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第4話:一方その頃、王都では「痛くない改革」が進行中(腐敗中)

 エレナが辺境の森で優雅なティータイムを楽しんでいた頃。

 王都の王城では、第一王子アルフレッドが上機嫌で朝を迎えていた。


「ああ、素晴らしい朝だ。空気が美味い!」


 アルフレッドはバルコニーで伸びをした。

 ……実際には、今朝の王都は妙に淀んだ空気に包まれており、空もどんよりと曇っていたのだが、彼の目には輝いて見えていた。

 何しろ、あの忌々しい激痛をもたらす女、エレナがいなくなったのだから。


「アルフレッド様ぁ、お目覚めですか?」


 寝室の扉が開き、新聖女ミリアが入ってくる。

 彼女はお盆に朝食と、一輪の薔薇を載せていた。


「おはよう、ミリア。君の顔を見ると、身体の不調など吹き飛ぶようだよ」

「うふふ。一応、朝の『祝福』をかけておきますね」


 ミリアが可愛らしく杖を振ると、淡いピンク色の光がアルフレッドを包んだ。

 温かい。優しい。痛みなど微塵もない。


「……これだ。これこそが聖女の癒やしだ」


 アルフレッドはうっとりと目を細めた。

 最近、少し身体が重い気がするし、肩も凝る。古傷が妙に疼くこともある。

 だが、ミリアの魔法を浴びれば、その不快感は一瞬で()()して消えるのだ。


「エレナの時は酷かった。朝の挨拶代わりに浄化を撃たれて、全身に電流が走ったからな。『昨日の公務で拾った邪気を払います』などと言って」

「まあ、信じられません! そんな乱暴なこと、私なら絶対にしませんわ」

「だろう? やはり追放して正解だった」


 二人は甘い雰囲気で朝食を摂り始めた。

 しかし、アルフレッドはふと眉をひそめた。


「……おい、このスープ。味が変じゃないか?」

「えっ? 料理長が作ったものですけど……」

「なんかこう、()えた臭いがするというか……舌がピリピリする」


 アルフレッドはスプーンを投げ出した。

 最近、城の食事が不味い。

 それだけではない。廊下の隅には埃が溜まりやすくなったし、飾られている花は半日で枯れる。

 使用人たちも、どことなく顔色が悪い者が増え、城全体に活気がない。


 以前はエレナが、城中を歩き回りながら広域浄化をかけ続けていた。

 食材に含まれる微毒、建材に湧くカビ、人々のストレスや疲労から生じる()()()()。それら全てを、彼女が人知れず焼却していたことなど、アルフレッドは知る由もない。


「料理長を呼べ! 食材の管理がなっていないぞ!」

「アルフレッド様、落ち着いてください。きっと、エレナお姉様が出ていったせいで、使用人たちがサボっているんですわ」


 ミリアが無責任なことを吹き込む。


「なるほど、指導者が不在で気が緩んでいるのか。……まあいい。ミリア、君の魔法でこのスープを清めてくれ」

「はい! ピュア・ライト!」


 ミリアが魔法をかけると、スープから変な臭いは消えた。

 ……正確には、臭いを感じさせる成分を魔法で覆い隠しただけなのだが、見た目は綺麗になった。


「うん、これなら飲める。さすがミリアだ」

「えへへ、私にかかればこんなものです!」


 アルフレッドは満足気にスープを飲み干した。

 その一口が、体内に蓄積された毒素をさらに濃くしているとも知らずに。

 執務室に向かう廊下で、すれ違った老騎士がゴホゴホと咳き込んでいるのを見て、アルフレッドは不快そうに顔を背けた。


「なんだ、風邪か? 最近、体調を崩す者が多いな」

「季節の変わり目ですからねぇ」


 ミリアは呑気に笑っている。

 王城の地下牢に封印されている()()()()()の封印が、エレナの魔力供給を断たれて緩み始め、その瘴気が城内に漏れ出していることに、この国のトップたちは誰一人として気づいていなかった。


 崩壊へのカウントダウンは、静かに、しかし確実に進んでいた。

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