ピザ屋
ピザ職人のマッシモは、自分の焼くアツアツのピザこそ世界一だと信じている。
しかし、そのアツアツを客の元まで保つことは、どうしても難しかった。
ならば、冷める前に届けるのではなく——その場で再現すればよい。
マッシモは量子物理学を学び、ついに食品を遠隔地で再構成する現象を発見した。
後に「マッシモ共鳴」と呼ばれるこの現象は、材料さえ揃っていれば、ピザの分子振動を遠隔地へと共鳴させ、同一のピザをその場に再現するという画期的なものだ。
原理はシンプル。
「マッシモ共鳴」では食品再現の基準を水分子の共振スペクトルに置く。
水分量の少ない食品は分子配列が安定しているため、共振のブレが少なく、再現性も高い。
サラミ、チーズ、小麦粉。
どれも水分が少なく、正確に転送・再現された。
しかし、フレッシュなトマトだけは、何度試しても希望通りにはならない。
水分が多すぎて構造を保持できず、転送後にはベチャベチャのケチャップになってしまう。
「こんなモノは、俺のピザでは無い!」
マッシモは頭を抱えた。
乾燥トマトを試してみても、結果は赤い粉がピザの上に散らばるだけ。
赤い色素も正常な転送を阻害することがわかった。
トマトは——どうやっても転送できない。
マッシモは小さなメモ用紙を取り出し、こう書いた。
「トマトはご自身でトッピングしてください」
そして、アツアツのピザの上にメモを置き、転送装置を作動させたのだった。




