そのときのどこかで ♯1
守護者、キム・スティルレイトはタバコをふかしていた。
頭上は抜けるような青空。そしてニコチンの混じった煙。
「…暇だ…。」
キムの職業は、ここ神聖教会立サークライド大魔法学校の門番である。とはいえ、治安のいいここは、全くといっていいほど侵入者はいない。
―――つまり、給料泥棒もいいとこなのだ。
普段は不慮の事故を想定して手の空いた教師が来るはずなのだが、今日はまだ誰も見ていない。まあ、だからこそこんなにも長いことタバコを吸っていられるのだが。
物見やぐらの縁に足をかけ、白い制帽を目の位置まで下げた。
「寝るつもりか?」
はて、とキムは思った。いつも巡回に来る仲間や、見慣れている教師の声ではなかった。しばらく考え、幻聴だと言う結論に至る。
辺りには風ひとつなく、音もまた然り。居眠りには申し分ない感じだ。
「…もう一度聞こう。寝るつもりか?」
一回目よりもはっきりと、そして脅しの雰囲気まで加わった声が聞こえた。
キムは舌打ちし、制帽を普通の位置にする。
「誰だ?」
「旅のものだ。」
「冗談だろ?」
ここまでしゃべってようやく物見やぐらから門の前を見た。
―――――真っ白な壁に、鮮血のモダンアート。
派手に飛散した真紅の飛沫が鮮烈な印象を放ち、
守護者の制服だったのであろう血染めの白布が散らばっている。
良く見てみれば、城壁の血しぶきの中に点々と、
臓物が。
「だ、誰だお前は!?」
「何度も言わせるな。ただの旅のものだ。校内に入れてくれないか?」
冗談じゃない。
アイツ…俺の同僚の生首持ってやがるじゃねぇか!!
「分からぬか、開けろ。」
「何を―――」
「開・け・ろ。」
「クソッ!!」
ダッ、とキムは飛び降りる。
ここで、いつも怠けていたが故の失敗をしたことに、彼は気付かなかった。
警報を、鳴らし忘れたのだ。
飛び降りざまに、唱える。
「『魔術式段階3展開、召喚胴衣装着!!』」
キムの体が光に包まれ、真っ赤なローブに変化した。
「『「不壊の捕縛鎖」…発動!』」
「――――――――――」
生首を持った男は黙ったまま魔術式から伸びてきた鎖に絡まれた。
「どうだ!もう逃げられまい!!」
「――――――――――『段階に―――』」
「馬鹿か?こっちは段階3だぞ?」
「『―――段階23、…光臨。』」
ズバァン、と鎖が勢い良く弾けた。
キムは耳を疑いつつ絶句する。
―――段階は10までしか存在しないはずなのだ。
「大人しく従えば命だけは助かったものを…。」
「クッ…『盾!』」
唱え、術が発動…しなかった。
「所詮それも段階3…哀れな男だ…生まれ変わって来い、『粉砕。』」
キムの意識は、砕かれる肉体と共に消えた。
「―――参ったな。」
人肉のミンチと返り血まみれの男はつぶやいた。
「自分で開けるしかなくなった…。」
男の目の前には、サークライドの巨大な鉄扉がそびえていた。
しばし躊躇する。
「まぁ、多少手荒いが…。」
溜め息をつきながら右手を上げ、
「『静かなる大爆発、点火!』」
城壁ごと、粉砕した。
今まで頑張って書いてきました。
まだまだ続くので、よろしくお願いします。
感想やアドバイスなど、そちらの方のご協力もお願いします。