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嵐の前・1〜授業前〜

数分後のサークライド敷地内、中庭。

その隅の方にある大きめの植え込みが、ガサガサと不気味に揺れた。


「ニャア。」


そこから出てきたのは、鳶色の目をした1匹の黒猫。辺りをうかがうように見回した後静かに移動を始めた。

刹那、


「グ〜レ〜イ〜♪」

「ニャッ!?」


東洋系の美少女に猫は捕まった。身を捩じらせて逃げようとするのもかなわず、頬擦り付きの抱き締めを喰らう。

――――マンガ化したら確実にハートマークだらけになりそうな、微笑ましい情景。


「ニャめろニャめろ、苦しい!!」

「だってぇ……。」

「エリス!頼むから!」


はあい、と少女―――エリス・リベライトは腕を緩めた。そして植え込みの陰に座る。


「―――ったく、ニャんで俺の変身してる姿が分かったんだよ?」

「だって、どんな姿になってもその鳶色の目だけは変わんないんだもん。」

「仕方ニャい。元の姿に―――」

「え、駄目。」

「ニャんでだよ?」

「そっちの方が可愛いから。」

「そんな理由で…」


突然、エリスは猫[に変身したグレイ・フランシス]を持ち上げ、自分の顔の目の前にその顔を持ってきた。


「…今変身解いたらキスしちゃうよ☆」

「それは変身を解かない理由にならないような…。」

「…キスしたいの?」

「え、そりゃあちょっとは……ってオイ!!」

「そういえば、何でこんな姿してたの?」

「スルーかよ。」

「…キスしようか?」

「もういいよ。…先公に見つからニャいようにこんニャ姿で『移転』してきたんだ。そうニャん回もニャん回も書き取り罰ニャんて受けてられニャいっての。」


ここサークライドには、校則違反者に魔術の基本、『魔術式』を書かせるという伝統的な懲罰があった。無論毎日遅刻するエリスやそれに喫煙や飲酒まで入ったグレイは、毎日のようにそれを受ける羽目になっていた。余りにも2人っきりでよく顔をあわせて真夜中までこの懲罰を受けていた所為か、お互いに同じタイミングで告ってしまうと言う珍事態が発生したことは、教師陣の中では有名な話である。…未だに目撃者は不明だ。まあ、エリスと言う恋人が出来たお陰でグレイの素行が明らかに改善したのは紛れもない事実なのだが。

エリスはしばらくの間黙ってグレイをなでる。

あごの下や耳の裏…これがまた、猫にとっては気持ちいいのだ。

グレイは無意識にのどを鳴らしてしまう。


「可愛い♪今日はもう帰って寝床で抱いてようかな?」

「せっかく学校に来た意味が…ってか変身は12時間しか効かニャいんだぞ?」

「解けたら…んん…まぁ、そういうことするの☆」


―――何だそういうことって、と聞きたかったが、やめておく。どうせろくなことじゃない。

…あのポニーテール風の黒髪のある頭で何を考えているのやら。


「1『次元』目ってなんだったっけ?」

「…魔闘術、じゃニャかったか?」


魔闘術。自らの魔術の腕を鍛え、それで試合を重ねていく科目だ。書き取り罰のお陰で多くの魔術が使えるようになった[通常魔術を使えるようになるためには、体が覚えてしまうまでその術の魔術式を書き続ける必要がある。]2人にとっては、得意中の得意だ。


「じゃ、帰る前に受けなきゃね。」

「…帰ることは決定済みニャのかよ。」

「うん。」

「……。」


エリスの事はグレイでも時々分からない。


「じゃあ行くよ、『魔術式、段階2、展開!!』」


2人、正確に言うと1人と1匹の足元に、淡い水色の簡素な魔法陣、ペンタクルが現れた。


「『「移転」、発動!…コロセウムへ!!』」


1人と1匹の視界が、光に包まれた。


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