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依代の君と望まれぬ花嫁の幸福論  作者: 立藤夕貴
4話 秘匿の告白
19/33

4ー1

 婚姻を結んで約一ヶ月半。


「……これはなんですか?」


 朝食を前にして結月が渋い顔をする。見慣れない料理を目にしたときのお決まりの反応である。


「苦瓜の炒め物です。名前通り苦味のある瓜なんですが、いい食材なんですよ」


 怪訝(けげん)そうな表情をして結月が席に座る。紫乃とカナエが続けて腰を下ろし、朝食が始まった。

 食事を取りすぎると仕事に差し支えるという理由から、朝は一汁一菜だ。今日は白いご飯に玉ねぎとじゃがいもの味噌汁、そして苦瓜の炒め物だ。苦瓜は苦味が抑えられるよう、豆腐と卵と一緒に炒めている。

 苦瓜の炒め物を一口食べた直後、結月の眉間に(しわ)が寄る。苦瓜の苦味は独特だ。わたを十分に取ったとはいえ、初見には刺激的な味だろう。市場にあるのを見かけて思わず買ってしまったのだが、さすがに尖りすぎた食材だったかもしれない。しかし、当の結月は文句を言うわけでもなく、黙々と口を動かしていた。


「結構苦いですね。でも、私は好きですよ」

「ありがとうございます。私も好きなんです」


 カナエとは食の好みが似ているらしく、好意的な意見をもらえていた。屋敷ではカナエと分担して家事を行っているので、ずいぶん距離が縮まったと思う。結月が言葉数少ないので和気あいあいとはいかないが、嫁いできた当初と比べてずいぶんと和やかな空気だ。


「先ほどいい食材と言っていましたが、具体的にはどういうものなんですか?」


 食事を終えて茶で一息ついていたとき、結月からそんな言葉が投げかけられた。

 知的好奇心が刺激されるのか、気になったことがあると結月から質問をしてくれるようになっていた。純粋に興味を持ってもらえることが嬉しくて、つい笑みがこぼれる。


「夏は体に熱が(こも)りがちになります。その熱を取ってくれる食材なんです。夏野菜は体を冷やすものが多いんですが、これは特に強い作用があるんです。ここ数日は特に暑かったので使ってみました。あと、苦味成分には健胃効果があります。ただ寒性が強いので、結月様は頻繁には食べられない方がいいと思います」


 腑に落ちたようで、結月はなるほどと相槌を打った。いつもより表情が柔らかく見える。それが気のせいではないと思いたい。

 食事を工夫している影響が出てきているのか、結月の食事量も増えてきていた。始め微妙そうに受け取った薬も体にあっているのが実感できたのか、続けて飲んでもらっている。湯船には体を暖める作用のあるヨモギ、カミツレ、生姜などを単体で使用したり、組み合わせたりしていた。初めは何を入れているのだと(いぶか)しがられていたが、カミツレは気に入ってもらえたらしく、香油なども併用していた。


 結月の好みもだんだんと分かってきた。どちらかと言うと肉より魚の方が好み。野菜類は好き嫌いなし、なめこは苦手。意外と甘党で夕凪亭の最中が好き。たまに縁側で夜空を眺めている姿があったので、天体観測が好きなのかもしれない。

 体調不良であまりできていなかった屋敷での稽古も行えるようになっていた。討伐隊に入っていたのだから当たり前なのかもしれないが、素人目でも彼の身のこなしは卓越していた。


 一方で、紫乃は天宮家の命があり、訓練のために討伐体本部へと足を運ぶことになった。結月としては紫乃に異能を使わせる気はないのだろうが、天宮家としてはそうはいかない。それは結月も分かっているようで、不承不承ながらも紫乃を送り出した。

 帰りは屋敷まで識が付き添ってくれることがあり、そんなときはどこかしらの銘菓を買って帰った。識と一緒に屋敷に戻ると、結月が気難しそうな顔をしているのが気にかかったが、踏み込んではいけない領域ではないかと思うと触れようという気持ちにはなれなかった。


 そんな経緯から、紫乃は今日も禍弥討伐隊の本部へ向かうことになっていた。基本的に訓練は午前か午後の半日。担当は持ち回り制で、女性陣を中心に暁斗の部下が訓練の手伝いをしてくれることになっている。暁斗と同じ部署のため、識と訓練することもあった。

 今日の成果は残念ながらなしだった。相性の良し悪しは思った以上に難儀だ。心の中でため息をついていると識が応接間にやってきた。今日の訓練を共にしてくれて、送迎の護衛も兼ねてくれていた。非番だというのに付き合ってくれているのから、申し訳がなかった。


「お疲れ様です。それじゃあ、戻りましょうか」

「いつもありがとうございます」

「いえいえ。いつも兄様たちの無茶ぶりに応じてくれて、こっちが申し訳ないぐらいです」


 馬車の車窓から帝都の街並みを眺める。帝都の中央は華やかだ。和装の人と洋装の人が入り乱れ、様々な色が通りにあふれている。建てられたばかりの洋館では華やかな催しが行われているようだ。こうして馬車に乗って出かけることが当たり前になっているのが不思議で落ち着かない。

 徐々に喧騒から離れ、街は落ち着いた雰囲気に変わる。帝都の端に位置する結月の屋敷の周りに来れば静かなものだ。


 玄関に置かれている草履を見て、識が露骨に眉を寄せた。紫乃は折が悪かったなと苦笑いをこぼす。識はそのまま屋敷の中へと入っていった。

 客間に行くと、結月と茉莉花が座卓に並んで座っていた。しかも、茉莉花が体をしっかりと結月に寄せて手を握り合っているものだから、識の眉間の皺が更に寄る。


「なんで茉莉花さんがいらっしゃってるんですかねー?」

「あら、わたしはきちんと当主様のご依頼があって、こちらへ来ているだけですけど?」

「……あのクソ親父め」


 茉莉花の返答でおおよその事態を察したのか、識は悪態をついた。

 茉莉花が屋敷に来ているのは彼女が言う通り、天宮家当主から命があったからだ。茉莉花は各個人の能力を強化する異能があり、以前から結月を援助するために定期的に訪れていた。それが結婚後も変わらずに続けられているだけなのである。

 しかし、距離が近いというのは紫乃も薄々感じていた。識は改めて結月と茉莉花を眺めて、目を細める。


「異能の補助なら、そんなにくっつく必要ないんじゃないですか?」

「わたしの異能は紫乃さんと同じで、対象者との同調が不可欠ですから。別に不自然なことじゃないです」


 それは半分事実で、半分嘘。接触していたほうが異能の効果が上がるが、気の流れを上手く感知できるなら離れていても別段問題ない。


「……っていうかそれ、兄上が紫乃様に異能を使ってもらえば、しなくて済みますよね?」


 識から指摘を受け、茉莉花の顔に苛立ちが滲む。あえて触れてこなかった部分に容赦なく触れられて、紫乃は身を固めた。当の結月は何も言わない。識はそんな結月をじとりと見据える。数秒の沈黙を経て、結月は静かに口を開いた。


「……当主様の判断だ。僕に物申す権利はない」


 結月の返答に識は目を見開いてから、眉を吊り上げた。


「へー、ふ――ん。……そう」


 識は横に立っている紫乃の腰に手を回して、体に引き寄せた。識の腕の中で紫乃は一切の動きを止め、同時に結月の表情が固まった。


「じゃあ、例えば護衛を任されている俺と紫乃様が買い出しに行ったとしても、何も問題ないわけだよね? そういうことで、俺と紫乃様は出かけてくるから。じゃあね、兄上」

「……識!」


 慌てて結月が席を立ったが、既に遅い。

 識は舌を出して背を向け、紫乃を連れて颯爽と歩き出す。腰を抱かれたまま識に連れ去られる形で紫乃は屋敷を後にした。外に待機させていた馬車で二人は禍弥討伐隊の本部まで戻る。


「もうこうなったら、今日はとことん遊びましょう」

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