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第3話 Hand in Hand -1


昼休みのオフィス。

デスクに置いたコンビニ弁当をつつきながら、俺はスマホの画面を見ていた。

表示されているのは『エーテル・レガリア』の動画サイトだ。

『AR 8人レイドをガーディアンでソロ耐久してみた』というタイトルの動画が再生されている。

動画の中では、盾を持ったいかにも騎士然とした見た目のプレイヤーが、パリィと持ち込みの回復薬でレイドボスの攻撃を耐えていた。

その様はまるで要塞のようだ。

巨大な斧が振り下ろされる直前、ガーディアンは盾を構える。

タイミングは完璧。

ガキィン、という重厚な金属音と共に、レイドボスの一撃が弾かれた。


「……化け物かよ」


思わず呟く。

HPバーはほとんど減っていない。

パリィ成功のタイミングで、ダメージがほぼ無効化されているのだ。


「耐久型だからこそか……」


ARの特性上、この動画のようなプレイヤーは思ったよりも少ない。

このゲームは第4世代神経接続――通称『シンクロ・リンク』を採用している。

プレイヤーの身体感覚や反射神経がダイレクトにアバターへ反映される代わりに、恐怖心や焦りもそのまま伝わるのだ。

どれだけ頭で理解していても、巨大なボスの攻撃を目の前にすれば、本能的に身体が硬直する。

完璧なパリィなど、理論上は可能でも、実戦で何十回も連続で成功させるのは至難の業だ。

それを成し遂げている動画の主に、素直に感嘆した。


「さすが、ガーディアンのトップ層だな……」


動画のコメント欄も「神プレイ」「これぞタンクの鏡」「完璧なプレイ」などの賞賛で溢れている。

関連動画には他のタンクの動画が並んでいた。

『【ヴォイドナイト】魔法吸収バリアで完封!!』

『【2026最新版】タンク職tier表 初心者おすすめはこれ!』

どれも再生数が多く、高評価ばかりだ。

そして、どれも「安定」「信頼」「鉄壁」といった言葉で溢れている。


「葛城さん、またゲームの動画っスか?」


隣のデスクの後輩、田中が呆れたように声をかけてくる。


「ああ。休憩時間だし、いいだろ?」

「そうっすけど、よく飽きないっスね」

「まぁ……な」


俺は適当に返すと、田中は「はぁ」と肩をすくめて自分の席に戻っていった。

その時、画面上部に通知が表示される。


[ミナ]:「ジンさん、今日お時間ありますか?」


フレンドメッセージだ。

三日前の出会いから、毎日のように軽いやり取りはしていたが、実際に会うのは久しぶりだ。返信を打ち込む指が、自分でも驚くほど軽い。


[ジン]:「夜なら大丈夫だ。20時くらいにログインする」

[ミナ]:「ありがとうございます! じゃあ広場で待ってますね!」


即レス。

相変わらず真面目な奴だ。画面を見つめたまま、つい口元が緩む。


「……ニヤついてんスよ、葛城さん」

「うるさい」


俺は慌ててスマホをポケットにしまい、弁当に視線を戻した。

楽しみが出来た。

定時までに仕事を終わらそう。


夜、約束の時間になる少し前。

自宅のベッドに横たわり、専用のヘッドギアを付ける。


『シンクロ・リンク、スタート』


システム音声が響き、視界が白く染まる。

次の瞬間、俺の意識は『エーテル・レガリア』の世界へと接続された。

目を開くと、そこは見慣れた『ルミナスエデン』の中央広場。

ゲーム内時間は朝を指しているのか、爽やかな青空が広がっていた。


「ジンさん!」


声のする方を向くと、噴水の前にミナが立っていた。

三日前と同じ場所。だが、その表情は別人のように明るい。


「よう、待たせたな」

「いえ、私も今来たところです!」


ミナは聖杖を背負い直し、少し照れくさそうに笑った。

そして、彼女の装備を見て少し驚いた。


「防具、変えたのか?」

「はい! 友人に相談して、動きやすさと魔法のリキャストが少し早くなるように変えてみました。前の装備だと先読みするには少々重かったので……」


そう言った彼女は少しはにかんでいた。

なるほど、強みを活かそうと自分なりに考えたんだな。


「それと……」


ミナはメニュー画面を開き、スキル構成を見せてきた。

「『アイギス』と『セフィラ』を習得しました。これなら、事前にバフをかけられるので、先読みがもっと活かせるかなって」

アイギスは防御力を上げるバフ魔法、セフィラは継続回復魔法。

どちらも事前に味方にかけておくことで、被弾時のダメージを軽減したり、後手に回らずにリカバリーできるスキルだ。


「いい判断だ。自分のスタイルを見つけてきたな」

「ジンさんのおかげです」


ミナは嬉そうに頷いた。


「それじゃあ、早速行こうか。今日はどこに行きたい?」

「えっと……『風化した要塞』はどうでしょうか? フリーダンジョンですけど、ボスが強いって聞いて……」

「ああ、アーマード・ゴーレムが出るとこだな。いいぜ、行こうか」


俺たちは街の転送ゲートへと向かった。

広場から少し離れた場所にある巨大な魔法陣。プレイヤーたちが次々と光に包まれ、各地のダンジョンへと転送されていく。


「『風化した要塞』、転送開始」


システムメッセージが表示され、俺たちの身体が光に包まれた。

視界が一瞬真っ白になり、次の瞬間には別の場所に立っていた。

『風化した要塞』は、かつて魔導技術によって栄えた古代都市の遺構だ。

石造りの通路には蔦が絡まり、所々に魔法陣の残骸が淡い光を放っている。

フリーダンジョンのため、他のプレイヤーとも遭遇する可能性がある。


「敵が来ます!」


ミナの声と同時に、通路の奥から鎧を纏った骸骨兵『スケルトン・ソルジャー』が三体現れた。


「任せろ」


俺はシリンダーカリバーを抜き、一気に距離を詰める。


「アイギス!」


ミナの声と共に、俺の身体が淡い光に包まれた。

防御力上昇のバフだ。敵と接触する前に、既にかけてくれている。


「ナイス!」


ドォンッ!


一発目の爆発で最も手前の敵を吹き飛ばし、残る二体の注意を引く。

敵が剣を振り上げた瞬間、再びトリガーを引いた。


ドォンッ! ドォンッ!


連続する爆音と共に、俺は敵の攻撃を回避しながら斬撃を叩き込む。

だが、一体目の敵の剣が俺の肩を掠めた。

と同時に、一条の光の尾がスケルトン・ソルジャーを射抜く。


「グレアム!」


ミナの光弾が、俺が斬りつけた敵の胸部へ直撃した。

HPバーが一気に削られ、骸骨兵が光の粒子となって消える。


「いい判断だ!」

「余計なことじゃ……ないですよね?」

「当たり前だ、助かる!」


前回の彼女なら、回復に徹していたはずだ。

だが今は状況を見て攻撃に回っている。

俺がどの敵を選び、どう動くのか――ミナは持ち前の洞察力だけで完璧に連携を取っていた。

思っている以上にやりやすい。これが彼女の『先読み』の力か。

俺は残る一体に斬りかかる。

その瞬間、再びミナの光弾が飛んできた。


「グレアム!」


俺の斬撃とミナの光弾が、同時に敵を捉える。

完璧なタイミングだ。

最後の骸骨兵も光の粒子となって霧散していく。


「完璧だったぞ、ミナ!」

「本当ですか!? あの、ジンさんが攻撃する瞬間に合わせれば、早く倒せるかなって……」


ミナは少し不安そうに言ったが、その判断は間違いなく正しい。


「その調子だ。お前の先読み、ちゃんと活きてる」

「はい!」


ミナの表情が一気に明るくなった。

俺たちは要塞の奥へと進んでいく。

道中、数体の雑魚敵と遭遇したが、ミナの事前バフと的確な火力支援のおかげで、スムーズに処理できた。

彼女は確実に、自分のスタイルを見つけつつある。そして――。


「ここが、ボス部屋だな」


巨大な扉の前で、俺たちは足を止めた。

扉の向こうから、重い足音が地響きのように響いている。


「準備はいいか、ミナ」

「はい!」


俺は扉を押し開けた。

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