第4話 Hand in Hand -2
ここまで書き溜め分。
扉を開けた先のホールの中央に、巨大な人型の石像が鎮座していた。
全身が鋼鉄の装甲に覆われ、その手には大きなハンマーが握られている。
『アーマード・ゴーレム』。
このダンジョンのボスだ。
「ミナ。ヘイトは絶対にお前には向けない。安心して支援してくれ」
「はい! 回復は任せてくださいっ!」
ミナが後方へ下がると同時に、ゴーレムがゆっくりと立ち上がった。地を揺らすような重い足音が響く。
「アイギス!」
ミナが俺にバフをかける。
淡い光が身体を包み、防御力が上昇する感覚。
「ゴァァァァ!!」
咆哮と共に、ゴーレムが巨大なハンマーを振り下ろす。
俺はトリガーを引き、爆発の反動で横へスライド。
ハンマーが地面に叩きつけられ、石床が激しく抉れる。
衝撃波と破片が飛んでくるが、今は止まらない。
「シェル・スライド……!」
スキルを発動し、連続で爆発を起こしながらゴーレムの懐に滑り込む。
ドォンッ! ドォンッ!
装甲に斬撃を叩き込む。
ガキィン! ガキィン!
だが、硬い。
予想以上に防御力が高く、ダメージが通りにくい。
「グレアム!」
ミナの光弾が、俺が斬りつけた装甲の同じ箇所に直撃する。
亀裂が入り、装甲の一部が砕けた。
「いいぞ、ミナ!」
ゴーレムが咆哮を上げ、再びハンマーを振るう。今度は横薙ぎ。
範囲が広く、完全には避けきれない。
ドォンッ!
あらかじめミナが掛けてくれたアイギスのおかげで、ダメージが抑えられる。
しかしそれでも、衝撃波の端が俺を掠めただけでHPが一気に削られた。
「ヒール!」
ミナの回復魔法が俺を包み、削られたHPが瞬時に戻る。
このタイミング、完璧だ。
「助かる!」
ゴーレムは再び攻撃態勢に入る。両手で持ったハンマーを地面に叩きつけようとしている。
胸部の装甲――その奥に魔導コアがあるはずだ。あそこを割らなければ、倒せない。
「ミナ! セフィラを掛けてくれ。少し強引に奴の装甲を割る!」
「……わかりました!」
ミナは一瞬躊躇したが、すぐに俺にセフィラを掛ける。
緑色の光が身体を包み、継続回復が始まる。
「いくぞ……!」
再びスキルを使い、ゴーレムの懐へ。
ゴーレムのハンマーが同時に振り下ろされる。
完全な範囲攻撃――避けられない。
ドガァァンッ!!
振り下ろされたハンマーがホール全体を揺らす。
俺の身体に衝撃が走り、HPバーが一気に半分以下まで削られた。
「ジンさん!!」
ミナの悲鳴が聞こえる。
だが、まだだ。
セフィラが俺のHPをじわじわと繋ぎ止めてくれている。
そして何より――。
「この距離なら……!」
ゴーレムの攻撃モーション直後の硬直。
その一瞬の隙に、俺は胸部装甲へ全弾を叩き込む。
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!!
連続する爆発が、亀裂の入った装甲を内側から押し広げる。
最後の一発。
シリンダー内に残った全エーテルを、ゼロ距離で爆発させる。
ドォォォンッ!!
装甲が砕け散り、内部の魔導コアが露出した。
青白く輝く、ゴーレムの心臓部。
「今だ!!」
「グレアム!!」
ミナの光弾が、露出した魔導コアへ一直線に飛んでいく。
完璧な狙い。完璧なタイミング。
ドガァンッ!!
光弾がコアに直撃し、内部から眩い光が溢れ出す。
ゴーレムの巨体が震え、動きを止めた。
「ゴ……ァ……」
最後の咆哮を残し、アーマード・ゴーレムは光の粒子となって崩れ落ちた。
ダンジョンに再び静けさが戻る。
「やった……やりました、ジンさん!!」
ミナが駆け寄ってきて、嬉しそうに声を上げた。
「ああ、完璧だったぞ。最後のグレアム、見事だった」
「でも、ジンさんが装甲を割ってくれたから……! 大丈夫ですか!?」
ミナが心配そうに俺のHPバーを確認する。
セフィラの効果もあり、既に7割ほどまで回復していた。
「お前のセフィラのおかげで、強引に攻められた。ありがとな」
「私……ちゃんと役に立てましたか?」
「当たり前だ。お前がいなきゃ、俺は途中で死んでた。それに、とどめを刺したのはお前だ」
ミナはその言葉を聞いて、ぱぁっと顔を輝かせた。
「ありがとうございます……!」
ドロップアイテムが俺たちのインベントリに吸い込まれていく。
中には『ゴーレムの魔導コア』というレア素材も含まれていた。
「おっ、いいのが出たな。これ、装備強化に使えるぞ」
「本当ですか!? じゃあ、ジンさんが使ってください!」
「いや、半分はお前の取り分だ。ちゃんと分けよう」
「そんな……でも……」
ミナは遠慮がちに言ったが、俺は首を横に振った。
「パーティーってのは、対等な関係で成り立つもんだ。お前も俺も、同じだけ貢献した。だから、平等に分ける」
「……はい! ありがとうございます!」
ミナは嬉しそうに頷いた。
ダンジョンを出て、ルミナスエデンの広場へと戻る。
ゲーム内時間は夕方に差し掛かり、街は黄昏時の柔らかな光に包まれていた。
魔導灯が一つ、また一つと灯り始め、噴水の水面がオレンジ色に輝いている。
俺たちは広場の端、いつもの噴水の縁に腰を下ろした。
「ジンさん……」
ミナがおずおずと口を開いた。
「今日、凄く楽しかったです。……初めて誰かと息が合った気がします」
「俺もだよ。ここまで合わせてくれるヒーラーは初めてだ」
実際、今日は想像以上にスムーズだった。
最初の雑魚戦から最後のボス戦まで、ミナの判断は的確で無駄がなかった。
その後、俺たちは『風化した要塞』を何度か周回した。
一度目よりも二度目、二度目よりも三度目と、連携の精度は確実に上がっていった。
ミナのバフのタイミングはより早く、攻撃魔法の狙いはより正確に。
俺も、彼女がどう動くかを予測しながら立ち回れるようになっていた。
「何回か回ったけど、どんどん楽になっていったな」
「はい! 最後の方は、ジンさんが何を考えているか分かるようになってきました」
「俺もだ。お前がどこにバフを撃つか、何となく分かるようになってきた」
ミナは嬉しそうに笑った。
「これからも……一緒に冒険してもいいですか?」
ミナの瞳には、真っ直ぐな光が宿っていた。
「ああ、もちろんだ。次はもっと難しいダンジョンに挑戦しよう」
「はい!!」
ミナが満面の笑みで頷く。
その笑顔を見て、俺は思った。
このゲーム、やっぱり一人より誰かと一緒の方が楽しいな、と。
「そろそろ時間だな。また明日」
「はい! おやすみなさい、ジンさん!」
メニューを開き、ログアウトボタンを押す。
視界が白く染まり、意識が現実世界へと引き戻されていく。
ヘッドギアを外し、ベッドの上で大きく息を吐いた。
時計を見ると、24時を少し過ぎたところだ。
「……悪くないな、こういうのも」
小さく呟いて、満足げに目を閉じた。
明日も仕事だ。
だが、また夜になれば、あの世界で彼女と冒険ができる。
そう思うだけで、少しだけ明日が楽しみになった。




