少し時間は戻って*1
フィールド型闘技場、コロセウム。乾いた風がどこかの草原のはずれを思い起こさせる風景の中を駆けて行く。
その真ん中に、1人の少女が佇んでいた。
風に白髪の長髪をなびかせ、ただ静かに、目を閉じている。
そこから半径50メートル位の範囲で、サークライドの10年生達が輪を作っている。
「『召喚胴衣装着』」
白髪の少女が唱え、両腕をゆったりと広げた。
―――彼女の体と同じ形の薄い光の膜が張る。
刹那。
「貰ったあああああっ!!『段階5、「業火」レベル1、発現!!』」
1つの岩陰から野太い声と共に何者かが躍り出た。
朱色に輝く大仰な魔術式が少女を囲むように構成され、発火する。
「――――――っし!」
燃え盛る紅蓮を見ながら、先程の青年は勝利のポーズを取った。
が。
その紅蓮は、一瞬で霧散した。
「なっ!?」
炎の中から現れ出た少女の姿。魔術師の本気モードである、ローブ着用後の姿。
燃え盛る炎を具現化したかのような黄色の文様をあしらった赤い東洋風の胴衣。その脚部にある切れ目から、ただひたすらに鮮烈な蒼色のローブが見え隠れしている。先程よりもさらに強い風にあおられ、白髪が大きく広がっていた。
―――その容姿はまさに、戦うために地上に光臨した天使とでも言えそうだった。
ゆっくりと、少女の瞳が開かれる。
灰青色の瞳。先程の名残であろう、宙に未だ舞い続ける火の粉が、それに映る。
思わず、青年は1歩退いていた。
少女はそれを見て、伏目がちに、言う。
「この姿を見て退くぐらいなら、始めから挑戦なんかしなきゃいいのに…」
明らかな…侮蔑の念。
「戦うのは、好きじゃない。なのに、私を無理に引っ張り出して戦わせて、最後はそれ?…私を疲れさせないでよ、アーノルド・アスマン」
タン、と地面を蹴って浮上する。
「ふぅ…お望みなら、この『神童』と呼ばれる私が本気を出してあげてもいいけど?その代わり、私怒ってるから手元が狂うかも知れないってこと、警告しとくね。」
「…望む所だ、レルナ・ウィルゼブル!」
アーノルドはそう答え、レルナは眉をひそめた。
「正気?」「正気だ」「へぇ…」
3秒にも満たない、即答のやり取り。
一瞬の、後。
「『我が哀しみは 空へ帰す。汝の御許に 羽は舞う。我が右手には 杖在りて 汝が望みを 打ち据える―――』」
レルナが朗々と何かを唱え始めた。
「!」
風向きが、変わる。
今や風は全て、レルナを中心とした渦となっていた。
その風の一部が、レルナの右手の中で1本の純白の杖と化していった。
「『敵が野望は 陽に焼かれ 悪しき魂 砕け散る。天の衣は 千切れ飛び 清めのために いざ舞わん―――』」
「レルナ、お前……!!」
―――杖の召喚と同時に、闇殺しの呪文を…!
普通そんな芸当は、出来るはずがない。魔術式が複雑すぎて呪文の方が発動の主流になってしまうような強力な魔法は、凡人にとって簡単には扱えない。
それを涼しい顔でやってのける。…レルナが『神童』と呼ばれるゆえんである。
「『―――段階9、「蒼穹の片鱗」レベル4、発動!』」
「わ、だ、『段階5、{大いなる壁}、「グレイテスウォール」発動!!!』」
「―――遅い」
数数多の蒼い刃が、アーノルドの周囲を抉り、
―――花火でも打ち上げたかのように、アーノルドの鮮血が宙に舞った。
ぼとっ、と妙な音を立てて倒れたアーノルドを見ながら、レルナはつぶやいた。
「ま、長く持ったほうではあるかな…」
あくまでも、挑戦者には優しくない天才少女なのである。
ふと、中庭の方向を彼女は向いた。あくまでも方向であって、実際に見たわけではないのだが。
そして唐突に、その顔をほころばせた。
「来たんだ、アイツ…また遅刻だけど」
ドタバタとした日常が始まったんだと、レルナは予感した。
意味不明な文章の塊です。ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございます。ぶしつけですが、アドバイス等、よろしくお願いします。