関係にあるエルフ達は森の友と呼ばれ、差別されることはない。長い歴史の中には《朱雀》に所属していたエルフもいるほどだ。

ただ、それでも亜人の数は極めて少ない為、エリンが目立ってしまうのも無理もない話だ。それにエリンが類い希なる美貌を持つのも目立つ理由の一つと言えよう。


「しかも制服なんて着たらその威力は計り知れないよなぁ。」


制服越しにもわかる自己主張の激しい胸、こいつが特にけしからん。


「フィン、顔がイヤらしくなってるわよ?」


「いや~、制服というのはどうしてこうも男心をくすぐるのだろうか。」


「はぁ、知らないわよ。」


そんな無駄口を叩きながらも俺達は入学式へと向かった。

何か大切な話があってもいけないから、結局参加することにしたのだ。


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