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3話① 「歩き続ける」

第3話です。

3人目の主人公『フミレ』の物語が始まります。

よろしくお願い致します!




 全身に伝わる、冷たく硬い木の感触。


 意識がなくても分かる。


 決して気持ちのいいものではない。


 というよりも、こんなもの要らない。

 

 いつまでもこうしていると、(むな)しくなってくる。



* * *



⚫︎フミレ

「――!!」


 フミレが目を覚ますと、視界の先にはジプトーンの海が広がっている。



⚫︎フミレ

「………………」


 どこかの建物の天井のようだ。


 今のフミレはその建物の床で(あお)向けになって、天井を見上げている形になっている。


 だが、フミレの位置から天井までの距離が凄絶(せいぜつ)なまでに長い。つまりかなり高度のある建物だということだ。



⚫︎フミレ

(何で学校で寝てるの? 

わたし……)


 現状を理解したけど状況を理解できていないフミレは、とりあえず起き上がって、周囲を確認する。



⚫︎フミレ

(…………わたしの学校…こんなに大きかったっけ……?)


 フミレがいる場所は、自身が在籍している【歌羽(うたば)小学校】の1階廊下……の端…………らしき場所。


 フミレが知る校舎の内部の雰囲気と一致しているからこそそのように思うのだが、校舎全体がゴルフ場でも作るのかと言いたくなる程、とてつもなく広くしたような光景になっているので、本当にここが歌羽小学校なのかどうかは疑わしい。


 それに、位置関係的にはそこにあるはずの教室や設備がなくなっていたりもしている。



⚫︎フミレ

「………………」


 後ろを振り返ると、細長い窓が付いたアルミ製の扉。歌羽小学校にも、この位置に同じ物が存在している。学校では非常口の役割を持っていて、普段は換気や避難訓練等以外では開けることがない扉だ。


 窓から外の様子を探ってみる。太陽の光に照らされたアスファルトの広場が見える。

学校では中庭に続いていたから、ここでもそうなのだろうか?



⚫︎フミレ

(出られる……?)


 フミレは扉を開けようとしたが、当然のように鍵がかかっていた。


 扉を開けない限り、この先には進めない。

本来なら、右手側に水道、左手側には1年生の教室があるはずだが、学校が広くなっている構造故か……それとも消滅したのかそれらは見当たらない。


 ――ならば、背後の長い長い先の見えない廊下を進むしか道はなかった。




⚫︎フミレ

「…………とりあえず、こっちに行けってこと……?」


 尋ねる相手もいない中、ぽつりとそうこぼして、フミレは孤独な昼間の学校? の廊下を進んでいく。



* * *



 フミレは首にかけていたヘッドホンを耳に装着して、ズボンのポケットに入れているiPodで音楽を聴……こうと思ったが、iPodがなくなっていたので、不満そうな顔をしながら自身の記憶を辿り始めた。



⚫︎フミレ

(結構大きな出来事があった気がするけど……。

思い出せない…………)


 記憶が戻ることもなく、特に当てもなく、ぼんやり寂然(じゃくねん)と長い廊下をジーっと歩いていると。


 目の前に飛び込んで来たのは、1つの部屋。

プレートには【理科室】と書かれている。



⚫︎フミレ

(入れる……?)


 フミレはヘッドホンを付けたまま、その部屋の戸を開ける。学校の戸と同じく、横にスライドして開けるタイプだ。



 部屋自体は、フミレが知っている学校の理科室と同じような感じだが、それよりもかなり面積が拡張されていた。



⚫︎フミレ

「何でこんなに……」


 理科用実験台の机。木製の角イス。ホースの付いた水道の蛇口。上下式の黒板。ショウケースのような棚にはビーカーやメスシリンダー、ガスバーナーなど。中にある物自体は普通の理科室なのだが、とにかく広かった。


 

 フミレが整然と並べられた沢山の棚の中を眺めながら、歩いていると。



⚫︎フミレ

「……?」


 数個となりの棚から、小さな丸い光が見えた。



 手がかりかと思って、光に近づこうとした瞬間。



 ガタン!!


 背後から激しい物音が聞こえてきた。



⚫︎フミレ

「?」


 音のした方角を見ると。部屋の隅っこ――黒板の横に、ドアノブ式の扉がぽつんと存在している。

扉には窓が付いてない。その先が何の部屋なのかはここからは見ることができないが、位置的に理科準備室だろうか?



 ガンガンガン!


 ドンドンドンドン!!


 激しい音は何度も扉の向こうから聞こえてくる。



⚫︎フミレ

(誰かいるの……?)


 フミレは棚の光もよりも理科準備室の方が気になったので、先にそちらを優先して調べることにした。




 ヘッドホンを首にかけて、フミレは理科準備室の扉を開ける。鍵はかかっていなかった。



 そこは――やっぱり広くなっていた、理科準備室。

顕微鏡や上皿天秤などの大きな器具や危険な薬品などが保管されている。



 ドンドンドタタンドン!!


 中に入ると、音の出所がはっきりわかった。


 奥で不気味に怪しく棒立ちしている人体模型だ。

人体模型の中からその音が発せられている。



⚫︎フミレ

(誰か中にいるわね……)


 節操のないその音の鳴り方は、フミレには誰かが中に閉じ込められていて、開けてくれと助けを求めているように聞こえた。



 フミレはスタスタと人体模型に歩いていく。



 ドタンドンタンタンドン!!


 その間も音は鳴り続けている。


 


 そして、難なく人体模型の前に辿り着くが。


⚫︎フミレ

(どうやって開けるのよ……)


 開け口のような物はなく、どこから開けるのかわからない。



⚫︎フミレ

(臓器の部分に手を突っ込めば、開けられるかも……)



 ドタドタドタンドッドドンタン!!!



⚫︎フミレ

(ためらっている場合じゃない……!

こんな狭い中に、誰かが閉じ込められているかもしれないのよ……!)


 フミレは意を決して、人体模型へと手を伸ばす。




⚫︎???

「ねぇねぇ……。

そんなのと遊んでないでボクと遊ぼうよ!」


⚫︎フミレ

「――!!」

 

 突然背後から声をかけられた。フミレの肩がビクッと跳ね上がり、手が止まる。


 この非常事態でも冷静だった彼女が、今までで一番の動揺をして振り向いた。


⚫︎フミレ

(気配を全く感じなかった……!

物音一つしなかった……!!)



 そこに立っていたのは。


 黄色いショートヘアで金色の瞳の、幼い顔立ちをした少女。

胸にペンダントが()われた、山吹色を基調とした魔法少女のような衣装。レモン色のブーツ。丈の短いスカート。先端に宝石が付いたステッキを担いでいる。



⚫︎クリーム

「ボク、『星影(ほしかげ) 菊根(きくね)』!

この姿は『プリティクリーム』って、言うんだよ!

よろしくね〜!!」


 彼女はにこやかに白い歯を見せて、フレンドリーに手を振ってきた。



⚫︎フミレ

「……………………」


⚫︎クリーム

「ええっ、無視(スルー)!?

ダメだよ、そういうのは!

キミも既読無視されたら怒るでしょ!」


 クリームは、フミレが警戒して返答しなかったことにひどく憤慨している。


 両手を頬に当てて、ムンクの叫びのように驚いた後に、ジト目になる一連の表情の変化が、すごくオーバーリアクションというか……わざとらしく見える。



⚫︎フミレ

(何……この子…………?

普通じゃない………敵!?)


 本能、それとも虫の知らせだろうか? 

クリームと対峙した瞬間に、フミレはそう感じてしまった。


⚫︎フミレ

(この感じ……前にも……)



⚫︎クリーム

「あ、もしかして緊張してるのかな〜?

じゃあ、緊張をほぐしてあげる!

――みんな〜、カモ〜ン!」


 クリームは虚空に向かって、ウインクと指パッチン。



 瞬時にどこから現れたのか、人魂の大群のような何かが理科準備室にあふれてくる。



 それら一つ一つはイナビカリを発した後、



⚫︎フミレ

「折り紙……?」


 菊文様(もんよう)の黄色い()()()で作られた【犬】と【猫】と【狐】の大群になった。

折り紙で作られているのは一目瞭然なのだが、犬たちのサイズはそれぞれ等身大になっていた。



⚫︎フミレ

「犬……猫……狐……」


⚫︎クリーム

「違うよ、千代紙(ちよがみ)

それに、【ゴールデンレトリバー】、【マンチカン】、【フェネック】!

せっかく可愛く作ったんだから、名称もちゃんと呼んでもらいたいな!」


 クリームは律儀にフミレの発言を全て訂正した。

だがフミレには、そんなこと心底どうでもよかった。



⚫︎フミレ

(折り紙の動物に囲まれた……。

逃げ場がない………………)


 菊の千代紙で作られた動物軍団は、ジリジリとフミレに詰め寄って来る。いつの間にか四方を囲まれてしまっていた。


 フミレは背後の人体模型をチラリと見る。


⚫︎フミレ

(標的はあくまでわたしみたいね……。

だけど………………)



⚫︎クリーム

「さあ、みんな〜!

レッツゴー〜!」


 クリームの合図と同時に、四方を囲っていた動物軍団が飛びかかってきた。



 殺意を持って襲いかかってきたというよりは、本当にジャレれようとして動物軍団が向かって来ているのが、フミレには何となくわかった。


 ……だからといって、このままされるがままでいいわけがない。



⚫︎フミレ

「っ!」


 フミレは体勢を低くしながら前方の出入り口に向かって駆け出す。動物軍団の間を縫うように繊細な動作で、包囲網を抜けていく。



⚫︎クリーム

ドロケイ(おにごっこ)!?

だったら、これでタッチするよ!」


 クリームはイナズマを宿らせたステッキを、警棒のようにフミレへと振りかざす。



⚫︎フミレ

「…………!」


 フミレはスライディングをして、クリームの股下をくぐり見事に回避。そのまま床を出入り口まで滑り続け、一気に理科準備室の外に飛び出した。


⚫︎クリーム

「ええっ!?

アンビリーバボー! 

面白いよキミ!」



 動物軍団が咆哮(ほうこう)しながら連なってフミレを追跡してくる。無機物のはずだが、クリームの指示に従うことからも意志があるようだ。



⚫︎フミレ

(追って来る……!

でも狙い通り!

わたしが理科室を出れば敵は全部こっちに来るから、人体模型の中にいる人の安全が確保できる……!)


⚫︎クリーム

「もっと遊ぼうよ〜!」


 クリームがすぐにフミレに追いつき、ステッキをかざす。


 途端に、ステッキから(しま)模様の電気が出現。

その電気は理科室を高速で飛び、瞬時に入り口に到達し、何かを形成した。



⚫︎フミレ

「っく!」


 入り口の戸が、クリームが発生させた電撃のバリケードで塞がれて、理科室から出られなくなってしまった。


 フミレは咄嗟(とっさ)に方向転換し、壁側の棚を伝うように走る。



⚫︎フミレ

(いつもの広さの理科室なら、すぐに出られたのに…………!)


 心中で悪態を吐きながら、走っていると。


 千代紙の狐が斜め後ろから飛びかかってきた。



⚫︎フミレ

「……はっ!」


 フミレは紙一重で体を転がして回避。狐はそのまま、棚のガラスに勢いよく激突。ガラスは派手に割れて周囲に飛び散った。



⚫︎フミレ

「あれは……」


 右手で受け身を取ったままのフミレの視界に、ガラスの破片の中に紛れ込む小さな丸い光が入った。

理科準備室に入る前に気になっていた光だ。



《【ラピス】、装備(イクイップ)!!》




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