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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

異世界ゴッホ

作者: 斉藤しおん
掲載日:2026/03/29

第十四回ネット小説大賞「恋愛部門BL」応募作品です。

前世で死なせた画家を、今世で世界一に――没落皇太子がすべてを賭けた、燃えるような異世界ロマファンBL。

第一話 太陽の名を持つ、売れない画家


「こんな絵、誰が買うんだ?」


画商は鼻で笑った。


机の上に置かれたキャンバスを


まるで腐った果物でも見るような顔で見下ろしている。


「色がうるさい。構図も滅茶苦茶だ。こんなのは芸術じゃない」


その言葉が、胸に刺さる。


「……すみません」


ソレイユは小さく頭を下げた。


分かっていたことだ。


分かっていたのに、やっぱり心が痛い。


画商はさらに続けた。


「君、名前は?」


「ソレイユです」


「ソレイユ?太陽って意味か?」


男は肩をすくめた。


「ずいぶん立派な名前だな。絵は真逆だが」


乾いた笑い声。


ソレイユは何も言えなかった。


足元を見つめる。


床の木目がやけにくっきり見える。


やっぱりだめだ。


いつもそうだ。


どこへ持っていっても、同じことを言われる。


色がうるさい。


下手だ。


意味が分からない。


――価値がない。


もう聞き飽きた言葉が頭をめぐる。


頭痛がして。耳をふさぎたくなるのを必死でこらえる。


「もういいよ」


画商は手を振った。


「帰りな」


ソレイユはキャンバスを抱えた。


「……失礼しました」


アトリエを出る。


ドアが閉まる。


その瞬間。


涙が、にじんだ。


どうしてだろう。


こんなこと、慣れているはずなのに。


剣と魔法の世界で何の適正もなく、


生きた色だけが見えるソレイユはそれを絵にするしかできない。


そんな自分を全否定される。


精神が折れる音が毎回する。


認められないのは承知の上で、今度こそはと思ったのに……。


脱力のあまり、路地裏の壁にもたれる。


空を見上げると。


雨が降り出しそうな曇り空。


灰色の光。


泣き出しそうな自分に似合いの空模様。


「……やっぱり」


小さくつぶやく。


「僕の絵なんて」


その時だった。


「ほぉ」


背後から、声がした。


振り向く。


そこには、一人の男が立っていた。


自分と同じ赤毛。


緑の鮮やかな瞳。


やけに楽しそうな顔。


そして。


彼はソレイユのキャンバスを見て言った。


「いつ見てもいい絵だ」


ソレイユは固まった。


今、この人はなんて言った?


男は笑った。


「久しぶりだな」


まるで昔から知っているような口調で。


そして。


信じられないことを言った。


「兄さん」


ソレイユの思考が止まる。


男はさらに続けた。


嬉しそうに。


少し泣きそうに。


「やっと見つけた」


宝物のように抱きしめられたソレイユは瞬きをする。


彼の存在は不思議だった。


彼が話すと、嘲笑が聞こえない。


彼の声しか聞こえない静かな世界でソレイユは彼を見つめる。


「えっと……誰ですか?」


男ははっとしたように息を呑み、苦笑した。


「……そうか。覚えてないか」


そして、ゆっくり言う。


「俺はテオドール。テオでいい」


その名は、この街では有名だった。


元皇太子。


だが今は没落貴族。


王家の権力争いに敗れ、爵位も財産もほとんど失った男。


――そのテオが。


なぜ、自分を抱きしめているのか。


ソレイユの混乱をよそに、テオは低く囁いた。


「俺は……あなたを探していた、前世から」


「……え?」


「嘘だと思っていい、俺はただ」


テオの手が、ソレイユの肩を強く掴む。


「君を今度こそ幸せにしたい」


雨音が、静かに響く。


ソレイユの頭は真っ白だった。


「えっと……あの」


「俺が君の絵を売る、そして有名にしてみせる……それが今世の俺の夢だ」


テオは即座に言った。


「もちろん」


緑の瞳が、まっすぐに射抜く。


「君が生きているうちに、有名にする」


そして次の瞬間。


テオは懐から財布を取り出した。


革袋を開き、中の金貨を――全部、机の上にぶちまけた。


カラン、と金貨の音が路地に響く。


「……え?」


「この絵」


テオは指差した。


向日葵の絵。


「全部買う」


「……は?」


「いや」


テオはさらに言う。


「ここにある絵、全部だ」


ソレイユは固まった。


「え、いや、そんな……」


「足りないか?」


テオは外套の内ポケットを探り、さらに小袋を出す。


また金貨。


「これでどうだ」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


ソレイユは慌てて止めた。


「こんなに……いらない、です!」


「安すぎる」


テオは断言した。


「君の絵は、こんな値段じゃない」


真剣すぎる声だった。


「家財を投げうっても構わない」


そして、ゆっくり言う。


「君の絵は――」


一瞬だけ、声が震える。


「俺の命そのものだ」


ソレイユは言葉を失った。


こんなことを言われたのは、初めてだった。


誰も褒めなかった絵。


誰も欲しがらなかった色。


それを、この男は――宝物みたいに見つめている。


雨が降り出しそうな空模様の中、テオは微笑んだ。


太陽みたいに強い男。


ソレイユの胸が、妙にざわめいた。


「……どうして」


思わず聞いてしまう。


「どうして、そこまで……」


テオは少し黙った。


そして、静かに言った。


「言っただろ。前世で、君を救えなかった」


その瞳の奥に、深い後悔が宿る。


「だから今度は」


テオは笑った。


どこか壊れそうな笑みだった。


「君が世界一の画家になるまで、俺が君の絵を全部売る」


遠くで聞こえる雨音の中。


ソレイユは、自分の心臓が妙に速く鳴っているのを感じていた。


それが、今にも雨が降り出しそうな天気のせいなのか。


この男のせいなのか。


まだ分からなかった。


ただ――逃げたいとは思わない。


この出会いが自身の運命を、狂わせることだけは。


なぜか、はっきりと分かった。


---


第二話 見る目のない画商


王都の画廊は、いつも同じ匂いがする。


油絵具と香水、そして――。


高慢な審美眼を持つ画商達の放つ独特な緊張感。


壁には柔らかな色彩の絵が並んでいた。


貴族の庭園、静かな湖、微笑む聖女。


どれも整っている。


どれも、正しい。


そして――。


どれも、つまらない。


その中央で、ひときわ浮いている絵があった。


燃えるような黄色。


ねじれる花弁。


空は狂おしいほどの群青。


ソレイユの向日葵だった。


画廊の主人が鼻を鳴らす。


「なんて派手な色だ」


別の男が肩をすくめる。


「色が下品だ」


「構図も乱れている」


「これじゃ売れない」


笑い声が広がる。


ソレイユは俯いた。


やっぱり、そうだ。


路地でも、ここでも、同じ言葉。


胸の奥が冷えていく。


狂うな、狂うな、そう言い聞かせて


俯いて耳をふさぎたいのを必死にこらえる。


その時だった。


「――ふざけるな!」


低い声が響いた。


それも誰もが押し黙る妙な圧がある。


次の瞬間、赤い影が前に出る。


テオだった。


燃えるような赤毛が、灯火のように揺れる。


テオは壁から向日葵の絵を外すと、抱きしめるように胸へ引き寄せた。


「これは絵の表現だ!」


画廊の空気が凍る。


同時に、ソレイユの中の嘲笑も掻き消える。


テオの緑の瞳が、真っ直ぐに彼らを射抜く。


「太陽の光を」


一歩踏み出す。


「風の鼓動を」


さらに一歩。


「俺の選んだ、最高の画家が描いた一枚に下品なケチをつけるな!」


沈黙が落ちた。


画商たちは顔を見合わせる。


そして――。


テオを見て、くすくすと笑い出した。


「見る目のない没落貴族が、今度は画商気取りか」


「こんな絵が売れるものか」


「画家に入れ込んだな、没落貴族らしい」


その言葉に、ソレイユの胸が締めつけられる。


だが。


テオは笑った。


堂々と。


「いいだろう」


静かに言う。


「なら見ていろ」


向日葵の絵を掲げた。


「この絵は、いつか王都中が欲しがる」


緑の瞳が燃える。


「その時、お前たちは後悔するだろう」


唇が挑むように歪んだ。


「今日、この絵を笑ったことをな」


誰も何も言えなかった。


そのままテオは絵を抱え、ソレイユの手を掴んだ。


「行くぞ」


外に出ると、夜の空気が冷たかった。


王都の灯りが遠く瞬く。


しばらく歩いたあと、ソレイユは小さく言った。


「……ごめんね」


テオが振り向く。


「なにがだ?」


「僕のせいで、笑われて……テオまで悪く言われた」


ソレイユは視線を落とす。


「やっぱり、僕の絵は――」


その瞬間。


肩を引き寄せられた。


「……え?」


テオの腕だった。


強い腕が、ソレイユの肩を抱き寄せる。


距離が近い。


近すぎる。


赤毛が触れそうなほど。


テオはゆっくり息を吐いた。


「聞け」


低い声。


「あいつらは、見る目がないだけだ」


そして、そっと。


ソレイユの耳に口づけた。


「――っ」


一瞬だった。


だが、触れた場所が熱い。


「君が悲しむ必要はない」


テオは優しく言った。


「俺がいる限り」


肩を抱く腕が、少しだけ強くなる。


「君は一人じゃないからな」


胸の奥が、溶けた。


身体が妙に熱い。


心臓がうるさい。


ソレイユは自分の顔が熱くなっているのを感じた。


どうしてだろう。


この男の言葉は――。


胸の奥を、強く揺らす。


自分の中のうるさい世界を静かにしてくれる。


「……テオ」


思わず名前を呼ぶ。


テオは笑った。


「なんだ?」


その笑顔を見た瞬間。


ソレイユの胸が、さらに強く鳴った。


これはきっと――。


尊敬?


感謝?


救い?


いや、それとも。


もっと、別の何か……だろうか。


ソレイユはまだ気づいていなかった。


だが確実に。


彼の心は――。


テオへと、激しく傾き始めていた。


そしてこの夜。


まだ誰も知らない。


この「見る目のない画商」が。


やがて王都の美術をひっくり返す伝説を作ることになることを。


---


第三話 完売と代償


王都の一角に、小さな画廊が開いた。


看板にはこう書かれている。


『テオドール画廊』


画廊の噂は一夜で広まった。


「没落皇太子が画廊を開いたらしい」


「全財産をつぎ込んだとか」


「そこまでさせる画家って何者だ?」


貴族たちは好奇心を抑えきれない。


――元皇太子が私財を投げうってまで入れ込む絵。


それだけで、貴族の注目は止まらない。


「みんな、よく来てくれた」


テオの馴染みの貴族たちはテオの話を素直に聞く。


驚くほど手慣れた説明は、まるでこの色遣いを


この絵の売り方を知っていたような


ロジカルな説明で


あっという間に貴族たちを納得させ


購入の手が次々と上がった。


貴族が買うと競えば自然と価値は跳ね上がる。


結果は、最初から決まっていた。


開廊初日。


ソレイユの絵は、すべて売れた。


向日葵も。


星空も。


燃える麦畑も。


王都の貴族たちが、競うように買っていく。


「この色彩……見たことがない!」


「奇妙だが目が離せない!テオの言う通り、新しい表現技法だ!」


「確かに、皇太子が惚れ込むのも分かる!」


金貨の音が響く。


テオは静かに微笑みながら、契約書にサインをしていく。


初日にして全作品完売。


――圧倒的な成功だった。


だが。


画廊の奥で、ソレイユは壁にもたれていた。


胸の奥が、ざわついている。


嬉しいはずなのにどうしても消えない感情。


嘲笑が聞こえる、幻聴だと分かっているのに。


「うる、さい……」


ソレイユがぽつりとつぶやく。


頭を抱えたくなるのをこらえていると


テオが近づいてくる。


「ソレイユ、見ただろ!」


満足げに言う。


「君の絵は全部売れた!」


ソレイユは小さく首を振った。


「……違う、よ」


テオが眉をひそめる。


ソレイユは視線を落としたまま言った。


「僕の絵がすごいんじゃない」


指先が震える。


「テオが売るから、欲しいだけだよ……」


泣きそうな、震える声を絞り出すソレイユにテオは沈黙する。


ソレイユは頭を抱えて泣きそうな表情のまま言葉を続けた。


「没落皇太子がそこまで惚れ込む絵」


ソレイユは苦く笑う。


「そんなの、誰だって興味を持つ」


視線を上げる。


「つまり……」


声が震えた。


「僕じゃなくても、いいんだ……誰だって、いい」


その瞬間。


強い力で腕を掴まれた。


「……っ!」


背中が壁に押しつけられる。


目の前に、テオの顔。


緑の瞳が、怒りと焦りで揺れている。


「ソレイユ!」


低い声。


逃げる隙もない距離。


「そんなことを思っていたのか?」


ソレイユが何か言おうとした瞬間――。


唇が塞がれた。


「……テオっ」


一瞬、思考が止まる。


強引なのに、どこか必死な口づけ。


テオの感情が流れ込んでくる。


熱い。


楽しい。


嬉しい。


どれもテオの感情だと分かる。


「今のは……」


テオの手がソレイユの背を引き寄せる。


「俺の今世の力だ、感情を共有する魔法らしい」


離れたとき、二人の息は少し乱れていた。


テオの声が震える。


「分かるか、本当に……俺は心から思ってる」


緑の瞳が、真っ直ぐに射抜く。


「君の絵はすごいんだ……!」


指先がソレイユの頬に触れる。


「君の色が」


息が近い。


「俺のすべてを狂わせる。

 君の絵は、生まれ変わっても変わらなかった……。

 ずっとずっと大好きなんだ」


ソレイユの胸が大きく鳴った。


そしてテオはソレイユよりも苦しげに笑う。


「もう俺に残っているのは、この屋敷だけだ」


王都の屋敷。


それが、テオに残された最後の財産。


「でも、全部、君に注ぐ」


まるで当たり前みたいに言う。


「絵も」


「人生も」


「全部を、君に」


その言葉にソレイユの頭が真っ白になる。


こんな賭けみたいな作戦で。


自分の絵が脚光を浴びる。


最悪だ。


そう思うのに――。


テオの瞳を見ていると、何も言えなくなる。


あまりにも真剣で。


あまりにも、まっすぐで。


こんなに深く。


自分を見てくれる人が――。


今まで、居ただろうか。


絵も。


色も。


心も。


全部、理解しようとしてくれる人。


ソレイユは目を閉じた。


胸の奥が、甘く熱い。


「……テオ」


名前を呼ぶと、彼は少し驚いた顔をした。


その表情を見るだけで、胸が揺れる。


こんなにも。


自分を見つけてくれた人。


だったら。


自分も――。


すべて、預けてもいいのかもしれない。


絵も。


人生も。


そして。


心も。


ソレイユはテオに自分から初めて口づけをした。


触れるだけの軽い口づけ。


「んっ……!?」


テオの顔が赤く染まる。


「ごめんね、僕は魔法使えないから……ただのお礼」


まるで初めてキスされたみたいな照れ方。


こんな、ちぐはぐな人、初めてだ。


ソレイユはまだ知らない。


この成功が。


二人を王宮へと引き裂く、最初の代償になることを。


---


第四話 甘やかされる同居生活


テオドール画廊の成功から、一ヶ月。


ソレイユの生活は、すっかり変わってしまった。


いや――。


変えられてしまった。


「今日からここに住め」


王都の屋敷の玄関で、テオは当然のように言った。


「……え?」


「売れっ子画家が路地裏で寝る必要はない」


そしてさらりと続ける。


「俺が困る」


ソレイユは瞬きをした。


「テオが?」


「そうだ」


テオは真顔で頷く。


「君の命は、俺の命そのものだ」


さらっと恐ろしいことを言う。


こうしてソレイユは――。


強引にテオと同居することになった。


屋敷は広く、静かで、陽光がよく入る。


二階の一室は、丸ごとアトリエに改装されていた。


大きな窓。


積み上げられたキャンバス。


高価な絵具。


すべてテオが用意したものだった。


「好きなだけ描け」


本当であれば売れる画家の軟禁。


そう思われても不思議ではない。


しかし、テオとの生活は妙に甘かった。


朝。


目が覚めると、腕が絡んでいる。


隣にはテオ。


赤毛が枕に広がり、静かな寝息が耳にかかる。


そして――。


離れようとすると、必ず引き寄せられる。


「……どこへ行く」


寝ぼけたテオの声。


「朝ごはん」


「まだ早い」


腕が腰に回る。


ぎゅっと抱き寄せられる。


「もう少しここにいろ」


そのまま、また眠ってしまう。


昼は絵を描くが、絵を描き終えて部屋に戻ると。


テオは当然のようにベッドにいる。


「遅い」


「まだ九時だよ」


「俺は待った」


そして手を伸ばす。


「来い」


ベッドの中でテオに抱きしめられて眠るのが当たり前な日々。


けれど。


ソレイユは絵を描き続けた。


ある夜。


アトリエの灯りがまだ消えていないのを見て、テオが部屋に入ってきた。


ソレイユはキャンバスに向かっている。


筆を握り、夢中で色を重ねていた。


テオは小さく息を吐く。


「好きなだけ描けとは言ったが、無理はよくない」


ソレイユは振り向いた。


少し困ったように笑う。


「僕は画家だから、止められない時もあるよ。

 ……分かるでしょ?」


控えめな声。


だが、揺るがない。


そしてまた、キャンバスへ向き直る。


その姿を見た瞬間――。


テオの胸に、遠い記憶がよぎった。


昔、いた。


こんなふうに、絵に取り憑かれた男が。


何も見えなくなるほど、描き続ける人。


守りきれなかった人。


「……兄さん」


思わず呟いていた。


次の瞬間。


テオはソレイユの背後から腕を回していた。


「テオ?」


ソレイユが驚く。


だがテオはそのまま抱きしめた。


強く。


離したくないみたいに。


「……君は、別の世界で『世界のゴッホ』と呼ばれた。

 絵の巨匠だったんだ……ソレイユ、君の絵は変わってない」


低い声が耳元に落ちる。


「俺の兄さんと同じ絵を描ける君は……すごいんだ……!

 君の絵の良さを、俺は、誰よりも知っている……!」


強く強く抱きしめられる。


「もう君の肌なしじゃ眠れない」


指先が、ゆっくりと背中をなぞる。


服越しでも分かる体温。


ソレイユの息が少し乱れる。


「テオ……」


首筋に、柔らかな感触。


そして、軽い痛み。


歯が触れた。


「っ……」


体が震える。


だがテオは止まらない。


首筋に唇を落とし、静かに囁く。


「……ソレイユ、描いて」


名前を呼ばれたソレイユが驚いたまま固まる。


テオは胸板を背中に密着させた。


服越しでも伝わる体温が、ソレイユの肌をじんわりと溶かしていく。


「……もう」


低い声が耳元に落ちる。


「ずっと、一緒だ」


指先が、ゆっくりと背中をなぞる。


「ぁ……っ」


息が熱い。吐息が首筋にかかるたび、ぞくりと甘い痺れが走る。


「テ、オ……」


泣いているように濡れたソレイユの声が掠れる。


テオの感情が流れ込んでくる。


甘い。


寂しい。


優しい。


不安。


嬉しい。


愛しい。


様々な感情が混ざり合う中、ソレイユはそれをキャンバスに描いた。


テオは答えず、首筋に唇を落とす。


柔らかな感触のあと、鋭い痛み。


歯が浅く食い込み、吸い上げるようにされるだけで。


「っ……あ」


勝手に体が震える。


テオのすることは何もかもが研ぎ澄まされて。


それなのに世界が静かになる。


魔法の力だけではない。


彼の強い感情にソレイユもつき動かされている。


筆を握る指が白くなるほど力を込めて


ソレイユは筆を動かし続けた。


彼といると世界が澄み渡る。


だから、画家として彼を拒めない。


「逃げたいなら言ってくれ」


腕がソレイユを優しく引き寄せる。


重く狂おしいほどの感情が布越しに伝わってくる。


「……君は最高の画家だ」


ソレイユの手は、テオの言葉に動かされるまま


筆を動かしていた。


息が揺れる。


胸が熱い。


頭がぼんやりする。


それでも――。


キャンバスから目を離せない。


後ろからテオに抱きしめられたまま


息を乱して筆を走らせる。


色を重ねる。


黄。


青。


赤。


激しく。


濃く。


まるで燃えるテオの瞳のように。


テオの腕の中で、ソレイユは喘ぐように息を吐きながら――。


それでも描き続けた。


その夜、キャンバスに生まれた色は、今までで一番、狂おしく。


息づく呼吸を感じられるかのように輝いていた。


テオはそれを見て、静かに笑った。


「やはり君は」


ソレイユの髪に口づけながら、熱い吐息を吹きかける。


「俺の知る、最高の画家だ」


---


第五話 王家の引き抜き


それは、冬の朝だった。


王家の紋章が刻まれた封蝋。


重い羊皮紙。


それがテオの机の上に置かれていた。


ソレイユはそれを見て、首を傾げる。


「……手紙?」


テオは答えない。


ただ、じっと封書を見つめていた。


まるで、触れたら壊れるもののように。


やがてゆっくり息を吐き、封を切る。


読み終えたとき。


テオの指は、わずかに震えていた。


「……テオ?」


ソレイユが心配そうに声をかける。


テオは少しだけ目を閉じた。


それから、手紙を握りしめる。


紙がくしゃりと歪む。


悔しそうに。


苦しそうに。


そして――それをソレイユへ差し出した。


「……読むといい」


ソレイユは受け取る。


しわくちゃになった羊皮紙を広げた瞬間。


目を見開いた。


「え……?」


震える声が漏れる。


「僕が……」


文字をもう一度確認する。


信じられないというように。


「宮廷画家?!」


王宮からの正式な要請。


王の肖像画制作。


宮廷所属画家への推薦。


夢みたいな内容だった。


ソレイユの胸が激しく鳴る。


だが。


視線を上げると、テオは笑っていなかった。


むしろ――どこか、遠い顔をしていた。


「行くなと言いたいのは山々だが……」


低い声。


静かな諦めが滲んでいる。


「これが君の才能に対する正しい評価だ」


ソレイユは戸惑う。


「でも……」


「行け、ソレイユ。国が君を認める大仕事だ」


テオは遮った。


その言葉は、思っていたよりも冷たかった。


「こんな」


一瞬だけ、声が詰まる。


「もう、金を失った男なんて忘れていい」


ソレイユの胸が痛む。


テオは笑った。


だがその笑みは、ひどく歪んでいた。


「俺のことなんて」


ゆっくり言う。


「踏み台にしていい」


ソレイユは知らない。


この推薦状が――。


テオの最後の財産で作られたものだということを。


残っていた土地。


屋敷の権利。


宝石。


すべてを手放し、王宮へ寄付し。


その代わりに手に入れた推薦。


テオは、もうほとんど破産寸前だった。


それでも。


ソレイユには言わない。


その夜。


二人は、長い時間言葉を交わせなかった。


ただ同じ部屋にいて。


同じ空気を吸って。


それだけで胸が苦しくなる。


ベッドの上で、ソレイユが小さく呟いた。


「今日だけは……離れたくないよ。テオ」


その声は、震えていた。


テオの瞳が揺れる。


そして、ソレイユの体を引き寄せた。


強く。


まるで離さないみたいに。


体温が重なる。


「……嫌なら言え」


低い声が落ちる。


「俺は君を」


額が触れる距離。


「ちゃんと迎えに行く」


緑の瞳が、真っ直ぐに見つめる。


「分かってるだろう?」


ソレイユの胸が締めつけられる。


テオの声が、耳元で甘く囁いた。


「もう」


息がかかるほど近くで。


「君なしじゃいられないんだ」


ソレイユの視界が滲む。


胸が熱い。


苦しいのに、幸せで。


「……うん」


ソレイユが小さく頷いた。


テオの指が頬を撫でる。


口づけが落ちる。


ひとつ。


ふたつ。


そして――深く。


時間を忘れるほど。


夜が更けても、二人は離れなかった。


言葉はいらなかった。


ただ。


互いの温もりを確かめるように。


何度も、何度も。


唇を重ねた。


テオの魔法の力で彼の感情がソレイユに流れ込んでくる。


息が詰まるほど甘く、少し苦かった。


やがて窓の外が白み始める。


別れの朝が近づいていた。


それでも。


誰も、何も言わなかった。


ただ一つだけ確かなことがあった。


この別れは――終わりではない。


テオは必ず迎えに来る。


そう、自分に誓ったのだから。


---


第六話 宮廷画家と孤独


宮廷画家のアトリエは、さすがに広かった。


高い天井。


大きな窓。


最高級の絵具と筆。


画家にとっては夢のような場所。


そして――。


ソレイユにとっては、牢獄のような場所だった。


「素晴らしい色だ」


王の侍従が頷く。


「さすが宮廷画家」


貴族たちは満足げに笑う。


ソレイユの描いた肖像画は、王宮で絶賛された。


だが。


その言葉は、どこか遠くで響いているだけだった。


心が、ついてこない。


キャンバスの中の色は美しい。


だが――。


何もかもが空っぽだった。


やっぱり、テオがいないと世界の何もかもがうるさい。


今まで受けた逆の評価が、賞賛の隙間から聞こえてくる。


うるさい。うるさい。うるさい。


何度も抱えてきた幻聴で頭がおかしくなりそうになる。


筆を動かしながら、ソレイユは思う。


テオなら、なんと言うだろう。


この色を見て。


この線を見て。


「いいじゃないか」


そう笑うだろうか。


それとも。


「まだ足りないな」と言うだろうか。


胸の奥が痛む。


描くものすべてに――。


テオの影が宿る。


だが宮廷の画家たちは、それを許さなかった。


王が去った後、容赦ない言葉がソレイユに降り注ぐ。


「なんて色だ、荒すぎる」


「宮廷画家らしくない」


「もっと抑えろ」


「もっと整えろ」


「宮廷画家としての自覚を持て」


先輩画家たちの言葉が、毎日何度もソレイユを縛る。


自由だった色は、少しずつ縛られていく。


そのたびに。


胸の奥に、重いものが溜まっていく。


寂しさ。


怒り。


焦燥。


そして――。


テオに抱きしめられたいという衝動。


ソレイユは歯を食いしばる。


描いて。


描いて。


描いて。


全てを忘れようとした。


だがその色は、以前とは変わっていく。


より激しく。


より暗く。


どこか狂気を帯びた輝き。


宮廷の画家たちは、顔をしかめる。


「不穏だ」


「狂っている」


絵を描くことを辞めろと何度も言われた。


でもソレイユは謝ることしかできない。


「すみま……せん……」


全てをぶちまけることができる時間を失うことができなくなっていた。


朝も昼も夜も。


絵を描くことが止められなかった。


絵の中に、感情が溢れていく。


テオがいない寂しさ。


触れられない孤独。


胸を焼くような愛情。


「会いたいな、会いたいよ……」


ひとりアトリエの中でキャンバスの前に崩れ落ちる。


「こんな奴を宮廷画家にするために

 王家に金を詰んだ皇太子様が哀れで仕方ない」


幻聴かもしれない。


でも、その一言はソレイユの心を折るのに十分だった。


ぱきり、と。


心無い誰かの一言で心が折れた。


その日から、ずっと。


寂しさが、狂気が、すべて――色になって現れてしまう。


その頃。


王都の下町。


一人の男が古い画廊で客を呼び止めていた。


自分と同じ、赤毛の男。


燃えるような緑の瞳を持った。


かつて皇太子だった男。


「どうだ」


キャンバスを掲げる。


「これは今、宮廷画家になった男の初期作品だ」


客は驚く。


「宮廷画家の?!」


「そうだ」


テオは笑う。


「将来、必ず値が跳ね上がる」


実際、それは本当だった。


ソレイユの昔の絵。


向日葵。


星空。


麦畑。


それらを、テオは売りさばいていた。


最後の資産も。


屋敷も。


土地も。


すべて消えていた。


それでも。


テオは迷わない。


夜、誰もいない画廊で、静かに呟く。


「ソレイユを世界に認めさせる」


拳を握る。


「そのために、俺は正しい価格で君の絵を売る」


それが、テオのすべてだった。


同じ夜。


王宮のアトリエ。


貴族の肖像画を描いている最中だった。


筆が止まる。


ふいに、手が震えた。


ぽとり。


筆が床に落ちる。


侍従が驚く。


「ソレイユ様?」


だがソレイユは聞こえていない。


キャンバスを見つめたまま、呟いた。


「……テオ」


胸が痛い。


息が苦しい。


「君がいないと」


震える声。


「色が死んじゃう……」


ソレイユはゆっくりとナイフを手に取った。


誰も止める前に。


指先を浅く切る。


赤い雫が落ちる。


それを。


絵具皿へ混ぜた。


侍従が息を呑む。


だが、ソレイユは微笑んだ。


どこか、安らいだ顔で。


血の混ざった赤を筆に取り。


キャンバスへ走らせる。


その色は――今までで一番。


生きていた。魔力を放つ、美しく匂い立つ絵画。


ソレイユの持つ力が絵に宿った瞬間だった。


まるで祈るように。


ソレイユは絵ではなく虚空を眺めていた。


うるさかった幻聴は凪いで、テオの声だけがする。


「うん、これでいい……よね、テオ」


夢見心地なソレイユの声が優しくそう呟く。


筆が震える。


「大丈夫だから、僕もテオのこと死なせない……。

 だって、絵が死んじゃったら……テオも死んじゃうから。

 これで、いい……んだ……」


今度こそ、筆が落ちる。


倒れるソレイユを侍従が慌ててベッドへ運ぶ。


もうずっと絵だけを描き続けていたソレイユはやせ細っていた。


限界などとうに超えていた。


その時。


遠く離れた街で。


テオは、ふと夜空を見上げていた。


理由もなく。


胸騒ぎがした。


まだ二人は知らない。


この狂気の色が、やがて運命の再会を生むことを。


---


第七話 血の色の再会


王宮の噂は、すぐに街へ流れた。


「宮廷画家が狂ったらしい」


「横になったまま絵を描いている」


「血を絵の具に混ぜているとか……」


その話を聞いた瞬間。


テオの顔色が変わった。


「……その画家は今どこに居るんだ?!」


低い声で問い詰める。


「王宮のアトリエにベッドを持ち込んで描いているらしい……狂ってる」


その言葉を聞くや否や、テオは駆け出していた。


石畳を蹴り、門をくぐり、階段を駆け上がる。


衛兵が何か叫んだが、聞こえない。


胸の奥で、嫌な予感が暴れている。


「ソレイユ……!」


扉の前で足を止める。


息を整える暇もなく、勢いよく開いた。


その瞬間。


強烈な色が目に飛び込んできた。


キャンバスいっぱいに広がる、狂おしい赤。


絵に広がる花から匂い立つ甘い香り。


ソレイユの力は彼の命を削って生まれたものだと一瞬で分かる。


その前で――。


ソレイユが横たわりながら筆を走らせていた。


痩せ細った体。


乱れた赤毛。


そして。


絵の具皿に、赤い雫を落としている。


自分の血だった。


「ソレイユ、やめるんだ」


テオの声は、震えていた。


「やめてくれ……!」


ソレイユの手が止まる。


ゆっくり振り向く。


そして、目を見開いた。


「……テオ?」


その瞬間。


筆が止まった。


ソレイユは立ち上がり、ふらつきながら駆け寄る。


そして――勢いよく抱きついた。


「テオ……!」


ソレイユから唇を重ねた。


最初は確かめるような口づけ。


だがすぐに泣き声に変わった。


離れていた時間を埋めるみたいに。


互いにじっと見つめ合い、キスをする。


テオはソレイユの体を強く抱き寄せた。


額を合わせ、息を整えながらソレイユに向けて


落ち着いた声で告げる。


「行こう、俺は全部捨ててきた」


ソレイユの瞳が揺れる。


「皇太子の称号も」


指先が頬をなぞり、首筋を撫でる。


「財産も」


肩を掴んだまま。


「家も」


緑の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。


「好きな場所に行こう、好きな絵を描こう。

 もう俺は一生」


低く、確かに言った。


「君だけのものだ」


その言葉にソレイユの視界が滲む。


胸がいっぱいになり、言葉が出ない。


ただ、テオの服を強く掴む。


その夜、二人は長い時間、互いを抱きしめ合った。


離れていた日々を埋めるように。


言葉を重ね、口づけを重ね、何度も名前を呼び合う。


テオの手がソレイユの頬を包む。


「あ……テオ……」


テオの唇が魔法で強く感情を伝えてくる。


心配。


安堵。


愛情。


甘く、苦く、激しい。


狂おしいほどの彼の深い様々な感情が


肉体を通じてソレイユに伝わる。


ソレイユの指が、テオの背に深く食い込んだ。


そして震える声でソレイユがテオに囁く。


「テオがいないと、世界がうるさくて……壊れそうだった」


涙が頬を伝う。


「君がいないと」


息が詰まる。


「僕……死んじゃうよ」


テオはその髪を撫で、静かに抱きしめた。


「死なせない」


迷いのない声。


「絶対に」


ソレイユはテオの胸に顔を埋めた。


離れていた孤独。


胸を裂く寂しさ。


それを、ようやく分かち合える。


夜はゆっくりと更けていく。


二人はただ、抱き合っていた。


失った時間を、肌と肌で、熱と熱で、取り戻すように。


そして。


その夜、ソレイユが描いた絵は――。


あのアトリエで抱き合いながら描いた時の絵以上に。


激しく。


美しく。


匂い立つ美しい色彩。


まさに、生きた絵画。


彼は無意識にまた新たな芸術を作り上げていた。


---


最終話 海と永遠の約束


狂人と噂されたソレイユが


王宮を離れるのにそう時間はかからなかった。


王宮を去った日、空は驚くほど青かった。


宮廷画家の肩書きも。


王都の名声も。


ソレイユはすべて捨てた。


隣にテオがいる。


それだけでよかった。


二人は王都を離れ、海へ向かった。


どこまでも続く水平線。


夏の光。


潮の香り。


波が静かに砂浜を洗っている。


ソレイユは靴を脱ぎ、裸足で海へ駆け出した。


「冷たい!」


振り返って笑う。


その笑顔は、王宮にいた頃よりずっと自由だった。


テオはゆっくり歩いてくる。


「そんなに走ると転ぶぞ」


言い終える前に。


ソレイユが抱きついてきた。


「……ふふっ」


勢いのまま、二人は砂浜に倒れ込む。


空が眩しい。


波の音がすぐ近くで響く。


ソレイユの赤毛が砂に散らばる。


テオはその頬を撫でた。


「……本当にいいのか」


静かな声。


「宮廷画家の地位を捨てて」


ソレイユは迷わなかった。


「いい」


即答だった。


そして、テオの首に腕を回す。


「だって」


笑う。


太陽みたいに。


「テオが居ない。僕には向いてなかった」


波が二人の足に触れる。


潮風が髪を揺らす。


テオはソレイユの体を抱き寄せた。


強く。


確かめるように。


「俺の隣が」


低く呟く。


「居場所だと思ってくれたと思っていいのか?」


ソレイユの胸が熱くなる。


太陽の光が、二人の肌を照らしている。


汗ばんだ肩。


絡まる腕。


鼓動が重なる。


ソレイユは息を弾ませながら笑った。


「うん……テオの隣が、僕の居場所」


緑の瞳が輝く。


「テオが居たら、僕は永遠に描ける、それをテオが売ってよ。

 何度でも僕は君のためなら新しい絵を描けるって、分かったから」


その言葉を聞いたとき。


テオの胸にあった、長い後悔が――ようやくほどけた。


前世で守れなかった才能ある画家。


救えなかった唯一の兄。


本当に狂って独りで命を絶たせてしまった。


その後悔の罪は、生まれ変わっても


テオの中でずっと消えなかった。


だが今、腕の中には、楽しく笑い。


彼と同じ色彩で絵を描き続けるソレイユがいる。


温かい体。


確かな鼓動。


テオはその額に口づけた。


「もう」


静かに言う。


「傍を離れない、共に生きよう」


ソレイユは頷いた。


それから、また軽いキスをして小さく笑った。


その日からソレイユは二度と、自分の血を絵の具に混ぜることはなかった。


必要なくなったからだ。


彼の絵は。


もう――そんなことをしなくとも


匂い立つ、見ただけで鮮烈に香る色彩を持っていた。


そう、生きた絵を彼は剣と魔法の世界で新たに編み出したのだ。


異世界の王宮美術館には今も一枚の絵が飾られている。


海。


夏の光。


波間で笑いながら抱き合う、二人の男。


燃えるような赤毛。


太陽のような黄色。


そして。


深く輝く緑の瞳。


その絵の題名は――『永遠の太陽』。


説明文には、こう書かれている。


すべてを捨ててまで選んだ恋。


二人の命の証。


絵の中で、二人は今も笑っている。


絵を見たものは皆、息を呑む。


夏の潮騒。


太陽の下で、永遠に生き続けている二人を見たような衝撃を受ける。


ソレイユの絵の感動はどの画家をも凌駕する。


彼の絵は評価され続ける。


熱も、愛も、狂気も、全てを込めた画家は


まだ異世界のどこかで気ままに


絵を描き続けているという。


一流の専属画商一人だけを連れて新作を出し続けている旅する画家ソレイユ。


彼らが留まる場を知るものは誰もいない。


残るのは彼らが留まった地で描かれた絵画だけ。


眩しく、美しいその色彩は描けば描くほど輝きを増し続けている。


コレクター達は彼の新作を心待ちにするが


誰も行方を知らない。


ただ、残された絵を頼りに彼らの見た景色を知り、


その眩しさに息を呑む。


彼らを止めるものはもう、何もない。


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