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4話 VSドラゴン

◇◆◇◆◇


 ガイルの爺さんに預けられてから今日で二年が経った。

俺はもう九歳になる。


「でも、まさか誕生日をこんな森の中で過ごすことになるとは思わなかったよ。」


「この状況でそんなことを気にしてられるわね?」


迫る牙、爪。俺達は今、黒褐狼の群に襲われていた。黒褐狼は見た目は普通の狼なんだが、大きさが熊ほどもある巨大狼だ。


俺達が何故こんなことをしているかというと、最近恒例になりつつあるガイル爺さんの気まぐれ発言のためだった。


『フィンもそろそろドラゴンくらい狩っても良い頃だろ。』


いつも無理難題を押しつけてくるガイル爺さんだが、今回のは特別無茶苦茶だった。

ドラゴンと言えば生態系の頂点に君臨する最強種。誰が九歳の子供にそんなことをやらせるだろうか。

だが、俺も前世では《龍帝王フレイブル》を倒したという自負がある。爺さんに無理だとは言えず、結局はドラゴン退治にでかけることになった。

エリンは今回の話をした瞬間に付いて来ると言い、ガイルの爺さんも想定内だったのか、エリンの同行は案外すんなり決まった。


そんな経緯を経てドラゴンがいるという《霞の森》に来たのだが、入って数分もしないうちに黒褐狼の群れに襲われた。どうやら黒褐狼の縄張りに侵入してしまったらしい。


「帰ったら私が祝っあげるからやる気を出しなさい。」


 俺が手を抜いて闘っていることはバレバレなようだ。

 そんなことを言ったらエリンだって全く本気ではないのだがエリンの場合、魔力を温存しているのだろう。

 ここは面倒くさいがやはり魔力消費とは無縁な俺が殲滅するべきか。


「エリンがケーキを焼いてくれるか?」


「はぁ、焼いてあげるわよ。」


「エリンのパンツもくれるか?」「却下よ。」


 即答だった。仕方ない。そろそろ遊びは終わりにするとしよう。エリンの俺を見る目が怖いし。



▼△▼△▼



「やればできるんだから最初からやりなさいよ。」


「それではエリンのケーキが食べれないだろ?」


 数秒後には夥しい数の黒褐狼の死骸が森に転がっていた。


「全く、そういうところだけは昔と変わらないのだから。」


「少年の心を忘れたくないのさ。」


「あなたの場合、初めから少年っぽくは無かったし、そもそもでまだ少年真っ盛りじゃない。」


おお~、俺のボケを全て拾ってくれるとは、流石はエリンだ。有能な下僕を持てて俺は幸せだよ。


「馬鹿なこと言ってないで早く【索敵】とやらを使いなさい。」


エリンにはスキルを生まれ持っての固有魔術ってことで説明してある。

嘘を見抜くエルフにはそれが偽りだと分かりきっているのだろうが、これが俺の説明できる限界なのだと言うと、渋々ながら納得してくれた。


『いつか全てを教えて貰いますよ?』


 エリンはそれだけ言って、それ以降はこのことに触れてはきていない。本当によくできた下僕だ。



 【索敵】を使い辺りの様子を探る。

この二年間の修行のような生活で【索敵】は集中力を高めればより広範囲を探ることが可能だと判明した。その要領をうまく使い、周りを散策するが、俺の探知できる範囲にはドラゴンらしき強い反応は無かった。


「ドラゴンはもっと森の奥深くにいるらしいな。」


【索敵】を集中して使うには精神力を要する。ゆえに歩きながらや闘いながらの行使は難しい。

ある程度、奥に進んでからもう一度行使するのが一番効果的だろう。


という訳で俺達は《霞の森》の奥に進む。進めば進むほど霧が立ち込め視界は最悪になっていくこの場所だが、【索敵】を使えば迷うこともいきなり敵に襲われることもない。【索敵】は集中しながらの行使こそ厳しいが、いつもの範囲を知るだけなら歩きながら、闘いながらでも使うことができる。



「にしても、この霧はムカつくわね。私の魔術で払ってしまおうかしら。」


エリンは強力な風魔術の使い手でもある。俺には使えない属性魔術だが、その威力は驚くほど高い。まぁ、エリンが元々魔力の高いエルフという種だからというのもあるだろうが。

 魔力が切れたら使えないという弱点もあるが、それを差し引いても強力な力には変わりない。

もちろん、霧を晴らす為に使っていいようなものではない。


「我慢しろ。それに、どうせ晴らしてもすぐに霧に包まれるのがオチだ。」


二人仲良く?森を進む。途中、どうしても避けられない戦闘も幾度かあったが、そのどれもを俺の刀で斬り伏せた。毎日、ガイルの爺さんと取っ組み合いをしている俺にとっては生温い闘いである。




二時間ほどたっぷりと時間をかけて森を進み、そこで再び【索敵】を集中行使することにした。

知覚域が今までの倍の広さまで広がったところで大きなエネルギーを感知。そして、それと同時に小さな存在も感知した。


「やばいな、誰かがドラゴンに襲われている。」


この大きな力を持つ魔物はほぼ間違いなくドラゴンだろう。

そして、もう一つの小さな反応は人間のものだ。それも少しずつ反応が薄れていっている。どうやら攻撃を受けているらしい。


「先に行く。」


【ステップ】と【ジャンプ】を駆使して枝が複雑に入り組んでいる《霞の森》を駆ける。最悪の視界の中でも【見切り】と【索敵】のお陰で殆ど減速せずに目的地までたどり着くことができそうだ。


エリンを置いてきた理由は単純に彼女が俺の全力に付いてこれないからだ。

それと、彼女の実力からすれば俺が先ほど【索敵】で確認した魔物レベルなら難なく倒せる。だから安心して置いていけた。




□■□■□


 わたくし、アレシア・フルージュはブルージュ家、始まって以来の神童と呼ばれて育ってきましたわ。

齢九にして鋼鉄の属性魔術を殆どマスターしたのですからその評価も当然ですわね。

そんなわたくしの元に劣等竜(レッサードラゴン)の話が聞こえたのは今日の朝でしたわ。何でも見回りに行った兵士達がドラゴンの鳴き声を聞いたのだとか。

ドラゴンの中でも最弱種と言われる劣等竜(レッサードラゴン)にわたくしは興味を持ちましたの。神童と呼ばれるわたくしの輝かしい経歴に"竜殺し"を加えてみたいと思いまして。



 わたくしは誰にも告げずに竜の咆哮を聞いたという《霞の森》に参りました。騎士を連れてドラゴンを倒しても何の自慢にもなりませんもの。一人単独でドラゴンを倒してこそ真の"竜殺し"と言えますわ。




朝早くに《霞の森》に入ってから四時間ほど歩き続けてわたくしはやっと劣等竜(レッサードラゴン)と巡り会えました。

黒く光る鱗に、退化した翼の代わりとなる強靭な腕。そのどれもがわたくしの知る劣等竜(レッサードラゴン)の特徴と一致しましたわ。


――先手必勝ですわね


本当は正々堂々、正面から打ち破るつもりでしたけど、流石はドラゴン種ですわ。最弱と呼ばれる劣等竜(レッサードラゴン)でさえ、この存在感とこの迫力。正面から闘うのは無謀ですわね。


わたくしは気付かれないように劣等竜の背後に回ります。幸いにも劣等竜は気配にはそこまで敏感ではありませんから、わたくしでも背後に回ることができました。



 長ったらしい詠唱を唱え、鋼鉄の属性魔術を発動します。


――《巨人槍(ギガンテス)


巨人槍(ギガンテス)》は巨大な槍を生み出し、対象へ飛ばすというわたくしの最大魔術。それにありったけの魔力を込めて劣等竜の弱点である首筋に放ちましたから、わたくしは自分の勝利を確信しました。



「GAAAAAA!!」


しかし、わたくしの確信もその竜の咆哮により霧散しました。


――ありえませんわ!!


今の攻撃は威力、シチュエーションともに最高のものでした。今の魔術で勝てないならわたくしに勝機はありません。

劣等竜は今の攻撃ですら首筋の鱗が何枚か剥がれた程度のダメージしかおっていないようです。


――死にたくはありませんの


『死』それがわたくしに明確な可能性として迫った瞬間、わたくしは劣等竜に背を向けて全力で逃げました。

ですが、劣等竜はそれを許してはくれませんでしたわ。


「きゃっ!!」


劣等竜の爪がわたくしの背後から迫り、逃げるわたくしの足をかすりました。


傷口から大量の血が流れます。痛みは既に頭が麻痺していて感じられません。


足を怪我したからといって劣等竜の攻撃が緩まることは決してなく、わたくしは徐々に追い詰められていきました。

 そして、とうとうわたくしは足を滑らせて地面に転がり、身動きがとれなくなってしまいました。それを劣等竜は見逃してはくれません。わたくしに劣等竜の牙と圧倒的な『死』の恐怖が迫ります。


「いや!!!!」


思わず目を瞑り、劣等竜の牙がわたくしの肉を抉るのを待ちます。


「あれ?」


ですが、いつまで経っても痛みがわたくしを襲うことはありません。思い切って目をあけると、そこには首を切断された劣等竜と刀を持った少年がいました。


「ふぅ。ギリギリ、セーフかな。」


少年は刀についた血を払うとその刀を鞘に納めました。

刀は余り人気の武器ではありません。わたくしも刀の使い手は初めてみました。

状況から考えてみて、この少年がこの劣等竜を倒したとしか考えられませんが、それはありえませんわ。


 わたくしがこれほど手こずった相手をこうも簡単に倒すなんてありえませんもの。



「フィン、私を置いていくなんてひどいわよ。」


もう一人、遅れて現れたのは驚くことにエルフの女性でした。人前にはめったに現れないエルフはどうやらこの少年の仲間のようですわ。ますます意味が分かりません。


「悪い悪い。そんなに拗ねるなよ。

 っと、それより急いでそこの美少女の怪我を治してやってくれ。」


「‥‥分かったわ。」


エルフの女性がわたくしに近付きます。


「痛そうね。今、楽にしてあげるわ。」


温かい風が吹き、わたくしの足の傷が見る見るうちに治っていきました。


「回復魔術?」


回復魔術とは高度な技術を要する高等魔術。エルフだから行使できるのも納得ですけれど、少し悔しいですわ。


「治したら、上級魔術の準備をしとけ。ドラゴンが来るぞ。」


「なに言ってるのよ、ドラゴンならあなたが今斬り倒したじゃない。」


「はぁ?

 んなトカゲはドラゴンとは言わねぇよ。いいから詠唱始めな。」


「分かったわよ。」


瞬間、エルフの女性から信じられない程の魔力が溢れ出しました。わたくし達、人間には到達できない高みをわたくしは垣間見たのですわ。


「来た。」




「キューーーーン!!!!」



少年が呟いた刹那、幻想的な光りを纏ったドラゴンがわたくし達の前に現れました。

わたくしはその姿を見たとたん、恐怖で足が震えて動けなくなってしまいました。


幻想竜(インシアノドラゴン)、わたくしも話にしか聞いたことの無い本物のドラゴンですわ。


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