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2話 下僕と書いて友と読む、かもしれない

「それが本性ですか。思っていたよりも厄介ですね。」


「はぁ、ずっと隠してきたのに。」


 もうここまで来たらエリンに猫を被っても無駄だろう。俺は素で彼女とは話すことにした。


「一つ聞きます。あなたは本当にリアスとクランの子供ですか?」


リアスとは俺の母の名前だ。どうやらエリンは俺があの二人の子供か疑っているらしい。当然と言えば当然か。魔術のあるこの国のことだ、きっと他人に化ける魔術もあるに違いないからな。


「俺は母と父の子供だよ。と言ってもそれを証明はできないけど。」


「いえ。大丈夫です。私達エルフには相手の嘘を見抜く力がありますから。

あなた、フィンが嘘を吐いていないことは分かりました。」


 生きた嘘発見器か、便利そうだな。


 そんな的外れなことを思っているといきなりエリンが片膝をついて頭を下げてきた。


「今までの無礼、失礼しました。どうかお許しを。」


声には本当に済まなそうなニュアンスが含まれていた。

俺だったら良かったものの、普通の三歳児なら最初の蹴りで吹っ飛ばされていたことを考えたら謝るのも当然か。

だが、幸いにも俺に怪我はない。


「顔を上げろよ。」


 徐に顔を上げるエリン。流石は美しさに定評のあるエルフだ。エリンの顔もとても綺麗である。


「エリンは父と母のことを心配してこんなことをしたのだろう?」


「そうです。」


「なら父と母には黙っといてやるよ。」


「ありがとうございます。」


 心底ホットしたような顔をするエリン。

だが、安心するのはまだ早い。


「そのかわり、条件がある。」


「条件、ですか?」


「そうだ。お前、今日から俺の下僕な。」


長弓使いのユウカが俺に言った言葉をふと思い出した。


『リーダーってさ、顔に似合わず鬼畜で変態だよね。』


 全くもって心外である。俺ほどの紳士な奴はいないというのに。





◇◆◇◆◇


 俺がエリンという下僕を得て一週間が経った。下僕と言ってもエリンに何か理不尽なことを求めたりはしない。ただ、この世界で信用できる味方が欲しかっただけなのだから。


「フィンの探していた本はこれで良かった?」


俺がまず初めにエリンに命令したのは敬語の禁止である。エリンは最初こそ戸惑っていたが、今ではしっかり敬語無しで話してくれる。


「こうしてエリンは俺に調教されていくのであった、まる」


「とても三歳児とは思えない言動ね。」


「褒めるなよ。」


「褒めているように見える?」


「見える。」


何故だろう、エリンが溜め息をついて頭を押さえている。頭痛だろうか?


「とにかく、本はここに置いておくよ。」


「あんがと。」


さて、エリンも帰ってきたことだし俺も出かけるかな。


「少し外に出てくる。」


「私も行くわ。」


 エリンは割とお節介やきだ。どこに行くにも俺の後ろを付いて来る。

が、今回ばかりは一緒に行くわけにはいかない理由がある。


「今日は俺一人で行くから。

 夕食までには帰る。」


【隠蔽】を使って部屋を出てからダッシュ。しかも【幻影】を使って俺の姿をした幻を囮として見当違いなところへ走らせたのでまず捕まることはない。案の定、エリンは囮の方へ走っていった。


エリンを撒いたところで俺は前々から目をつけていた森の中の開けた場所に足を運ぶ。

【索敵】で周りに人がいないことを確認してから、そこでエリンから貰った木刀を振る。体が温まってきたところで、今日俺がここにきた目的を果たすこととする。


――《狼牙》


次の瞬間、俺の体は前方に移動し、木刀を振りかざしていた。


「やっぱり。」


今のは《ロストオブエデン》の突進系剣技(アーツ)、《狼牙》。スキルが使えるのだから剣技も使えるのではないかという俺の目論見は当たっていたようだ。


それから、いくつもの剣技を試した。それで分かったことだが、どうやら今の俺では第七級剣技、つまり最弱の剣技しか使えないらしい。無理にそれ以上の高級剣技を使おうとすると剣技は発動せず、体に激痛が走る。


「しかし、きっついな。」


 《ロストオブエデン》では剣技発動にはスタミナ値が消費された。それがこの世界では本当に体力(スタミナ)を使用して剣技は発動するらしい。《ロストオブエデン》ではスタミナ値を上げるには剣技を使い込むしかなかった。この世界でもその理屈はおそらく同じだろう。

つまり、俺は体力の限界まで剣技を使い続けなければいけないのだ。






「ハァハァハァ」


 息も絶え絶えで気絶しそうな程の披露が体を蝕む。【自動回復】のおかげでしばらく休めば再び回復するのだが、とにかく辛い。

剣技が発動しなくなるまで、要は体力が尽きるまでひたすらに剣技を発動し続けた結果がこれだ。本当に死ねる。

が、やはり体力を使い切って回復した後は自分でも分かる程に体力の上限が上がっている。辛い分だけ効果はあるようだ。


「今日は帰ろう。」


 【自動回復】によって体力も回復するようだが、もう精神的に限界である。

一回で根をあげるとは情けない話だが、無理なものは無理だ。

それに俺はまだ三歳児だ。無理な肉体労働は避けるべきだろう。

そんな言い訳を自分自身にしながら俺は屋敷に戻った。






 部屋に戻って、木刀をベッドの下に隠す。あまり俺が木刀をもっていることを他人に知らせたくはない。


「木刀なんて持って、どこに行っていたのかしら?」


 俺の後ろから部屋に入ってきたのはエリン。【索敵】で来るのは分かっていたが、何故か声のところどころに怒気が散りばめられている。


「やぁ、エリン。今日も綺麗だね。」


「それはありがとう。

 で、どこに行っていたのかしら?」


 俺の言葉も軽く流してしまうエリン。今日はなかなかに手強そうだ。


「それは言えない。でも危ないことじゃない。」


「嘘は、吐いてないわね。だけれど、私にも言えないというのはどういうこと?」


「それも秘密。そのうち話すよ。」


もし、スキルや剣技のことを話したら俺が転生者ってことや《ロストオブエデン》のことも話さなくはいけない。それは面倒なのでエリンにもこのことは話さないことにしている。


「そこまで言われては仕方ないわね。私はフィンの下僕という立場だし。フィンに従うわ。」


「あんがと。」


 こういう俺が本当に言いたく無いことはエリンは聞かないでくれる。本当にできた下僕だ。






◆◇◆◇◆


 それから四年が経ち、俺は七歳になった。

毎日、朝早くから昼頃まで俺は森へ行って剣技を発動し続けていた。今では慣れと根性で日に最大五回までは体力の限界を突き破ることができるようになった。

相当にしんどいことに変わりはないのだがな。

だが、そのお陰で今では第三級剣技までは使えるようになった。

そろそろ刀で訓練したいものだが、さすがに刃物は厳重に管理されていて俺は勿論、エリンに頼んでも入手は不可能だった。

鞘の無い木刀では【抜刀】も抜刀専用剣技も使うことができない。それだけは今の俺には歯痒いものだ。





「この球に手を添えてみて。」


 今日は俺の七歳の誕生日。母と父が水晶のような丸いものを持って現れた。

毎年、誕生日は家族全員で揃って祝うのが慣例だが、今年は少し特別なのだ。エリンが言うには人は七歳になったら魔術適定が行われ、その子がどれだけ魔術に適性があるか計るらしい。


「フィン坊ちゃま、大丈夫です。痛くはありませんので。」


 エリンが躊躇う俺の手を引き、水晶の方へ誘う。

エリンは人がいるところでは敬語を使うのだが、それが慣れない俺には少しくすぐったくあった。


 水晶に触れた瞬間、水晶が光を帯びた。そして静まった。光を帯びる前と後では水晶に変化は見られない。


「これは、どういうことなのでしょう?」


猫かぶりモードで父と母に尋ねる。二人とも何だか苦い顔をしていた。


「フィン坊ちゃまには魔術の適性はございません。」


「エリン!!」


母が聞いた事もないような鋭い声を上げる。


「いや、それは言わなければならないことだ。私達が戸惑っているからエリンが変わりに言ってくれたのだよ。エリンは悪くない。」


父も悲しげに言葉を連ねる。


「ごめんなさい。思わず感情的になったわ。エリン、ごめんね。」


「いえ、お気持ちはお察しします。」


つまり、俺には魔術が使えないということか。密かに大魔術とか使えるのかと期待していたのだが。

《ロストオブエデン》には魔法的要素は無かった。あのゲームは剣技とスキルを駆使して魔物を倒す、そういうコンセプトだったからだ。

故に初めて触れる魔術に興味津々だったわけだが、どうやら俺は転生した後も剣士として生きるしかないようだ。


「僕は魔術を使えないということですね?」


「いや、全く使えないという訳ではないんだ。系統魔術、つまり炎や雷といったエレメント魔術が使えないだけで、無系統魔術は問題なく使えるよ。」


 優しさと憐れみを合わせたような顔で父は告げた。









「なぁ、エリン。魔術を使えないことはマズいのか?」


 俺の部屋に戻りエリンに確認をとってみる。


「マズいわね。そもそもでフィンはこのブリフィクス家の成り立ちを知ってる?」


「知らんな。」


何でブリフィクス家と俺の魔術の才能が関係するのだろうか。

不思議には思ったが、エリンの話を黙って聞くことにする。


「ブリフィクス家はクランおじ様の父、つまりフィンの祖父に当たる、ガイル様から始まった成り上がりの貴族よ。」


初耳だった。ブリフィクス家は今では四大貴族と言われる程、力の強い家だ。それが二世代しか経っていない新興貴族だったとは、信じられない。


「ブリフィクス家の子孫は力が無ければならないの。でないと、古参の貴族共からの圧力に堪えられないからね。」


「じゃぁ、俺、ヤバいんじゃない?」


「えぇ。ヤバヤバよ。」


なるほど、それで父と母は悲痛な表情をしていたのか。この世界では魔術ほど強力な力は存在しない。ならそれを持たない俺は落ちこぼれも良いところだろう。


「安心しなさい。フィンは私が守るから。」


エリンがいつになく男前だ。


「下僕のくせに生意気だ。」


 俺はエリンの耳を引っ張った。エルフの特徴たる長い耳。それに触れるのはよっぽどエルフに信用されている者のみだと母が前に言っていた。だから悪戯に触っては駄目だとも。

それを聞いた日、エリンの耳を触りまくったのは言うまでもない。


「照れ隠しで耳を触らないで欲しいわね。」


「照れてねぇ!!」


「ならなんでそんなに顔が赤いのかしら?」


「‥‥‥‥」


「こら、無言で耳を引っ張らないで!!」


俺がこの世界に来て随分と経つが、その中でも一番の幸運はエリンと出会えたことだなと俺は火照る顔を抑えながら思った。



◆◇◆◇◆


「フィン、大変よ!!」


 翌朝、エリンが血相を変えて俺の部屋に入ってきた。ノックもしないとは珍しい。よっぽどのことでもあったのだろうか。


「ガイル様がお見えになったわ!!」


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